第39話 万能職だ

 ダンジョンを目当てに数多くの冒険者が集う迷宮都市メルエーズには、彼らをターゲットに腕のいい鍛冶職人が数多く工房を構えている。

 そんな中にあって、【戦場鍛冶師】のゼタは、一、二を争う鍛冶職人として知られていた。


 その最大の理由はやはり、【戦場鍛冶師】という、生産系の鍛冶師としては珍しい武闘派の天職だ。


 この世界でスキルを習得するためには、魔物を倒してレベルを上げる必要がある。

 だが普通の生産系天職では戦闘力が低いため、レベル上げが容易ではない。


 ゆえに自ら戦闘もこなせる【戦場鍛冶師】は、鍛冶スキルを身に着けることにおいて大きなアドバンテージがあるのだ。

 さすがは上級職である。


 そんな彼女が、巨大ハンマーを構えて好戦的な笑みを浮かべた。


「手加減は苦手だからよ……最低限の強さはねぇと死ぬぜぇ!」


 ゲームでもそうだったが、彼女に武具を打ってもらうためには、一対一で戦って勝たなければならないのだ。

 俺は鞘から〈鋼の剣〉を抜く。


「おらあああああっ!!」


 雄叫びと共に勢いよく躍りかかってきたゼタが、巨大ハンマーを豪快に打ち下ろしてきた。

 まともに喰らったら確実に大ダメージだ。


 後方に飛び退って躱すと、一瞬遅れて叩きつけられるような凄まじい風圧。

 足が地面から離れて吹き飛ばされてしまいそうになるが、どうにか耐えた。


 間髪入れずに飛びかかってくるゼタ。


「逃げてるだけじゃアタシは認めさせられねぇぞッ! 〈ブレイクインパクト〉ッ!」

「~~~~っ!」


 ゼタが振り下ろした巨大ハンマーが地面を叩くと、そこから同心円状に衝撃波が発生した。

 車と正面衝突したような衝撃を受け、俺は思い切りぶっ飛ばされた。


「【戦場鍛冶師】の攻撃スキル、〈ブレイクインパクト〉……いきなり使ってきたか」


 使用者を中心に、半径二メートル近い範囲の敵にまとめてダメージを与える、厄介な攻撃スキルだ。

 しかもHPがごっそり減らされてしまっている。


 相手は上級職である上に、レベル的にもかなり格上だ。

 大口を叩いて戦いを挑んだものの、普通にやり合っていては勝てない相手である。


「はっ、テメェも期待外れかよ!」

「安心しろ、勝負はここからだ」


 そう言って、俺は〈鋼の剣〉を空中に放り投げた。


「は?」

「〈気配隠蔽〉」


 ゼタが唖然とする隙に〈気配隠蔽〉を発動し、彼女の認識から外れてみせる。


「っ!? どこにいきやがった……? まさか隠密系のスキルを使えるのかっ!?」


 消えた俺を捜し、狼狽えながらも周囲を見回すゼタ。

 さすがに〈気配隠蔽〉といえど、一対一ではいつまでも姿をくらまし続けることはできない。


「いたっ!」


 見つかってしまった。

 だが詠唱を終えるのに十分な時間は稼げている。


「〈フリージング〉」


 別に魔法を使ってはいけないルールなんて決めてなかったしな?


「~~~~ッ!?」


 いきなり吹き付けてきた猛烈な冷気を浴びて、ゼタの身体が『凍結』していく。


「青魔法だとっ!? どういうことだ!? 構えていた剣はブラフで、本当は剣士じゃなかったのかっ!?」


 身動きが取れなくなって苛立つゼタに背後から接近すると同時、ちょうど先ほど投げた〈鋼の剣〉が落ちてきたので、それをキャッチしつつ、


「〈渾身斬り〉!」

「がああああああっ!?」


 無防備なゼタの背中に〈渾身斬り〉を叩き込んでやった。


「今度は〈渾身斬り〉だとっ!? 剣士系の天職持ちしか使えねぇスキルじゃねぇか!? テメェどうなってやがるんだ!?」


 驚愕しながらこちらを振り返るゼタだが、すでに俺の姿はそこにはない。


「〈ファイアアロー〉」

「あっちいいいっ!?」


 今度は赤魔法を浴びせてやる。


「ちょっと待ちやがれっ! その戦い方はズルいぞ、テメェ!?」


 思わずといった様子でゼタが叫んだ。

【戦場鍛冶師】は強力な天職だが、基本的には近距離戦闘タイプなので、こんなふうに距離を取られた相手との戦いは非常に苦手なのである。


「戦い方の指定なんてなかったはずだが」

「がっ!? そ、そうだけどよっ!? くそっ、またいなくなりやがったっ!」


 そうして複数のスキルを組み合わせることで、先ほど受けたダメージ以降、俺は完封勝ちしたのだった。






「テメェ一体、どんな天職だ? あんな戦い方するやつ、今まで見たことねぇぞ?」


 戦いに勝利したあと、ゼタが訝しげに聞いてきた。


「万能職だ」


 俺はあえてそう答える。


 当初と違い、今や五つのアビリティと二十二個のスキルを獲得しているのだ。

 そろそろ万能職と名乗ってもおかしくない頃合いだろう。


「万能職だァ? んなもん、聞いたことねぇんだが……まぁいい、アタシの武器を使う最低限の資格はあるみてぇだしよ。〈ミスリルの剣〉がご所望だったよな?」

「ああ」

「作るには〈ミスリル鉱〉が最低でも五つ要るんだが、生憎と今は在庫を切らしてるんだ。持ち込みしてくれるなら安く作れるが、そうでなければ一つにつき200万ゴルド貰うぜ?」


 ちなみに〈ミスリルの剣〉の作成費用は2000万ゴルドらしい。

〈ミスリル鉱〉までゼタに頼むと、3000万ゴルドが必要になってしまうわけだ。


「もしくは今からアタシと一緒にダンジョンに潜って、手に入れるってパターンもあるぜ。その場合、一つ100万ゴルドにまけてやらァ。運よくたくさん入手できりゃ、さらに安くできるかもしれねぇぞ」


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