第6話 一人じゃ自殺行為だと思うよ
冒険者登録を終えた俺は、その足でアイテムの買い取りカウンターへ。
ここまでに手に入れた要らないアイテムを、とっとと売っておきたかったのだ。
なにせ〈アイテムボックス〉を手に入れるまでは、アイテムをそのまま持ち歩かなければならないのである。
「素材を買い取ってほしい」
「おいおい、Fランク冒険者の無職だと?」
冒険者しか買い取ってもらえないので、まずは冒険者カードを見せると、買い取りカウンターの親父が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
だが素材を見せると、すぐに顔つきが変わる。
「ほう、こいつは〈影狼の牙〉じゃねぇか。それに〈大鬼の角〉まであるぞ」
どちらも祠のボスからドロップしたアイテムだ。
他にも魔物からドロップしたアイテムが、全部で二十個くらいある。
「お前、これらをどうやって手に入れたんだ?」
「自分で倒してドロップしたものだ」
「嘘を吐くんじゃねぇよ。こいつらのレベルは15~20くらいある。無職に倒せるわけがねぇ。無職はステータスが低すぎて、同格の魔物ですらロクに倒せねぇはずだ」
「そうは言われても、倒せたんだから仕方ないだろう」
まさか買い取りの際に、こんなに疑われるとは思わなかった。
これはゲームではなかった展開である。
「ちっ。まぁこちらとしては別に、あえて出所までは問わねぇが……あんまり悪さばっかしてると、ロクな死に方をしねぇぜ?」
どうやら俺がこれらの素材をどこかから盗んだと思っているようで、そんな忠告をしてくれる。
「善処しよう」
いちいち誤解を解くのも面倒なので、そう応じて査定を待った。
「353200ゴルドか。そこそこの金額にはなったな」
やはりボスのドロップアイテムがそれなりに高値で売れて、ひとまず宿と食事には困らなさそうな資金を得ることができた。
もちろん相応の装備を整えようとしたら、全然足りない。
武器や防具などは非常に高価なのである。
「安全に行くなら、買えるレベルの装備をそろえて、金が貯まるたびに更新していくというのがベストだ。ただ、それだと余計に金が必要になるからな」
例えば〈青銅の剣〉なら相場が10万ゴルドなので、今すぐにでも買える。
だが50万ゴルドあれば、より強力な〈鋼の剣〉が手に入るはずだ。
「とりあえず依頼を確認してみるか。もし報酬のいいものがあれば、先にやってしまった方がいいだろう」
俺は依頼が掲示されている掲示板に向かった。
ゲーム時代、受注可能な依頼はランダムだった。
時間経過でどんどん依頼が切り替わっていくため、定期的に確認する必要があった。
「ねぇ、君。もしかして新人さんかな?」
「ああ、そうだが」
掲示板を見ていると、声をかけられた。
俺より二、三個くらい年上と思われる若い女である。
装備から推測するに、魔法使い系の天職持ちだろう。
パーティを組んでいるのか、彼女の後ろには同年代の男が二人いた。
「あたしはリーネ、レベル20の【魔術士】よ。こっちの彼はラウルで、こっちはバルア」
「ラウルだ。レベル21の【剣士】だ」
「……レベル19の【盗賊】」
それぞれ軽く自己紹介してくれる。
「君と同じで、つい最近、冒険者を始めたばかりの駆け出しなの。それで、もう一人くらい、一緒に冒険ができそうな人がいないかなって探してたら、偶然、君を見つけたってわけ」
「つまり勧誘か」
「そういうこと」
「だが俺は無職だぞ?」
俺が告げると、リーネは目を丸くした。
「え、無職? それで冒険者やろうなんて、まさか自殺希望者?」
「そのつもりはない」
「そのつもりはなくたって、実際無職じゃ厳しいでしょ? ステータスが低すぎて格上の魔物が倒せないし、全然レベルが上がらないのよ」
「一応、俺の今のレベルは18だ」
「レベル18!? あたしらとあんまり変わらないじゃん! 天職があっても、ここまで上げるのに苦労したのに……君、すごいんだね」
リーネはひとしきり感心してから、
「でも、やっぱり一人じゃ自殺行為だと思うよ! パーティを組んだ方が、断然、安全に冒険ができるから! ね、お試しでもいいから、一度あたしたちと一緒に冒険してみない?」
そのダンジョン『岩窟迷宮』は、都市ロンダルの北に三キロほどいったところにある岩石地帯に存在していた。
巨岩の根元にぽっかりと空いた穴がその入り口で、周囲にはダンジョンに挑もうとする冒険者たちをターゲットにした、武具やアイテムなどの露店が雑多に並んでいる。
「この『岩窟迷宮』は名前の通り、岩でできた洞穴状のダンジョンなの。途中で道がいくつも分離してるけど、最奥まで進めるルートの全長は、軽く五十キロを超えてるそうよ」
と、リーネが説明してくれるが、ゲーム時代に何度もこのダンジョンを探索したことがある俺は、もちろん言われるまでもなく知っていた。
彼女たちの誘いに乗って、俺はこれから彼女たちと共にこのダンジョンに潜るつもりだった。
無論、一時的にパーティを組むだけであって、今後も一緒に冒険をしていく気なんてさらさらない。
そもそも、それを望んだところで叶うこともない。
最初に彼女たちの顔を見た瞬間、俺はすぐにピンときた。
実はこれ、ゲーム時代にもあった〝イベント〟なのである。
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