【余談2】若き日の夢

 ある日、出社すると、地獄が待っていた。我々宛の電話が鳴りやまない。

「パソコンが動かない!」

「ネットワークはいつ復旧するの!」

「目途は?目途!」


 20世紀後半、インターネットが普及し始めた頃のこと。私こと夢は出向先の何某社で、社内ネットワーク管理者チームのリーダーになった。所属は開発部門だったのだが、何某社の業界はマーケティングで、当時理系人口が少なかった為、開発部門で本来なら運用の分類になる社内ネットワーク管理も行っていたのだ。

「いや、確かに技術は絡むけどよ。」

 開発と運用は考え方が少々異なる。前任者はたった一人。しかも、今回、担当替えをするとのことだ。

 運用舐めたらあかんがな。私は、新人時代に親会社で開発部門の社内ネットワーク担当をしていた為、社内ネットワークの何たるかは運用プロの管理者達に叩き込まれたのだ。(ややこしいが、管理者といち担当は位置づけが違う。)


 何某社の社内ネットワークユーザーは当時10000人強。その個人個人が開発部門の電話番号に直接かけてきたら、冒頭の事態になる。当時、メール経由でウイルスに感染する例が後を絶たなかった。そもそも、ウイルス対策ソフトをパソコンに入れるという概念がない人が多かった。


「ここは、なんだ、靴のないアフリカで、私は靴のセールスマンか。(今もあるかは知らないが、昔営業の心構えの比喩で流行った。靴を履かないから売れないとみるか、今後の新規顧客とみるか。)」


 最初の一回目のウイルス騒ぎを、ぜいぜいいってこなした後、上司に掛け合って、各部門にネットワーク担当を任命すること、また、その担当には列挙してある内容に関しそれなりの稼働がかかるが、それを業務として認めることを、役員会で決定するよう頼んだ。まずは、人の環境整備である。そして、担当になった人が貧乏くじだと思わないように予めしておくのが大事。


 そして、社内ネットワーク管理者チームは任命された各部門のネットワーク担当を通じて、連絡を通すことにした。これで、相手をするのは10000人から100人に減った。そして、この連絡網を形骸化させないようにし、緊急時の連絡体制を整備した。


 社内ネットワークといっても、本社ビルひとつだけではなかった。大型の拠点が6か所ほど、また、小型拠点がいっぱい。いっぱい、じゃ、あかんがな。会社のネットワーク図きちんと作らないと。

 運用は人、技術、両方が適切に管理される必要がある。

 すべての拠点の各部門の住所、FAX番号、正副担当の氏名、メールアドレス

 接続拠点の技術的方法、回線速度

 きっちり管理した。そして、それはアップデートされないといけないのだ。時代の変化や業務のデジタル化の波に耐えられるように、全体と各拠点の利用状態を考慮して。どうしても技術や設備は陳腐化していく。


 管理の次は啓蒙である。一言でいえば、

「社員一人一人のセキュリティ意識によって社内ネットワークは守られます。」

 社内ネットワーク管理者チームが社内ネットワークを守っているのではない。任命した各部門のネットワーク担当が社内ネットワークを守っているのではない。個人が守らなければならないルールがあるのです。

 ということである。


 大変ではあったが、できた。


 「ウイルスに感染した!」

 「数時間前からすごい勢いで流行っている!」

 「感染したパソコンをネットワークから外すように周知!」

 「本社二階エリア炎上!二階エリア切り離し!」

 「対策判明!駆除成功!駆除方法をFAXで全拠点に送信!」


 みたいな感じで、ウイルスが発生しても、拠点の混乱を各部門のネットワーク担当が抑え、社内ネットワーク管理者チームはそのウイルスの対策に専念することが出来、短時間で騒ぎが収まるようになった。


 なんとなく、思い出したのは、「ウイルス」の種類は違うが、コロナ第一波の時の日本経済の沈黙が、まさに新規ウイルスが社内ネットワークに入ってきたときの対処が似ているのと、琉が生きるか死ぬかの時に、自然と仕事系列、親類系列と連絡体制を作って相手をする人数を減らしたのはこの経験によると気が付いたからだ。


 社内ネットワークは正常に動いていて当たり前、障害があればすぐ文句を言われる。クレームと不明な原因に正直、心が折れそうだが、平静で行動する日々を過ごしていた。しかし、積もれば経験だ。ゲームでよくあるスキルの経験値稼ぎ、私はリアルのこれで稼いだのだと思う。スキル名は…「対策集中」「切り離し」。










 

 



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