第16話 疑っちまって悪かったな
五百体を超えていた魔物がすべて光の粒子となって消え去り、戦場には勇敢な人間の戦士たちだけが残された。
「我らの勝利です!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
王女セレスティアが天高く己の剣を掲げて勝利を宣言すると、それに呼応して戦士たちの歓声が響き渡った。
負傷者も決して少なくないが、あれだけの魔物の大群を迎え撃ったことを考えると、十分すぎる結果だろう。
何より一体の魔物にも防壁の突破を許さなかったことで、街の中には一切被害が出ていない。
「お陰で魔物の大群を打倒し、ロンダルを護ることができました。危険を顧みず戦ってくれた貴殿らに、心から感謝します」
冒険者たちのところへやってきたセレスティアが、自ら労いの言葉をかけてくる。
「いえ、我々は当然のことをしただけです。それに冒険者たちが勇敢に戦うことができたのも、殿下が自ら戦場に立ち、我らを鼓舞してくださったからこそ。しかしまさか、魔物の群れに先頭で突っ込んでいかれるとは思いませんでしたが……」
バークがその場に膝をつきながら応じる。
一瞬その視線が王女の右脇腹に向けられた。
戦いで負傷したのだろう、その脇腹には血が滲んでいた。
だが王女は顔色一つ変えずに、
「ロンダルは私にとって、生まれ育った王都に匹敵するほど大事な地です。それを護るためならば、我が身など惜しくもありません」
「……さすがでございます」
王女とは思えない気概に、ベテラン冒険者も舌を巻く。
「しかし安心するのはまだ早いでしょう。なにせダンジョンの暴走はまだ終わっていません。ダンジョン深部のボスを倒さない限り、何度でもまた魔物が溢れ出し、この街は危機に晒されることになりますから」
セレスティア王女の言う通り、〈迷宮暴走〉はこれで終わりではなかった。
完全に暴走を止めるためには、ダンジョンの奥深くにいるボスを撃破する必要があるのである。
つまりイベントはまだ続くのだ。
「明日、精鋭を集めてダンジョンに挑むつもりです。ですが我が騎士団だけでは心許なく、冒険者ギルドにも協力を求めなければなりません。特に貴殿のような実力者には、ぜひ力を貸していただきたいと思っています」
「はっ、もちろん、そのつもりでございます!」
ベテラン冒険者の言質を取った王女は、騎士たちを率いて満足した様子で去っていく。
「う~む……ゲームならこのまま次のイベントにも普通に参加できるんだが……勝手に参戦していたFランクだし、大丈夫だろうか?」
また秘かに加わるしかないのか。
だが次は人数も少ないし、間違いなくバレるだろう。
「なぁ、おい、お前」
「ん?」
不意に声をかけられて振り返ると、あの三人組の若手冒険者たちだった。
「彼女から聞いたんだが……あのとき、お前が助けてくれたのか?」
「……まぁ、そうだな」
そういえば【魔術士】の女にだけは、姿を見られていたのだった。
どうやら彼女がわざわざ二人に伝えたらしい。
「ガキだからって、疑っちまって悪かったな」
「実はあたしらよりもずっと強かったなんて……」
「あなたのお陰で死なずに助かりました。ありがとうございます」
彼らから謝罪と同時に感謝されていると、
「おい、お前たち!」
バークが声を荒らげこちらにやってきた。
「成果をあげようと逸る気持ちは理解できるが分かるが、自分たちの実力を過信するな! 死ぬぞ!」
「「「はい……」」
「ふん、反省はしているようだな」
と、そこでバークの視線が、俺の方を向く。
「む? あまり見かけない顔だな? しかも随分と若いが……」
「ええと、まだ新人なもので……」
俺はぎくりとしつつ応じる。
「何歳だ?」
「……十五歳」
「十五歳だと? ならば天職を授かったばかりではないか。なぜここにいる? まさか、こっちの部隊に交じっていたのか?」
青年が横から割り込んできた。
「だが実力は確かだ。実はあのとき、こいつに助けてもらったんだ」
「私がはっきりと見ました。ブラックミノタウロスを吹き飛ばした上に、ハイオークの斧を弾き返したのです」
さらに魔法使いの女が証言する。
「何だと? そういえば、我々が駆け付けたとき、どちらもスタン状態になっていたが……。だがワシはそれなりに長くこの街で冒険者をやってきて、そこらのギルド職員よりも冒険者事情に詳しい。そんな有望な新人がいるなんていう話、聞いたことがないぞ? おい、今のランクは幾つだ?」
問い詰められ、俺は仕方なく白状した。
「……Fランクだ」
「「「Fランクだと!?」」」
俺は慌てて弁明する。
「つい二週間ほど前に冒険者になったばかりなんだ。Eランク以上しか招集されていないと知っていたが、どうしても戦いたくてこっそり参加してしまった。レベル的にはEランク、いや、Dランクに相当しているため、十分戦力になれると思っていた」
「二週間前になったばかりだと……? レベルは幾つだ?」
驚くバークに問われ、俺は答える。
「32になった」
「「「レベル32だと!?」」」
「十五歳、しかも冒険者を初めてたった二週間で!? そこまで至るのに、最低でも何年もかかるはずだぞ!」
何年も……?
いや、確かにゲームでも、NPCのレベルは一部のキャラを除いてかなり低かった。
三十代半ばくらいのベテランであるバークでも、レベル40ちょっとだったはず。
それはどうやら現実になっても変わらないようである。
「一体何の天職なんだ? まさか上級職か……?」
「いや、無職だ」
「「「無職だと!?」」」
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