5:転院。

 余山市中央にある、その時の救急担当だった病院に、二時間ばかり居たか居なかったか。待ち時間を長いと感じる間もなく、琉と私はまた救急車に乗って、凧中総合病院に運ばれた。血の具合がものすごく悪く、その救急担当の病院では原因が調べられないといった理由だったかと思う。

 救急車にまた乗る際も、琉は寒い寒いとガタガタ震えていた。莫迦邪県立凧中総合病院に搬送され、だだっぴろい部屋と沢山の医者が並んでいる中、

「凧中総合病院は初診ですか。」

等の質問が私になされた。この時勢、最初の懸念事項はコロナだ。

「コロナにかかったのでしょうか。」

私はそう尋ねたが、医者は

「コロナは呼吸器系の症状が現れるため、該当しないですね。」

と回答する。


点滴をされ、少しは落ち着いたのだろうか。

「夢ちゃーん。どこなのー。」

と琉が私を呼んでいる。

真横で

「ここにいる。」

といっても、わかっていないようである。そこで、医者群に、

「昨日から、目と耳がおかしいようなんです。年のせいじゃありません。」

と訴えるのだが、医者群は「血の状態が普通じゃない」ことに夢中になり、聞いていない。


 部屋を移された。

 琉がそこで起き上がれるようになって、

「なんで(注意していたのにコロナに)なっちゃったのかしら。」

といったのに、

「いや、コロナじゃないってよ。」

と答えた記憶は正しいのか正しくないのか自分でもわからないが、その時が、琉の目が見えていた最後の時だった。


「今日のところはこれで終わりです。」

医者にそういわれて、何日かしたら、琉はすぐ退院できるだろうと考えていた。少なくとも、まるっきり世界が変わることなど、予想だにしていなかった。






 

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