第31話 これは俺のだぞ

 相手はレベル80のモンスター。

 当然、俺が正面からやり合えるような相手ではなく、シルミアのサポートに徹するしかない。


「螟ァ豌励髴縺吶辭ア蜚ア縺ョ髻ソ縺阪縺懊縲サ繧医↓轤弱豼オ」


 ダークウィザードが不気味な声で呪文を詠唱。

 シルミア目がけて放たれたのは波状の黒い炎だ。


「〈ウィルウィンド〉」


 それを猛烈な旋風を巻き起こす中級の緑魔法で吹き飛ばすと、シルミアは高い敏捷値で一気に距離を詰めた。


「っ!?」


 だが彼女の剣は空を切る。

 突然ダークウィザードが姿を消したのだ。


 それとほぼ同時に、彼女から十数メートルほど離れた位置に出現する。


「瞬間移動?」


 そう。

 それこそが、このダークウィザードを厄介な敵たらしめている最大の理由と言っても過言ではないだろう。


 距離を詰めて攻撃しようとすれば、すぐに瞬間移動で逃げるのだ。

 かといって遠距離から魔法を放っても、恐らく〈魔力視〉のスキルを有しているのだろう、事前に軌道を予測され、簡単に躱されてしまう。


 必然的に、こちらが一方的に魔法攻撃を浴びせられる形になる。


「霓溘鬟帷代髻ソ蜍包シ医繧茨シ峨縺阪ゥソ縺ヲ螟ァ蝨繧偵怕医縺▼縺峨縺斐→縺」

「っ!」


 炎はシルミアの風で搔き消されてしまうと理解したのか、今度は天井付近から黒い水を滝のように降らせてきた。

 ギリギリのところでどうにか直撃は回避したシルミアだったが、飛沫が降りかかる。


「っ……魔法耐性が」


 魔法耐性ダウンの状態異常だ。

 少しでも魔法を喰らうと、危険な状態異常に侵され、場合によっては何もできないままやられてしまうこともある。


 一時的に行動不能にさせされるようなものと比べれば、魔法耐性ダウンはまだマシな方だ。

 ただし魔法ダメージが大きくなるため、直撃をもらうと危ない。


「蜚ク繧後ゥ縺ョ諤偵縲ス溘縲ゥコ縺ョ迪帙縲縺励※遨ソ縺縺ッ縲ァ蝨縺ョ驕弱■」


 再び不気味な詠唱。

 もちろん謎言語なのではっきりと聞き取ることはできないが、俺にはこれが前の二つとは別のものであることが分かった。


 黒い雷を放つ凶悪な魔法で、回避が非常に難しく、しかも浴びたらほぼ確実に「感電」という厄介な状態異常を付与されてしまう。


「だがこの瞬間を待っていたぜ」


〈気配隠蔽〉スキルを使い、ダークウィザードの背後に忍び寄っていた俺は、その脳天に渾身の一撃を叩き込んだ。


「~~~~~~ッ!?」


 詠唱の強制キャンセル。

 さらに不意打ちと急所への攻撃によってスタン状態になったダークウィザードが、空中から地面に墜落する。


「逃げたと思ってた」

「共闘するって言っただろ! それより今だ! 一気に畳みかけるぞ!」


 この隠しフィールドボスのダークウィザードは非常に厄介な魔物だが、不意打ちや急所の頭へのダメージによってスタン状態にすることが可能だ。

 そのため隠密系のスキルを持つ【盗賊】などの天職であれば、かなり有利に戦いを進めることができるのだが……。


「ん、〈ピアシングテンペスト〉」


 暴風を身に纏ったシルミアが、怒涛の連続突きを放つ。

【魔導剣士】の攻撃スキルが、ダークウィザードのHPを大幅に削っていった。


 一方、攻撃値の低い俺の斬撃では大してダメージを与えられない。

 レベル80の割に防御値は高くないのだが、さすがにレベル差が大き過ぎるのだ。


「縺昴縺ッ諷域縺ョ辣後縺阪ゅ繧後諢帙霈昴縲ゅ◎繧後蜻ス縺ョ蜈」


 そのときスタンから立ち直ったダークウィザードが、黒い輝きに包まれた。


「HPが回復した?」

「ああ! こいつはHPが低いが、減ってくると自己回復するんだ! だが回復量は多くない! シルミアの攻撃ならそう時間はかからず倒せるはずだ!」


 俺一人だったら、HPを削り切るまでめちゃくちゃ時間がかかっただろう。

 下手したら延々にHPを減らせない可能性もあった。


 それから今の流れと同様に、シルミアがボスを引きつけ、俺が不意打ちでスタン状態にし、シルミアが大ダメージを叩き込む、という形で戦い続け。


「繧ェ繧繧繧繧繧繧繧繧繧繧繧繧繝シシ!?」


 最後は不気味な断末魔を残し、光の粒子となって消滅した。


―――――――――

【レベル】35→38

―――――――――


 二人がかりのため経験値補正が入るはずだが、それでもレベル80のフィールドボス、レベルが一気に3も上昇した。


「ん、レベルが上がった」


 どうやらシルミアの方もレベルアップしたらしい。


 そうしてボスが消えた後には、一本の杖が残されていた。


―――――――――

〈ワイズマンロッド〉古の賢者が使っていたとされる杖。装備時、MPが少しずつ回復していく。魔力+95

―――――――――


「魔力+95! やはり素晴らしい性能だな」


 現在のレベルでこの杖を装備できれば、魔法の威力が何倍にもなるはずだ。

 しかもMP自動回復という強力な特殊効果付きである。


「じー」


 魔法の杖を手に喜んでいる俺を、シルミアが物欲しそうな目で見ていた。

 思っていた以上にドロップ品がよかったため、自分も欲しくなったのだろう。


「これは俺のだぞ? あげないからな?」

「ん……仕方ない。ボスがリスポーンしたらまた来る」


 ボスは一定時間が経つと自動で復活する。

 再び倒せば、何度でもドロップアイテムを入手することが可能なのだ。

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