2:超暇。

 2020年2月。琉は、いつもじっとしていない。愛車の赤POSOを運転し、始終買い物に出かけている。

「子供か。」

 私は、琉に言った。

「だって、暇なんだもん。」


 余山市ではまだコロナが出ていない時だ。まだ、感染者のいる豪華客船を日本の中に入れないで、船舶の中で何とかしようとしている頃。ニュースだけが騒いでいた。

 とはいうものの、来たるべき、コロナに向けての対策はしていた。琉は、アルコールティッシュで至る所を拭いていた。宅配便が届いたらその段ボールも拭いていた。


「新学期は、この時勢だと、生徒は取らないほうがいいわね。」

 琉はそういって、4月からの生徒募集を見送っていた。それもあり、暇、である。琉が暇なときは、通常、ナンプレ等のクイズをよく解いているが、手元のものを全部解いてしまったようだ。それ以外では、スマホで、英会話のゲーム『えいぽんぽん』にハマっていた時がある。スマホのブロック系ゲームも嗜むことは嗜むが、『えいぽんぽん』は数年、琉の心をがっちりと掴み、四六時中暇なときはそれを行っていた。私は興味がなかったが、琉はかなりハイレベルなポジションにいるとよく得意がっていた。しかし、残念なことに、『えいぽんぽん』のサービスが終了してしまったのだ。

 私にまとわりついたあとは、どこから出したのか、古い、私が子供のころの小学生向け伝記集を持ち出して、読んでいる。

「いや、それ、おもしろい?」

 私はそれが面白かった記憶がない。未だにあったことすら驚く小学生向けの伝記集だ。かなり表面的ないいことしか書いてなかった覚えがある。


 琉は全身で、

「超、暇!」

と言っていた。そして、テレビを眺めては何を思ったか、

「目が見えなくなるって、嫌よねえ。」

などと言っていた。

それが、琉が健常者だった時の、私の最後の記憶である。

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