【余談5】壁対策

 当時の私は見当がつかないからと安易に天然塗り素材「ひとりでぬれーる」22㎏を一気に買ってしまっているが、これは悪手である。漆喰等壁塗り製品はお試しサイズがいろいろ出ているため、自室の一角等、目立たないスペースで様子を見ることをお勧めする。なぜか。リビングなどという、大スペースの一面を塗るということは、少なく見積もっても、「リビング一部屋」が「その製品」の「その色」で決定してしまうからである。それは、「その製品」の「その色」を今後、複数購入しなければならないということに直結する。それを試し塗りと言い切れるのは、もう一度その面をやり直す根性と金と時間がふんだんにあるこだわりの人だ。

 なお、壁の対処としては、同様に塗るタイプとしては漆喰だけではなく、珪藻土、ペンキ、貼るものとしては壁紙、レンガ風軽石など、結構いろいろある。DIYは今や可能性は無限大。だが、製品や素材には個別に特長、得手、不得手がある。まずは、どんな感じに仕上げたいかよく考えよう。


 「ひとりでぬれーる」はよく見ると天然塗り素材で、漆喰とは書かれていなかった。よく読むと漆喰風と書いてある。この製品を使うのに一番適したユーザーは、壁塗りを多少イメージ出来ていて、一部屋のひと壁を古い壁紙の上から二時間ばかりでササっと塗り替えたい人である。私のように、超初心者のくせに、塗る前の下地がどうのとかこだわり始める人には向いていない。後で他製品と比較して分かったが、テクスチャがさらっとしていて、まるでファンデーションのようである。薄付きで「なんちゃって漆喰」を実現させるのだ。色数も30種類と多彩である。しかし、最初だからと無難なベージュを選んだ私には、力を入れる方向性が違っていて、お互い勿体ない。


 リビングの一角を塗った後、私は、トイレ、浴室、台所用で、タイルの上にも塗れる接着剤入り「かべかーべ」下塗り用という製品に出会い、廊下、別室用で、塗るときのにおいこそすさまじく、色数3種類と少ないが、すべて天然成分、価格もやや安い「和の美」を利用した。自宅の大改修における私の最終解といえば、この二つである。

 タイルの上から漆喰を塗れるようにする「かべかーべ」下塗り用は昭和の建売住宅のいけてないタイルを見事に別物の壁にしてくれたし、「和の美」は扱いこそ面倒だが、丈夫な本格漆喰の壁を実現してくれた。そして、一番いいのは、使用期限がないことだ。ちゃんと保管していれば、時間がたっても使えるようである。ただし、保管は難しく、表面が固くなってしまったり、保管中にかびたりして捨てる部分が出てしまう。

 本物の漆喰職人は粉の石灰をその場で水で混ぜて作るようだ。そのほうがコストも安い。「ひとりでぬれーる」22kgなんて、水が混ざっているから重いのだ。市販の液体洗剤と同様、水代が入っている。

 ただ、白以外を作る場合は色の実現が難しそうだ。


 製品で購入した漆喰にもよく「水を混ぜないでください。」と書いてあり、その理由を書いていない。理由がわからないので、硬くて混ぜづらいとき、水で薄めて使ってみる。白なら別に問題ない。しかし、色のついた漆喰でそれがよくわかる。水で薄めると、色も薄まってしまい、先に塗った漆喰と微妙に色が変わるのだ。白でも、もし濃度を気にするなら、影響がある。


 余談の余談だが、世の中の説明書は、なぜ禁止事項を書いて、その理由を適切に明記しないのだろう。人にものを理解させるには、理由があって禁止事項があるべきだ。人の暗記能力には限界がある。しかし、理由がわかっての禁止事項は納得が得られるため、記憶されやすい。

 しかし、世の中の教育、日本の教育?は規則などに理由をつけず暗記をさせているように思う。それが、学生のみならず、資格試験でもまかり通り、奇妙なプロを生み出すのだ。私が現在、物を書いて一番訴えたいのは、もしかしたらこのことかもしれない。禁止が先ではない。問題となる理由があるから規則や禁止になるのだ。


 本格漆喰をもとめず、隙間時間で漆喰風を目指す場合で、ぼかしの色合いを自分でつけたい人には、「しっくーい」というスポンジでクリームを塗るように壁紙の上からつける製品が出ている。値段は少々お高いが、マスカー等不要で、「家事の合間でお手軽に」出来ることが売りのようだ。


 コロナ禍で不況知らずだったDIY市場。まったく侮れない。昔は自分のやりたいことが到底実現できないで、いまいちな自作か、融通の利かない既製品の二択だったところが、DIYの補助製品が格段に増えて、自分の志向やレベルに合わせて製品を選べば、ほしい形に手が届くようになっている。この点は今を生きていて、よかったと思う次第だ。

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