第28話 なんと禍々しい

「があああああああっ!?」


 背中が発火し、一定時間ダメージを受け続ける『炎上』状態となった邪教信者の男が絶叫を上げる。

 赤魔法は、時に敵に『炎上』の状態異常を付与することができるのだ。


「っ!? な、なんだ貴様は!? どこから入ってきた!?」


 俺に気づいて男が叫ぶが、その質問に答える前に斬撃をお見舞いし、トドメを刺す。


「ぐ……我らが神に……栄光、あれ……」


 男は靄となって消失した。


「「「あ、あ、あ……」」」


 先ほどまで自分たちを〝指導〟していた男が目の前であっさり殺されたことで、捕まっていた人たちが怯えている。

 次は自分たちの番だと思っているのかもしれない。


「心配しなくとも、お前たちをどうこうする気はない」

「「「……」」」

「ここにいたローブの連中は全滅させたから、好きに逃げるといい」

「た、助けてくれたのか……?」

「そういうことだ」


 ようやく状況を理解したようで、歓喜の声を上げる人々。

 俺はついでに小部屋の鍵を破壊し、全員が逃げられるようにしてから建物を後にした。


「全部で十二個か。かなり集まったな」


〈アイテムボックス〉に保管した〈邪神の縛鎖〉。

 ゲームでも『終焉の黙示録』の構成員一人につき一つ手に入ったのだが、拠点にいる構成員の人数がランダムなので、どれだけ入手できるかは運任せだ。


 十人を超えること自体が珍しかったため、かなり幸先のいい出だしである。


 そして俺がやってきたのはこの街の教会だった。

 神聖で荘厳さを感じるその外観は、ゲームとまったく同じである。


「神々に導かれし迷える子羊よ。どのような御用でしょうか?」


 俺は神々に見捨てられた存在だけどなと思いつつ、神官の質問に答える。


「こいつを浄化してほしいんだ」

「っ……これはっ……なんと禍々しい……」


 俺が〈邪神の縛鎖〉を取り出すと、神官は驚いたように目を見開いた。


「凄まじい邪神の妖気を感じます……。確かにこのまま放置しておいてよいものではありませんね。浄化いたしましょう」


 そうして神官が神々に祈りを捧げ始める。


 やがて神聖な光が〈邪神の縛鎖〉に降り注ぐ。

 すると複雑に絡まった鎖が解けていったかと思うと、大人一人が潜り抜けられるほどの輪となった。


「ほう。どうやら神々のお力で、新たなアイテムへと変化したようですね」


―――――――――

〈神々の聖環〉悪しき鎖が、神々の力で浄化され、円環となったもの。これを潜り抜けるといいことが起こる。

―――――――――


「やった、いきなり成功だ」


 実は〈邪神の縛鎖〉を教会で浄化すると、こんなふうに〈神々の聖環〉に変化することがあるのだ。

 そしてこの輪っかを潜り抜ければ、


 ――アビリティポイント1を獲得しました。


 アビリティを強化するために不可欠なアビリティポイント。

 グラワル発売当初は、レベルを上げる以外に得る方法がないと考えられていたのだが、発売から数週間が経つと、レベルアップ以外の手段が発見された。


 それが今やったように、〈邪神の縛鎖〉を教会で浄化して得る〈神々の聖環〉を使用することだった。


 二段階の手順を踏むこともあって、すぐには見つけられなかったのである。

 しかもせっかく入手した〈邪神の縛鎖〉を浄化しても、残念ながら100%〈神々の聖環〉になってくれるわけではない。


 確率は30%である。

〈神々の聖環〉にならなかった場合、〈邪神の縛鎖〉はただの解けた鎖になるだけだ。


 俺は十二個すべての〈邪神の縛鎖〉を浄化してもらった。

 その結果、全部で五つの〈神々の聖環〉を入手することができた。


 期待値は三・六のはずなので、かなり運がよかったようだな。

 もちろんゲームのときと同じ確率だった場合だが……今までの傾向から考えるに、そうしたシステム面はゲームとまったく同じと考えていいはずだ。


〈神々の聖環〉をすべて使用し、アビリティポイントが5入ってきた。

 現在のアビリティの状況は次の通りだ。


―――――――――

【アビリティ】〈剣の極意+2〉〈盗みの極意+5〉〈格闘の極意+3〉〈弓の極意+2〉

【アビリティポイント】12

―――――――――


 俺は〈剣の極意〉に12ポイントすべて使った。


―――――――――

【アビリティ】〈剣の極意+2〉→〈剣の極意+5〉

【アビリティポイント】12→0

―――――――――


 ――〈二連斬り〉を習得しました。

 ――〈回転斬り〉を習得しました。

 ――〈渾身斬り〉を習得しました。


 どれも攻撃スキルだ。


―――――――――

〈二連斬り〉一度の斬撃で二度のダメージを与えることができる。クールタイム10秒。

〈回転斬り〉回転して周囲の敵を斬り払う。集団戦で便利。クールタイム10秒。

〈渾身斬り〉渾身の勢いで繰り出す斬撃。ダメージ大幅上昇。スタン確率上昇。ただし回避されやすい。クールタイム10秒。

―――――――――


「よし、この調子でさらにアビリティポイントを稼いでいくぞ」


 というわけで俺は、この都市にある終末の黙示録の拠点を巡ることに。

 実は奴らの拠点はあのスラム街以外にもあるのだ。ただし場所がランダムで、酒場などで情報を得なければならないが。


 そうして探し当てた拠点に乗り込み、構成員を仕留めていく。


「があああっ!?」

「ぐはっ!?」

「なんだ貴様ぎゃっ!?」


 ちなみにこの終末の黙示録、確かに凶悪で恐ろしい邪教集団ではあるのだが……ゲームではプレイヤーたちにアビリティポイントを与えてくれることから、ポイント教団と呼ばれていた。


 俺は三つの拠点で四十三人の構成員を倒し、新たに四十三個の〈邪神の縛鎖〉を入手。

 そのうち十五個が〈神々の聖環〉となってくれ、15のアビリティポイントをゲットしたのだった。


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