第24話 どうやらただの偶然だったようです
コンボアタックは、プレイヤーだけでなく、仲間NPCも使用することができた。
ただし、大抵は最初から使ってくれたりはしない。
NPCのレベルが上がっていくと、ある段階で使うようになるという仕様だったのだ。
これはNPCが自力でコンボを発見したから、というふうに解釈されていた。
だがゲームと違い、現実なら直接そのやり方を伝えればいい。
「〈ソウルブレイク〉っ!」
「がああああああああっ!?」
先ほどは失敗に終わった最後の攻撃スキルが、無防備なアルベール卿に叩き込まれる。
アルベール卿は猛烈な勢いで吹き飛び、ボス部屋の壁に激突した。
「が……ぐ……」
どうやら死んではいないようだが、恐らく瀕死状態でもはや立ち上がれないだろう。
「まさか、ご当主様が、敗れるなんて……」
「ど、どうすれば……」
いきなり当主がやられ、狼狽える配下の剣士たち。
さすがにここからの挽回は不可能と判断したのか、大人しく降伏したのだった。
ボスの討伐に成功し、ダンジョンの暴走を止めると同時に、その原因となったアルベール卿を拘束することができた。
その後、無事にダンジョンに戻って――数日後のこと。
俺は領主の屋敷にやってきていた。
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます、ライズさん」
豪華絢爛な部屋で俺を待っていたのは、この国の第三王女であるセレスティアだ。
今日は鎧ではなく、美しいドレスで着飾っていて、そのせいか雰囲気がかなり違う。
先日のお礼をしたいからと、彼女から直々に呼び出されたのである。
「あなたがいなければ、わたくしは死んでいたかもしれません。本当に感謝しています」
「いや、そもそも王女様が冒険者ギルドにかけ合って、俺を推薦してくれたからだ。それがなければ参加できず、助けることもできなかった」
「ふふ、随分と謙虚な方なのですね」
ところで、なぜアルベール卿は、バレたら死刑どころでは済まされないリスクを冒し、セレスティアの命を狙ったのか。
アルベール家に並ぶ三大貴族の一つが、ここロンダルを治めるシュネガー家だ。
王国内の地位を保つために、どちらも王家に娘を嫁がせることで、世継ぎを作らせているというのだが、アルベール家を外縁とする第一王子と第二王子がいまいちパッとせず国民からの人気も乏しい中、シュネガー家出身の王妃から生まれてきたのが、第三王女セレスティアなのである。
しかもその第三王女の天職は【戦乙女】。
【剣帝】にも匹敵するとされる、強力なものだった。
当然、王国一の武力を誇るアルベール家にとっては面白くない。
【剣帝】であるアルベール卿にとっては、将来的に第三王女が、自身を上回る強さを得るかもしれないという焦燥もあっただろう。
そこでセレスティアが母の故郷であるロンダルを訪れるタイミングを狙って、今回の騒動を引き起こしたのである。
「実はアルベール卿の長子が、祝福の儀の後に失踪したとの情報も入ってきていまして」
「……」
「噂では、【剣帝】を授かることができなかったばかりか、無職であったために、家を追い出されたのではないかと言われています。それもあって追い詰められた結果、あのような暴挙に出てしまったのかもしれませんね」
ぎくりとしつつ、俺はふと思う。
もしかして今回のイベントで少しずつゲームとの誤差が出ていたのは、俺の存在によるもの……?
「そういえば、冒険者ギルドで教えていただいたのですが、俄かには信じがたいことにライズさんも無職だとか。しかもちょうど十五歳くらいの年齢ですし……あれ、アルベール卿の長子も確か、ライズという名だったような?」
ワザとらしく小首をかしげてみせるセレスティア。
これは完全に俺の正体を理解しているな……。
「……何の話だろうか。ライズなんて別に珍しい名前でもないし、たまたま被るということもあるだろう」
「そうですね。どうやらただの偶然だったようです」
アルベール卿の処遇についてはまだ裁判の途中だというが、当主が王女の暗殺未遂事件を起こしたことで、アルベール家は侯爵位を取り上げられ、子爵位にまで降格させられるそうだ。
家ごと取り潰しになってもおかしくないはずだが、第一、第二王子の母方ということもあって、降格処分に落ち着いたのだろう。
赤の他人だと主張しているのだが、セレスティアはわざわざそうした現況を教えてくれた。
まぁ正直、少し気になってはいた。
すでに捨てられた身でもあるし、前世の記憶と取り戻した今となっては何の愛着もないのだが、それでもこの世界の俺の生まれ育った家であることは確かなのだ。
ゲームじゃここまで詳しく事の顛末を知ることはできなかったしな。
そんなことを考えていると、セレスティアがおずおずしながら、
「あの……実はわたくし、冒険者登録したんです。今回の一件で、もっと強くならなくてはいけないと思いまして。これからしばらく各地を旅しながら、レベルアップしていきたいと考えています」
ここは完全にゲームと同じ流れのようだ。
冒険者ギルドを通じて、彼女を呼び出せば連れ歩くことができるのである。
ちなみに仲間NPCは放っておいてもプレイヤーのレベルに応じて勝手に強くなってくれるので、わざわざレベル上げをする必要はなかったりする。
「それで機会があれば、ぜひライズさんと一緒に冒険させてください。冒険者ギルド経由で連絡が取れると思いますので、いつでも声をかけてほしいです」
「分かった。そのときはぜひよろしく頼む」
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〈セントルア王女の友好〉セントルア王国王女との友好を得た者。王女との冒険中、攻撃+5
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