1:予兆。
2020年1月。若阿家にて、母の琉と私、夢は夕飯を食べおわり、ニュースを見ていた。中国武漢で発生した怪しい感染症が、世界的に広がりそうな兆しとのこと。
「これは、時代が変わるわね。」
琉がいつになく、真面目な口調で言っていたのを私は覚えている。その頃、コロナは、命名されたその名が有名になる前で、バラエティ系のニュースのアナウンサーは
「かかっても大したことのないものとは言われていますが、気を付けましょう。」
といっていた。「かかっても大したことのない」に我々は情報操作感を覚えた。なんだかよくわかっていないものが流行って、大したことないなんて根拠なしに、どうやったら言えるのだ。
その時、琉は現役塾講師であったが、シーズンオフ、私は地元余山市のIT会社に勤めていたが、3月末で退職する予定にしていた。そのせいもあり、その時間がすこしまったりしていたのを覚えている。
当時、79になる琉は約40年余山市で塾講師をしていた一方、50になろうとしていた私の余山市の滞在年数は実は短い。私は小中高は確かに余山市にいたが、大学以降は首都圏に出、就職もそちらだったのだ。が、なんとなく両親が高齢ということもあり、地元に戻った。そのとき入ったのが、このIT会社だが、退職しようとしていたのは、その会社の資金繰りが上手くいっておらず、勤続5年程では、私は泥船に乗り続ける愛社精神は持ち合わせないからである。
ただ、これを書いている今も、私は首都圏で仕事を続けていたらよかったとは思っていない。この「なんとなく地元に戻った」のが、結果としてはよかったのだ。私が余山市に戻ってから、父、吾は病気がわかり6か月で他界した。そして、吾の経験がなければ、琉の置かれている状況の察知が難しかっただろう。
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