第5話 時短になってよかったな
詳しく聞いてみると、ロベイルはやはり【盗賊】の天職持ちだった。
それで一時期は名のある盗賊団に身を置いていたらしいが、どうやらかなり過激な集団だったようでついていけなくなり、逃げるように脱退。
以降は【盗賊】のスキルを活かし、盗みやスリといったちんけな犯罪行為をしつつ、その日暮らしをしているという。
「さっきの戦いをみて確信した! 兄貴は間違いなくひとかどの男になれる人間だぜ! 世界最高の盗賊も夢じゃねぇ!」
「言っておくが、俺の天職は【盗賊】じゃないぞ。無職だ」
「え? いやいやいや、無職があんなふうに簡単にシャドウウルフを倒せるわけねぇって!」
どうやらロベイルは、俺のことを同じ天職持ちと勘違いしているようだ。
無職だと説明しても、まったく信じてもらえない。
「お願いだ! 俺を弟子にしてくれ! って、兄貴!?」
俺は一瞬の隙を突いて逃げ出したのだ。
〈逃げ足〉によって大幅上昇した敏捷値を活かし、ボスを倒したことで出現した脱出用の階段を一気に駆け上げっていく。
「ゲーム未登場のキャラを連れ歩けるのは魅力的だが、さすがにデメリットが大きいからな。一生ついていくとか重すぎるし」
仲間キャラが一緒にいると安全性は増すが、その分、経験値が分割されてレベルが上がりにくくなるのだ。
脆弱な無職のステータスをできるだけ早く上げたい俺にとって、仲間の存在はむしろ邪魔になってしまう。
ゲーム時代の知識にないため、あの男が危険人物であるというリスクもある。
そもそも犯罪者だし。
祠から出た俺は、そこであることを思い出す。
「そうだ。ゲームと同じ世界なら、マップが見れるんじゃないか?」
そう思って試してみると、案の定ゲーム時代と同じマップが目の前に出現した。
グラワルのマップは、最初すべて黒く塗り潰されていて、行った場所が開いていくシステムになっている。
「それと同じようだな」
俺が生まれ育った都市と、その北にいるこの森。
そこだけが地図として表示されている。
「地理もゲームとまったく同じと考えてよさそうだ。となると、次に向かうべきは」
当然、実家に戻る気などない。
戻ったら今度こそ殺されかねないし。
アルベール侯爵領を出た俺は、このセントルア王国でも最大規模の都市、ロンダルを目指した。
途中、ゲーム時代でも初期に重宝した移動用の動物「ウミュー」を発見し、手懐けた。
見た目はダチョウに近く、鳥のように思えるが、実はトカゲの魔物である。
足がかなり速く、体力もあるため、徒歩よりはるかに速く進むことが可能だ。
しかしそんなウミューを利用しても、ロンダルまで丸三日もかかってしまった。
「地理もまったく同じと思っていたが、明らかにゲーム時代よりも広くなっているな。もしかしてゲームはあれでも色々と省略されてたのか?」
ゲーム時代のマップでさえ、北海道に匹敵すると言われていた広さで、端から端まで移動するだけでも一苦労だった。
加えてゲームでは移動時間をスキップすることができたのだが、現実となったこの世界では、さすがにそんな便利なシステムはない。
まぁ時間がかかってしまったのは、途中で別の祠に寄り道をしたというのもあるが。
新たに手に入れたのは次のアビリティだ。
―――――――――
【アビリティ】〈弓の極意〉
―――――――――
本来は【弓士】などが入手できるアビリティである。
この祠でレベルは18まで上がり、アビリティポイントも増えたため、アビリティに振ってスキルを習得しておく。
まずは〈盗みの極意〉の方からだ。
―――――――――
【アビリティ】〈盗みの極意+4〉→〈盗みの極意+5〉
【アビリティポイント】8→3
―――――――――
――〈気配隠蔽〉を習得しました。
―――――――――
〈気配隠蔽〉自分の気配を隠蔽する。不意打ちが成功しやすくなる。持続時間5分。クールタイム1分。
―――――――――
〈忍び足〉の上位版といってもいいスキルで、使用中はたとえ正面から敵に視認されたとしても見つかりにくい。
〈忍び足〉が時間制限なしだったのに対して、持続時間が5分と短く、しかも再使用するまで1分のクールタイムが必要だが、戦闘中のみならず逃走時にも有効で可能な限り早く習得しておきたいスキルだった。
