6:転棟

 消化器内科で執刀(注射器だが)した為、救急の部屋から消化器内科の属する管理棟に移される。


コロコロ(注:電話呼び出し音)

「部屋なんですけど、個室と相部屋どちらがいいですか。」

 個室代は医者の指定がなければ、一日一万はかかるという。

 時はコロナ第一波、コロナ担当の医師や看護婦がレインコートで処置を行っていた時期で、私は状況を電話で聞いているだけである。しかも、ニュースで「莫迦邪県立凧中総合病院で院内感染」と数日前に大きくニュースで取り上げられている最中、感染症で高熱、いまだ意識のない琉を相部屋という選択は私にはなかった。


 琉に財産がいくらあるかはその時の私は知らないが、自分の財産がいくらあるかは知っている。しかも、仕事を3月末で辞めた為、自分に急な用はない。病院をどこまで信じるかという話になるが、コロナ対策自体が同時期に作成されている為、何か起こってからでは遅いのだ。個室、即ち、命の担保をお金で買う。なかなかエグいが、琉が死んで後悔するくらいなら、金が減ったほうがましである。


「個室で。」

 そういった後、確か、定期貯金を壊しに行った。超低金利で利率もろくについていない。これで支払いも万全である。


コロコロ

「輸血していいですか。フレッシュな血が必要なもので。」

 今は血について血縁である必要はないが、免疫力を上げるためにフレッシュな血が必要らしい。 


コロコロ

 毎日、宵乃生医師から何かしら電話がかかってくる。次は何だと構えていると、

「本人さん、ご飯食べてます。」

は?


いろいろ飛ばしてないか?

「ご飯食べてます。完食しました。」


 後に琉に聞いた話だと、感染症にかかった時のことは全然覚えていないのだが、

「ふと目が覚めるとご飯がそこにあったので、食べた。」

そうだ。なに、その「そこに山があったから登る」みたいなノリ。その時、琉は、既に半月はご飯を食べていなかった筈なのだが、消化されたのだろうか。ロングラン漫画の未来の海賊王、モンキーDふみゅいさんと一瞬間違いそうになる。


 さて、琉は健康優良児というか、子供みたいで、意識が戻り、本人のテンションも高いのだが、熱も高い。

「本人さん、具合は悪くなさそうなのですが、39度あります。」


 まだまだ入院生活は続く。

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