第35話 どうやら後者のようだな

〈気配隠蔽〉の効果中は、背後からの不意打ちで魔物を仕留め。

 効果が切れれば、逃げながら〈フリージング〉を使って魔物を『凍結』させていく。


 習得したばかりの〈移動詠唱〉スキルがかなり役立っていた。


―――――――――

【レベル】45→46

―――――――――


 このモンスタールームの魔物はレベル50前後。

 それをどんどん倒していくことで、レベルもかなり上がってきた。


「何なの、あの少年!? 魔法を使ったかと思ったら、急に姿を眩ますし! しかも剣で攻撃までしてる!?」


 俺の戦い方に、女冒険者が唖然としている。

 確かにどんな天職なのか、まったく想像できないだろう。


 そうして魔物の数が減り、かなり余力が出てきたところで、


「はっはっは! そろそろ俺様の出番のようだな! あとは任せろ!」


 急に姿を現したのは黒い鎧に身を包んだ若い剣士だった。

 恐らくその天職は【黒剣士】。


 基本となる四属性魔法には含まれず、闇や死、呪いなどを扱うのが黒魔法だ。

【黒剣士】はその黒魔法を使える剣士なのだが、どうやら影の中に潜む魔法でずっと隠れていたらしい。


「何が俺様の出番よっ!? 仲間のピンチに一人だけ隠れてさ! 今さらのこのこと出てくんなし!」

「許せ! 俺様の影の魔法は一人用なんだ!」


【黒剣士】の男はまったく悪びれた様子もなく、俺の〈フリージング〉で『凍結』した魔物ばかりを狙って倒していく。

【黒剣士】の割には随分と明るい性格のようだが、ある意味で【黒剣士】らしいと言えるかもしれない。


「わ、私も戦いますっ!」


 そこへ【僧侶】の女がモンスタール―ムに降りてきた。


「あんたももっと早く降りてきなさいよ!」

「ひっ……で、でも、その人は私が呼んできたんですよっ!」


【弓士】に怒られ、【僧侶】が訴える。


 俺が加勢してからすでにかなり時間が経ってるけどな?

 きっとある程度、安全な状況になるまで待っていたのだろう。


 彼らはこの後、同じパーティでやっていけるのだろうか心配だが、まぁ俺の知ったことではないな。


 そうして俺たちはモンスタールームの魔物を全滅させたのだった。


「ふう……さすがに死ぬかと思った」

「ほんとよ。あんな凶悪なトラップがあるなんて。ちゃんとトラップ対策を考えないと、トラウマでもうダンジョンに潜りたくないわ」

「黒魔法の中に、その手の魔法があるかもしれねぇな」


 すっかり安堵しているが、俺はまだ警戒を緩めてはいなかった。


「おい、そこの【僧侶】。今のうちに仲間たちのHPを回復させておいた方がいいぞ」

「え? は、はい……っ!」


 トラップから落とされたパターンのモンスタールームには、出入り口が存在しない。

 すべてのモンスターを撃破して初めて出入り口が出現し、脱出すること可能なのだ。


 だが今、魔物をすべて倒したにもかかわらず、まだ出入り口が現れていない。

 こうした場合、可能性は二つある。


「一つはまだ倒せていない魔物が残っているケース。隠密系の魔物が多いが、希少なアイテムをドロップしてくれるボーナスモンスターがいることもある」


 こちらなら見つけて倒すだけだ。


「危ないのが二つ目だ。このダンジョンのユニークモンスターが出現するケース。当然ながら高レベルの強敵だ」


 ゲームでも、ランダムでモンスタールームにユニークモンスターが発生していた。

 大量の魔物と戦った直後なので、厳しい戦いを強いられる。


 そのときだ。

 ドゴオオオンッ、と部屋の壁がいきなり爆発したかと思うと、崩れた壁の向こうから巨大な魔物が姿を現した。


「……どうやら後者のようだな」


 身の丈三メートルを超える人型の魔物だ。

 しかも全身が分厚い脂肪で覆われているため、前後にも左右にもでかい。


 ぎょろりとした目に分厚い唇、醜いだんご鼻、耳は顔半分近くあろうかというほど大きいのだが、そんな不細工な顔が、なんと太い肩の上に二つも乗っていた。


「ツインヘッドトロールだと!?」

「ななな、何でこんなところに!?」


 冒険者たちが愕然と叫ぶ。


「「オオオオオオオオオオオオオンッ!!」」


 二つの顔が同時に雄叫びを轟かせ、両の手に持つ棘つきの棍棒を振り回す。

 それだけでちょっとした風が巻き起こり、前髪が逆立った。


 ツインヘッドトロールは、怪力と耐久力の高さが厄介な魔物トロールの上位種。

 そのレベルは80だ。


「今度こそ終わったわ……こっちはすでにボロボロだし、今からこんなのと戦えるわけないわよ……って、あんたなにまた隠れようとしてんのよ!?」

「い、いたたたた! くっ、こんなときに持病が! 戦いたいのに、これでは戦えない! というわけで、後のことは任せたぜ!」

「隠れても無駄だ。どのみち、こいつを倒さないと外には出られないはず」

「最悪です……何で降りてきちゃったんでしょうか……」


 絶望の表情を浮かべている冒険者たちだが、正直そこまで絶望的な状況というわけではない。


「お前たち、レベルは?」

「レベルっ? そんなの聞いてどうしようってのよっ?」

「念のため知っておいた方が、死人を少なくできると思ってな」

「もしかして倒せる方法があるの!?」

「ああ」


 藁にもすがる思いか、冒険者たちはすんなり教えてくれた。


「あたしは【弓士】のレベル53よ!」

「【騎士】レベル55だ」

「……【黒剣士】レベル49」

「【僧侶】のレベル48ですっ……」


 だいたい思っていた通りだな。

 これならいけそうだ。


「そういうあんたの天職とレベルはっ? ソロでここまで来れる時点で、相当な実力者だとは思うけど……」

「き、きっとそうですよ! 私たち助かるかも!?」


 期待の眼差しを向けてくる冒険者たち。

 ……俺が無職だということは伝えない方がよさそうだ。

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