続いて〈弓の極意〉にもポイントを使用しておく。
―――――――――
【アビリティ】〈弓の極意〉→〈弓の極意+2〉
【アビリティポイント】3→0
―――――――――
――〈命中上昇Ⅰ〉を習得しました。
――〈超集中〉を習得しました。
―――――――――
〈命中上昇Ⅰ〉命中率を常時20%上昇させる。
〈超集中〉一時的に極限まで集中し、時間が引き伸ばされるような感覚を得る。持続時間30秒。クールタイム30秒。
―――――――――
〈命中上昇Ⅰ〉は、矢だけでなく、投擲や剣での攻撃、さらには魔法など、あらゆる攻撃に効果を及ぼすため、地味に役立つスキルだ。
そして〈超集中〉は本来、弓で矢を放つときに使うものなのだが、実はこれがあらゆる場面で役に立つ。
今後の戦いに必須といっても過言ではなく、ぜひ早めに習得しておきたいスキルだった。
「ふう、ようやく見えてきたな」
前方に巨大な城壁を確認し、俺は疲労交じりの息を吐く。
都市ロンダル。
実はこの国の王都よりも人口が多くて、非常に栄えている街だ。
その理由は都市のすぐ近くにダンジョンがあるためで、ダンジョン産のアイテムなどを求めて商人が集まり、大きな発展を遂げた――というのが、ゲームでの設定だった。
恐らく現実化したこの世界でも同様だろう。
「ゲームで見たままの街並みではあるが、明らかにそれ以上の広さがあるな。だが主要な建物の位置は変わっていない……となれば、こっちの方にアレがあるはず」
俺が真っ先に足を運んだのは、この国最大の冒険者ギルドだった。
ダンジョンがあるのだから、当然ながら冒険者も集まってくる。
グラワルでは必ずしも冒険者にならなくてもゲームを進めていくことが可能なのだが、なっていた方が色んな面で便利だった。
冒険者になるデメリットも特にないので、縛りプレイを志すのでなければ、あえてならない意味はない。
見覚えのある建物内に足を踏み入れた俺は、迷うことなく真っ直ぐ窓口へと向かう。
そこにいた受付嬢を見て、思わず「あっ」という声を出してしまった。
「……何か用?」
こちらに気づいて、ぶっきら棒な声で聞いてくる受付嬢。
なんとも不愛想なその態度も、まさにゲームの頃そのままだ。
都市ロンダルの受付嬢、エミリー。
めちゃくちゃ美人なのだが、受付嬢とは思えない態度の悪さから、プレイヤーたちの間で話題になっていたNPCである。
特に、一部の特殊な性癖のプレイヤーたちから大人気だった。
時短勤務なのか、受付嬢なのに窓口にいること自体が非常にレアで、「エミリーたんに罵られたい」と熱望するプレイヤーたちは、彼女が窓口に現れる瞬間をひたすら待ち続けたという。
そんな彼女にいきなり、しかも現実と化したこの世界で出会えるなんて、正直かなり運がいい。
「用がないなら帰ったら? ここ、子供が来るところじゃないし、仕事の邪魔なんだけど?」
「おおお、すごい」
その辛辣な物言いに、つい感動してしまう。
「いや、実は冒険者登録したくてな」
「……」
俺が要件を伝えると、エミリーは無言で一枚の紙をカウンター越しに寄こした。
これに名前や天職などを記入しろ、ということらしい。
ちなみに冒険者には誰でもなることが可能だ。
特に最低ランクのFランクの冒険者証では、何の身分証明にもならないので、窓口で登録を行うだけでいい。
「は? 無職? しかもレベル18……?」
必要事項を記入して渡すと、一瞬驚いたように目を丸くした。
この街に辿り着く途中で、何度かレベルアップしたのである。
「……ま、どうでもいいけど」
面倒なのか、エミリーはそれだけ言って、すぐに登録作業を済ませてくれた。
冒険者の証となる冒険者カードが発行され、渡される。
冒険者のシステムなどについての詳しい説明は一切なかった。
他の受付嬢なら必ず説明があるはずなのだが、さすがはエミリーである。
「ゲーム時代と同じだろうし、むしろ時短になってよかったな」
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