3:発症。
2020年4月。4月は若阿家にとって、あまりうれしくない月である。父、吾が他界した月なのだ。しかも、まだ3年目。よりにもよって、父、吾の命日に母、琉の具合が悪くなった。加えてこの年その日は時の首相が『緊急事態宣言』を出した時だ。
琉は、コロナのニュースをよく見ていて、手帳やカレンダーにもマークをしていた。
「なんだか、具合が悪いから、早く寝るわね。」
健康優良児をそのまま大きくしたような琉が、そういってリビングから離れた寝室に行った。
「今日は、スーパーで、本を触ったのがいけなかったのかしら。それとも、今日届いた荷物の段ボールを拭いたのかしら。」
この会話が、普段通りの最後になるとは私はその時、思わなかった。
この時期に唐突に出た御触れ。
『熱が、37.5度以上であっても医療機関に行かず、数日は家で様子を見てください。』
琉は、これを守った。時々、
「病院にいったほうがいいかしら。でも、まだ、大丈夫かしら。」
といっていた。寝室にもテレビがあるため、それをつけていたが、いつもと違い、異常に画面に近づいて見ている。『テレビの画面を見るときは離れて主義』の琉であるのにおかしい。
「具合が悪いからいいの。」
といって、テレビのほうを頭にして寝ている。
私は三度の食事を持って行ったが、二日目の途中から
「いらない。」
「うるさい。」
と人格が変わったようになった。琉は基本、自分の本当の感情を素で出さない。よく言えば相手を尊重、悪く言えば機嫌を取るような会話の運びをする。
そのうち、
「え、何、聞こえなーい。」
と言い始めた。金曜の夜のことだ。うるさそうにする態度は変わらず、目だけがぎょろっとこちらを見、即、横を向いて寝る。その目、ぎょろっとみた目に生気がなくー、いや、この目見たことがある。父、吾が死ぬ前にしていた眼だ。
私は、そのときの人格の変わってしまった琉に、
「明日の午前中、病院に行こう。」
と声をかけ、その夜を終えた。
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