【余談6】凧中総合病院ひきあげの際のもろもろ

 琉は一か月3000円ほどの一般の保険に入っていた。一日入院すると5000円というものだ。ただ、個室一日1万円かかるのは、この保険では赤字である。凧中総合病院では二か月全部で60万はかかったと記憶している。高額療養費制度は4月中に認識し「限度額適用認定証」をとったはずだが、これが効いていたかどうか、いまや覚えがない。緊急の入院というのは、理性を失う。きちんと計算しようと思うのは、確定申告で医療費控除を行うときぐらいだ。が、その年知ったのだが、琉は白色申告の赤字事業者であった。その時点で、私は計算優先度をかなり下げた。まずは生活を確立する必要があったのだ。


 一般の保険は全盲の事実がわかると、その月会費が免除になった。また、障碍者手帳を交付された後は、公布日以降、医療費がかからなくなった。この一連の流れの中で、私は喚きたい気持ちになった。何故か。

 琉の失明は入院後3日で判明していたのである。ケチな考え方をすると、その時点で診断書の記載を依頼し、障碍者手帳を早めに交付されていたとすれば、先の60万は半額以下になっていたはずだ。実際のところは烏賊墨病院の入院途中で交付されたため、烏賊墨病院でも医療費がかかっている。


 もう一つは、全盲だと何故医療費が無料になるのか、これの理由がわからない。その後今までの生活で知ったのだが、実は眼科をはじめとした病院にかかる必要のない全盲は珍しいらしい。大抵、目は徐々に悪くなるらしい。琉の場合、…後に別の病院でも見てもらったのだが、木造家屋がまるで大火事で全焼しつくしたように、骨組みしか残らず、それも使えない状態なのだそうだ。ただ、レアケースといわれても、なんらうれしくない事である。

 さらにいうと、琉は全盲で医療費は無料になるが、難聴の為の補聴器を作る分にはなぜか何も関係がない。難聴の度合いで医者の見立てがあり、補聴器を作るよう勧められ指定の資格がある補聴器センターで作成し、確定申告で医療費控除を行えば、補聴器代の9割は帰ってくる。補聴器は片耳20万程する。


 これは、少々酷い。何が酷いかというと、全盲と難聴が同時に障害と認識されず、体のパーツを別々にとらえられている処である。全盲だから、より耳の精度が重要なのだが、配慮されない。そして、補聴器。作って、その金額が戻るのは、確定申告で戻る税金があるときである。琉が、赤字営業をしていると認識したときは、20万の出費で戻り先の税金がなく、戻らないのだから、かなり覚悟を決めた。


 本当は、全盲で医療費が無料になる配慮は、まさに耳など、他の五感や身体機能を大事にしないと生きられないからあるのではないか。しかし、「何故」という理由が伝えられず、「制度」だけが残るためにおかしいことになる。


 結果として、会計的にはどうなるか。2024年の夢が答えよう。

 医療費控除の確定申告は5年前までさかのぼることができる。よって、2023年に手を付けた。医療費控除はよく10万という数値が独り歩きしているが、それは収入が200万ある人の場合が10万越えなのであり、それ以下の収入であれば、閾値は10万以下になる。収入が0で税金が0なら確かに戻らないが、分離課税の株や原稿料など、なにか源泉徴収票があり、税を納めていることが分かれば戻る。

 琉は吾の配偶者であるから、遺族年金があり、吾の株が資産としてあり、大病をした2020年と補聴器を購入した2021年には株の方で利益が出ていたので、各年分、確定申告をして、医療費控除を行い、株の税金が還付されて戻ってきた。なお、医療費控除の際は、保険でもらった分は相殺される。なので、戻る税金があるならば、保険自体はあまり意味はない。高額医療費の戻り分もここで相殺だ。

 払っている税金より、かかった医療費が膨大であれば、医療費控除の計算枠があったとしても、払った税金より医療費控除の金額が大きくなり、結果として払った税金は全額帰ってくる。(ただし、株でものすごく儲かっていたわけではなく、その時の税=還付金は10万程度であった。なお、この還付金を受け取った年はその金額分、雑収入として申告の必要が生じる。)


 なお、琉は分離課税には疎いうえ、2019年以前の医療費控除などを全然行っていなかったので、2019年分を修正申告できるかと思ったら、琉がすでに自営業でマイナスの確定申告しているものについて、株と合わせた修正(株の利益から医療費控除しようと考えたのだが)は不可能だった。


 2022年には株で利益が出ず、マイナスになっていたが、それも申告しておいた。株のマイナスはマイナスで以後の3年確定申告が必要だが、考慮がされるようである。


 現在、琉の生活は琉の資産の範囲内で成立している。こう言い切れるのは、いろんな制度を熟知したからだ。損をしている時もあれば、得をしているところもある。制度(税も福祉も)というのは、ある程度の幅で、きめうちで作られているからだろう。ただ、私が熟知する為に、かなりの時間を要していることは否めない。親が健康で別々のライフスタイルを築きあげていて、突然、親が病気になったり、介護が必要になったりし、即お亡くなりになってしまいなどしたら、まず、やっつけ仕事で作業をこなすのに精いっぱいで、後から制度が準備されていたことを知り、愕然とすることになるだろう。私が現在ここで文章を書き続ける理由は、文章による仮想体験で、読者に「その時」が来たとき、事前に必要なキーワードが思い浮かぶようになることを願うからである。必ずしも、すべての人が一から始める必要はなく、人は共有する知性を持ち合わせているのだから。





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