第38話 闇金レベルの高利子

「四人合わせて全財産が1000万ゴルドしかない? そうか。じゃあとりあえず、その1000万ゴルドをもらおう。残り4000万は借金という形だな。利子は10日で10%だ」

「「「闇金レベルの高利子……」」」

「あ? 命の値段だと思えば安いもんだろう?」


 無事にモンスタールームを脱出した俺たちは、ダンジョンを出て冒険者ギルドへ。

 そこで事情を説明し、彼らとちゃんとした契約を交わした。


「これで踏み倒しはできないぞ」

「「「はい……」」」


 ツインヘッドトロールを倒したときの歓喜はどこへやら、今や死んだ魚のような目をして頷く冒険者たち。


 とりあえず全財産の1000万ゴルドと、手持ちの装備やアイテム、貴金属などを売って得たお金の1000万ゴルドを受け取った。


 さらにツインヘッドトロールからドロップした〈巨妖の双骨〉は俺がもらうことにしたのだが、こいつは希少なアイテムで市場価格が200万は下らないため、これを200万ゴルド分の支払額ということにしてあげた。


 つまり残りは2800万ゴルド。

 当然、返済が遅れれば遅れるほど利子が増えていくが、


「まぁ『深淵穿孔』の中層までいける力があれば、このくらい数か月もあれば稼げるだろう。中層の魔物のドロップアイテムなら、一つで十万二十万いくのもザラだからな」


 ちなみに冒険者ギルドに預金口座を作ったので、支払いはそこにしてもらうことになっている。

 俺がこの都市を離れたとしても、いつでも支払ってもらえるというわけだ。


「ゲームだと100万にしかならないイベントだったが、随分と稼ぐことができた」


 そしてツインヘッドトロールを倒したことで、俺のレベルも51に到達。

 これなら近いうちに下層に挑戦することもできそうだ。


「ただ武器が〈鋼の剣〉じゃ心許ない。大金が手に入ったし、〈ミスリルの剣〉がほしいところだな」


 しかし〈ミスリルの剣〉を通常の武器屋で買うのはもったいない。

 1000万ゴルド以上の値がするというのに、性能がいまいちなのである。


「やはり鍛冶屋に行って、直接注文するべきだろうな。同じ値段でも明らかに質が高い」


 ただし職人によってその実力はピンキリだ。

 大抵は【鍛冶師】などの天職を持つ者なのだが、そのレベル次第で生成される武具の性能に大きな差が出るからだ。


 ゲーム時代でも「この店には依頼するべきではない」という情報が、プレイヤーたちの間で共有されていた。

 中にはぼったくり価格を提示された上に、全然希望した武器とは違うものができあがることもあった。


「恐らくこの辺りにあのキャラの店があるはず……よし、あったぞ」


 ゲーム時代の知識を頼りに俺がやってきたのは、とある鍛冶工房だ。

 外観はお世辞にも奇麗とは言い難い、随分と年季の入った工房なのだが、何を隠そうここがゲーム時代、この都市で最も腕のいい鍛冶職人のいる工房なのだった。


「ごちゃごちゃうるせぇな! いいからオレの言う通りに剣を打ちやがれってんだよ!」


 その工房の中から男の怒声が聞こえてきた。

 かと思うと、今度は悲鳴が響いてくる。


「ぎゃあっ!? ちょ、ま、ぐがっ!? ひぐああああっ!?」


 直後、工房の入り口から厳つい男が涙目で飛び出してきた。

 その場ですっころびながら縋るような顔で訴える。


「おおお、オレが悪かったっ……だ、だからっ……ぶべっ!?」


 男の顔を思い切り蹴り飛ばしたのは、工房から新たに出てきた女だった。


 女にしてはかなり背が高い。

 肩に巨大なハンマーを担ぎ、腰には様々な工具類をぶら下げている。


 年齢は二十代後半くらいか。

 整った顔立ちをしているが、長い黒髪を頭の後ろに無造作に結び、化粧っ気もまったくない。


 彼女はゴミでも見るような目で男を見下ろし、吐き捨てるように言った。


「二度とこのアタシにその汚ねぇ面見せるんじゃねぇぞ! さもねぇと、次はこいつでテメェの頭カチ割ってやるからな!」

「ひいいいいいいいっ!!」


 男は足を絡ませながら全速力で逃げていく。


「ったく、今日はつまらねぇ客ばっかだぜ」

「俺に〈ミスリルの剣〉を打ってほしい」

「……ああ?」


 俺が声をかけると、ヤンキー女みたいにガンを飛ばしながらこちらを振り向いた。


「ちっ、帰んな、坊や。今の見てただろ? アタシはアタシが認めたやつにしか武器を打たねぇって決めてんだ」

「それを知った上で依頼しに来た。【戦場鍛冶師】のゼタ……あんたをこの街で随一の鍛冶師と見込んで、だ」


 実は彼女こそが、俺が捜している鍛冶職人だった。

【戦場鍛冶師】というのは、その名の通り、自ら戦場に立つ武闘派の鍛冶師である。


「ほう、多少は事前知識があるようだな。その上でうちに来るとは、それなりに自信があるってことか」

「ああ。期待には応えられると思うぞ」

「ふん、いいだろう」


 ゼタは鼻を鳴らして獰猛に頷くと、手にした巨大なハンマーを構えながら、


「ならば今ここで、てめぇがオレの武器を手にするのに相応しい人間か確かめてやるぜっ!」


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