第12話 少しズレがあるのかもしれない

「アアアアアアアアアッ!?」


 徒手空拳で戦う二足歩行のトカゲのモンスターが、断末魔の叫びと共に光の粒子と化して消えていく。

 無事に祠のボス、ファイティングリザードマンを撃破することができたのだ。


 レベル30の格上モンスターを倒したことで、レベルも28まで上昇した。

 さらには求めていたアビリティを入手。


―――――――――

【アビリティ】〈格闘の極意〉

―――――――――


 ここは【格闘士】専用の祠で、〈格闘の極意〉は強化していくと重要なスキルがいくつも手に入る。


―――――――――

【アビリティ】〈格闘の極意〉→〈格闘の極意+3〉

【アビリティポイント】10→4

―――――――――


 ――〈HP上昇Ⅰ〉を習得しました。

 ――〈月面蹴り〉を習得しました。

 ――〈根性論〉を習得しました。


―――――――――

〈HP上昇Ⅰ〉HPを常時20%上昇させる。

〈月面蹴り〉月面宙返りをしながら蹴りを放つ。

〈根性論〉HP0になる攻撃を受けたとき、必ずHP1で耐えることができる。クールタイム30分。

―――――――――


「よし、〈根性論〉を習得できたぞ」


 本来ならHP0で死んでしまうところを、HP1で耐え、生き残ることが可能なスキルである。


「つまるところ、これでギリギリまで戦っても大丈夫になったってことだ」







 その後、俺はもう一つ別の祠に挑戦し、そこで〈剣の極意〉を入手。


―――――――――

【アビリティ】〈剣の極意〉→〈剣の極意+2〉

【アビリティポイント】5→2

―――――――――


 ――〈攻撃上昇Ⅰ〉を習得しました。

 ――〈武器理解〉を習得しました。


―――――――――

〈攻撃上昇Ⅰ〉攻撃値を常時20%上昇させる。

〈武器理解〉武器への理解を深めることで、耐久が減りにくくなる。

―――――――――


 そうしてロンダルに戻ったところで、すぐに異変を察した。

 なにせ街の出入り口となる門から、人々がひっきりなしに出てくるのである。


 しかもどこか切羽詰まったような様子で、たくさんの荷物を抱えている者も少なくない。


「もしかして……あのイベントが発生したのか?」


 ゲーム時代のことを思い出し、俺は冒険者ギルドへと急いだ。

 すると普段は訓練用に開放されている広い中庭に、大勢の冒険者たちが集まっていた。


 筋骨隆々の大男が壇上に立ち、何かを呼び掛けている。

 確かこのギルドのギルド長だ。


「すでに聞き及んでいる者も多いと思うが、ダンジョン『岩窟迷宮』が〈迷宮暴走〉を引き起こした可能性が高い。しかも予想以上に進展が速く、恐らくそう遠くないうちに魔物の大群がこの街へと押し寄せてくるだろう」


 マジなのか、なんでそんなことに……と、ざわつく冒険者たち。


〈迷宮暴走〉。

 その名の通り、ダンジョンが暴走してしまい、普段とはけた違いの魔物が溢れかえる現象である。


 さらにこれが進展してしまうと、魔物が外にまで溢れ出してくる。

 そして溢れ出した魔物は多くの場合、スタンピードを起こして近隣の村や街に押し寄せてくるのだ。


 ごく稀にしか発生しない現象だが、過去にはこれによって滅びた街が幾つもあるとか。

 そのためダンジョンから近いところにある都市は、その暴走の兆候がないか、定期的にダンジョンの点検を行っていた。


 冒険者たちの喧騒に負けじと、大男は声を張り上げ、宣言した。


「ゆえにEランク以上の冒険者を対象に、強制依頼を発動する! このロンダルを護るため、魔物の群れを迎え撃つのだ!」


 強制依頼は、非常事態のときに発動される特別な依頼だ。

 冒険者として登録している限り、基本的には拒否することができない。


 もちろんつい先日、冒険者になったばかりの俺も例外では――


「む? Eランク以上……? 俺はまだFランクだが?」


 そこで違和感を覚える。

 実はゲームでも同様のイベントが存在したのだが、確かランク制限に引っかかるようなことはなかったはずだ。


 そういえば、このイベントが発生するタイミングは、ロンダルでのイベントをいくつかこなした後だった。

 その頃には普通に冒険者ランクもE以上になっているはずである。


「ゲームと現実の間で、少しズレがあるのかもしれない」


 話が終わり、冒険者たちが散っていく中、俺は先ほどのギルド長を捕まえて聞いてみた。


「さっきの強制依頼だが、Fランクでも参加できるのか?」

「なんだ、貴様は?」

「俺はFランク冒険者のライズだ」

「Fランク冒険者だと? はっ、Fランクなど邪魔になるだけだ! 後方支援でもしていろ!」


 そう怒鳴りつけて、ギルド長は去っていく。


「ふむ、どうしたものか。せっかくの大規模戦闘なのに、参加できないとかごめんだぞ。……まぁ、どうせいちいちランクなんて確認し、こっそり参加してもバレないだろう。……報酬はもらえないかもしれないがな」


 そして強制依頼が発動されてから、二日後のことだった。

 ゆうに五百体を超える魔物の大群が、このロンダルの街へと押し寄せてきたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る