第2話 親ガチャ失敗し過ぎだろ
親父は俺が家から出るだけでは飽き足らず、俺を処分してしまいたかったようだ。
……親ガチャ失敗し過ぎだろ、クソが。
だが幸い手足を縛っていた縄の結びが甘くて、意外と簡単に抜け出すことができた。
「ふう、助かった。何もできないまま魔物に喰われるところだったぜ」
もしかすると俺のことを哀れんだ兵士たちが、あえて縄を緩くしてくれていたのかもしれない。
「身体が自由になったらこっちのものだ」
なにせこの世界――『グラウンドワールド』の攻略法は、完璧に頭の中に入っている。
数あるゲームの中で、俺が最ものめり込んだゲーム。
それが『グラウンドワールド』、通称、グラワルだ。
フルダイブ型のオープンワールドアクションアドベンチャーゲームで、北海道に匹敵すると言われている凄まじく広大なフィールドを自由に動き回ることができ、しかもメインストーリー以外に膨大なサブエピソードや探索要素があって、めちゃくちゃやり込むことが可能なのだ。
発売から十年以上が経った今でも、当たり前のように新発見があるほど。
俺は自身のステータスを確認した。
―――――――――
ライズ=アルベール
【天職】なし
【レベル】1
【HP】5
【MP】5
【攻撃】2
【防御】2
【魔力】2
【敏捷】2
【アビリティ】なし
【アビリティポイント】1
【スキル】なし
【装備】〈上等な布の服〉
【称号】〈神々に見捨てられし者〉
―――――――――
レベル1なので当然だが、見事なまでの最弱ステータスである。
しかも無職なので「アビリティ」も「スキル」もなく、装備は今着ている服だけだ。
―――――――――
〈上等な布の服〉貴族などが身に着けている、やや高品質な布製の衣服。防御+2
―――――――――
「さすがに武器は欲しいな」
俺は近くに落ちていた木の枝を拾った。
―――――――――
〈木の枝〉ただの木の枝。非常に壊れやすい。攻撃+1
―――――――――
グラワル内では言わずと知れた最弱の武器である。
攻撃値の低さもさることながら、武器の隠しパラメータである耐久値が絶望的に低い。
「だがひとまずこれで十分だ。素手よりはマシだしな。そしてこの森。ゲーム世界と同じなら、アレがあるはず」
俺は木の枝を片手に歩き出す。
すると鋭い牙を有する巨大なウサギが現れた。
「ファングラビットか」
レベル2の魔物だ。
グラワルでは、同レベル帯の魔物であれば、ステータス上、一対一でも余裕をもって倒すことができる。
相応の装備があれば、なおさらだ。
だがそれは天職持ちの話。
無職だけは、同レベル帯の魔物が相手であっても、ステータスで劣っているため簡単には倒せない。
このファングラビットも、グラワル内では最弱クラスの魔物なのだが、レベル1の無職は、鋭い牙で噛みつかれたら一撃でHPが全損する。
かといって、敏捷も低いため、攻撃を避けることもできない。
初心者が無職でゲームスタートしてしまったら、初っ端から詰んでしまうのはこのためだ。
「もちろん対処法はある」
俺はこっそり拾っておいた石を、迫りくるファングラビットの顔面めがけて投擲した。
「ッ!?」
見事に直撃すると、ファングラビットの頭に星のエフェクトが舞う。
スタン状態だ。
実は魔物の急所を上手く攻撃することができれば、一時的に行動不能にすることが可能なのである。
「冒険の初期に出てくる魔物なら、大抵は石を当てるだけでスタン状態にできるからな」
ちなみに石はその辺にたくさん落ちているので、簡単に拾うことができる。
俺はすかさずファングラビットに接近すると、木の枝を何度も叩きつけた。
万一スタンから解け、攻撃されたら終わりだ。
しかし俺の攻撃力とファングラビットの防御力、そしてHPを考慮すれば、スタンが途切れる前に決着はつく。
グラワルをやり込んだ俺の頭には、ほぼすべての魔物のステータスが入っているし、後は自分のステータスを計算式に当てはめれば、ダメージ量を割り出すのは難しいことではない。
「キュウン……」
そんな情けない鳴き声と共に、ファングラビットが絶命する。
ゲームのときと同様、光の粒子と化して消滅し、毛皮らしきものだけが残された。
「ドロップアイテムか。〈牙兎の毛皮〉だな」
服を作る素材として利用されるアイテムである。
店に持っていけば、200ゴルドで売れるはずだ。
ゴルドはこの世界のお金の単位である。
飲食店で食事をすると、だいたい1000ゴルドくらいかかる、という感じの物価だ。
―――――――――
【レベル】1→2
【HP】5→10
【MP】5→10
【攻撃】2→4
【防御】2→4
【魔力】2→4
【敏捷】2→4
【アビリティポイント】1→2
―――――――――
さらにファングラビットを倒したことで、レベルが上がった。
このステータスの上り幅は、正直言ってめちゃくちゃ悪い。
例えば初心者向けの天職とされていた【剣士】なら、単純なステータスは無職と比較し、攻撃が二倍、HP、防御、敏捷が一・五倍である。
加えて【剣士】はスキルも習得できた。
そんな脆弱な無職だが、天職持ちを凌駕し得る、唯一無二の特性があった。
「っ、あったぞ。『天職の祠』だ」
森の奥深くに、小さな遺跡のような建造物を発見する。
天職の祠。
それはプレイヤーに、通常のレベルアップでは習得できない特別なアビリティとスキルを授けてくれる場所で、世界各地に点在している。
ただし天職によって、入ることができる祠と入れない祠があるのだが、
「無職だけが、その制約を受けない。つまり、祠で習得できるすべてのスキルを、無職は使うことが可能なのだ」
ゆえに無職は、いつしかプレイヤーたちからこう呼ばれるようになっていた。
――万能職、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます