第11話 そこまで怖がらなくても
〈暗闇のナイフ〉の『暗闇』が入る確率。
魔物によって耐性が異なるのだが、レッドキャップの場合、一回の攻撃につき10%のはずだった。
五回攻撃をすれば、一度でも『暗闇』を付与できる確率は、およそ40%。
十回攻撃をすれば、一度でも『暗闇』を付与できる確率は、およそ65%。
〈超集中〉の効果中に『暗闇』を付与できるかは五分五分といったところだったが、どうにか賭けに勝ったようだ。
〈鋼の剣〉ではなく、あえて攻撃力の低い〈暗闇のナイフ〉を使っていたのは、これを狙っていたためである。
スタンの時間はわずか5秒程度なのに対して、『暗闇』の効果時間は60秒。付与することができれば、かなり戦いを有利に進めるからだ。
『暗闇』状態となったレッドキャップは、慌てて俺から距離を取ろうとした。
「~~~~ッ!?」
だが狭いところで、しかも目が見えない状態での高速移動だ。
当然のごとく壁に激突し、レッドキャップは悶絶する。勝手にダメージを受けてくれた。
俺はクールタイムが終了した〈気配隠蔽〉を再発動すると、武器を〈鋼の剣〉に持ち替えながらレッドキャップに襲い掛かった。
必死にナイフを振り回すレッドキャップだが、視界を奪われ、こちらの気配も感じられない状態では、虚しく空を切るしかない。
もちろん〈超集中〉が切れた今、レッドキャップの攻撃モーションがほぼ見えないので、こっちとしても細心の注意が必要だ。
〈鋼の剣〉で、渾身の突きをその胸にお見舞いする。
「ギャアアッ!」
5秒間のスタン状態。
レッドキャップの残るHPは少ないはず。
ここで決めたい。
「うおおおおおおっ!!」
決着をつけるべく、俺は一気呵成に斬りまくった。
連続でスタンは取れないが、急所が胸にあるのは変わりないため、そこを徹底的に攻撃する。
「アアアアアアアアアッ!?」
そして響き渡る断末魔。
ついにレッドキャップが粒子となって消えていく。
どうにかスタンから回復する前に、HPを削りきることができたようだ。
―――――――――
【レベル】18→23
―――――――――
かなりの格上を倒したお陰で、一気にレベルが23になった。
――称号〈ユニーク殺し〉を獲得しました。
――称号〈格上殺し〉を獲得しました。
さらに称号もゲットできた。
―――――――――
〈ユニーク殺し〉ユニークモンスターと対峙時、攻撃10%上昇。
〈格上殺し〉レベルで15以上の格上と対峙時、防御10%上昇
―――――――――
特定の状況下で、ステータスが上昇する称号である。
そしてレッドキャップが消えた後には、真っ赤な帽子と血塗れのナイフが残された。
―――――――――
〈レッドキャップ〉レッドキャップが被っている血で赤く染まった帽子。防御+5。敏捷+15。
〈血濡れのナイフ〉血に濡れた凶悪なナイフ。攻撃成功時、稀に「出血」を付与。攻撃+18。
―――――――――
ドロップアイテムである。
試しに装備してみた。
「どうだ? 似合うか?」
「「「ひぃぃぃっ……」」」
俺を見たリーネたちが、顔を青くして後退る。
そんなに怖い見た目だっただろうか? 〈血濡れのナイフ〉はともかく、〈レッドキャップ〉の赤いとんがり帽子なんて、むしろ可愛らしいはずだが。
「お願いっ、殺さないでっ……何でもするからっ……」
「そこまで怖がらなくても……」
いや、そういえばこの手の武器の中には、装備するだけで格下に恐怖を与えるものがあるんだったっけ。
隠し効果なので説明文には明確に書いていないが、たぶんそうだろう。
あまり街中では装備しない方がいいかもしれないな。
もう二度と悪いことはしないと涙ながらに訴えるリーネたちを、ゲームでは放免するしかなかったのだが。
俺は冒険者ギルドに突き出してやった。
するとそこで判明したのは、彼女たちが冒険者ですらなかったという事実だ。
冒険者の名を語り、駆け出し冒険者たちを食い物にしてきた彼女たちは、当然ながら冒険者ギルドの怒りを買った。
「そんな設定があったなんてな」
それともゲームが現実化する過程で、新たに加わった設定か。
「あるいは、そもそもこの世界が先で……まぁ、今ある情報からじゃ、考えたところで答えは分からないな」
その後、宿で一晩しっかりと休息した俺は、翌朝、宿の食堂で朝食を取りながら次の予定を考えていた。
「三人組を倒した直後でアドレナリンが出まくってたせいか、普通にレッドキャップと戦ってしまったが、今考えるとめちゃくちゃ危なかったよな。ゲームと違って命は一つしかないんだし、やはり逃げるべきだった」
結果的にレッドキャップを撃破できたので後悔してはいないが、こんな一か八かの戦いばかり続けていたら、さすがに遠からずゲームオーバーになりかねない。
「早いところあの祠に行っておいた方がよさそうだな」
都市ロンダルの南方には、ある天職専用の祠があった。
ここで手に入るアビリティを強化していけば、今後の冒険をより安全に進められるスキルが手に入るのだ。
冷静になっている今のうちに、できる対策をしておこう。
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