1:贈答品ーー第一章 入院編(莫迦邪県立凧中総合病院)

 帰り際に、看護師から必要なものリストを渡された。病院内にあるコンビニで購入できるものもあれば、難しいものもある。

「口腔ブラシ、マウスウォッシュ、トイレットペーパーにつける紙の柔軟剤。」

それ以外にあと2,3品だっただろうか。品数はそう多くはなかったが、品名は指定されている。

「すべての持ち物に名前の記載はお願いします。」

入院とは、こういうものだ。父も入院していたので、珍しくはない。


「おむつもいるんですか。」

 「おむつ」は、もう一般的なものなのか、一日いくらというのと、自分で準備する方式が選択できるようになっている。おむつねえ。琉は今までおむつとは無縁だったが、病院に運び込んだ際の状況を考慮するといらないとは言えない。これは一日単位を選択した。


 コンビニにないものは明日車で持ってくることにして、公共交通機関で帰宅する。また、救急車で一緒に運んできた毛布や、その時琉が着ていた服一式を持ち帰るには車じゃないと厳しい。凧中総合病院は余山市の中央にあるが、我が家は余山市の北端に位置し、公共交通機関の利用では、バスやJRを駆使し、最後は徒歩で、Door to Doorでは2時間弱かかるのだ。


 すでに土曜日も昼を回っていた。家に帰り、私がしたのは、まずは現場ートイレ、洗面台、廊下の確認と、掃除、洗濯だったか。後は留守電の確認と…、そこで、思いっきり、ため息をついた。


「若阿さん、足土です。ずっとお留守みたいだったから、ガレージの柵のところに、お菓子かけときました。旦那さん御命日だったでしょ。お供えしてください。」


 足土さんとは、私も面識のあるご近所さんである。確認すると、ガレージの柵に、地元名産『桃栗あんこ』の大きなセットがかかっていた。『桃栗あんこ』とは餡とカステラで作られたお菓子であり、ひとつあたりが巨大な長方形である。これを切り分けてお茶うけにするのだ。頂いたセットにはそれが3本入っていた。何人分だ。一本を切り分けると大体12ピース出来る。一本単位では真空状態になっており、多少日持ちはするものの、36ピース。。。

 うちは、琉と二人暮らしである。そして、琉が入院した現在、私、一人である。どないせいちゅうねん。


 私、若阿夢は贈答品が嫌いである。正確には、その不必要なガワが嫌いだ。その瞬間のための化粧箱は、安く見積もり、多分50円ぐらいかかっている。私ならガワに金はかけず、中身にお金をかける。しかし、人にあげる際、見た目を全然気にしないわけではない。手持ちの紙や紐を使って、ちょいお洒落にしておく。あと、中身も相手の嗜好や家族構成に合わせるものだと思っている。

 というわけで、私的には、ものすごくこの『桃栗あんこ』はNGだ。しかし、多分、母の琉は今まで人からいただいた物に文句を言わなかったのだろう。それどころか、

「まあ、どうもありがとうございます。うちは皆これが大好きで。」

と言っていた可能性もある。

 令和のこの時世に、頂き物のお世辞は不要だ。寧ろ害悪だ。うちには、頂いただけで転がされていた「頂き物」が数多く存在した。そして、同じ頂き物が、次の年にまた増えるのだ。琉の義理の倍のお返しと、正しく嗜好を伝えていないがためもあっての向こう都合の好意の品が。


 とはいうものの、父の命日を過ぎ、いただいた状態になったものは仕方がない。足土さんの電話番号を母の携帯から探して電話をしようとして、琉が入院したことは少し黙っていることにした。根掘り葉掘り聞かれても答えようがない。


 簡単に電話でお礼を言って電話を切り、明日、病院にこの『桃栗あんこ』を持っていこうと決意した。



 

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