4:救急。

 土曜日早朝。なんだかがたがたする音で目が覚めた。まだ眠いと思いつつ、音を分析すると、廊下に掃除機がぶつかる音だ。

 いや、琉は寝込んでいたのに、掃除機はおかしいだろう。私は飛び起きた。

 トイレの横の洗面台で、下の洋服をきていない(ように見えた)琉が、掃除機をかけている。少し離れたところに、粗相の跡があった。洗面台とトイレを間違った?いや、その時の私にそこまで細かい分析をする余裕はなかった。前日の様子からして、明らかに異常事態だ。


 琉から掃除機を離し、とりあえず毛布で琉をくるんで、人生で初めて救急車を呼んだ。どうしましたか、どこですか、そんな問いに何とか答え、ふと思い至り注文を付ける。

「あの、サイレンを鳴らさないでいただけますか。」

「それはできませんが、なぜですか。」

「閑静な住宅街なもので、みな寝ているかと思うんです。」


 救急車が来るとき、とにかく、場所がわかればサイレンは止まるだろうと、私は家の外の道路の真ん中で手を振った。その時たぶん、サイレンは消えた気がする。

 救急車が来るまでは、とにかく琉の保険証を探した。私と琉は、自分の財産はそれぞれで管理していた。琉がどこに何を持っているかなど、全然わからない。

 お薬手帳、琉はでたらめに複数に張っていたようでどれが重要かわからない。いや、そもそも、健康なたちなのだ。

 救急車に乗せられた琉のいでたちは、見ようによっては狂人だ。寒くて、近くにあったセーターを着たのが、横に穴が開いていたのに腕を通している。靴下は片方がなく、ズボンをはいていない。見かけだけではなく、がたがた骸骨のように震えていた。


 救急車に乗り込み、行き先を決める。

「今日の救急は、余模須江市方面と、余山市中央なのですが、どっちに行きます?」

 頭の中に余模須江市の大学病院にかかった父の吾の末路が思い出された。

「余山市中央で、お願いします。」

 救急車は帰りは送ってくれるわけではない。余模須江市などに行っては帰りがままならないのもある。余山市の中央に向かって、救急車は走った。

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