2:桃栗あんこ
日曜日。前日に指定されたものと、『桃栗あんこ』を持って、車で凧中総合病院に向かう。余山市の中央にあるため、駐車場も無料ではない。が、院内で患者訪問の印が押されれば、まずは、30分無料、患者説明の為の印が押されれば全額無料になる。ただ、そういうのが分かるのは、その病院を何度も使う時か、余裕のある時で、凧中に単独で来た私には頭から抜けやすい事柄である。しかも、病院の休日(時間外)であり、コロナで必要以上にガチガチな体制が組まれ始めたばかりの時だ。
救急の部屋の前に行き、インターホンを押すと、看護師が出てきて、私の体温を測定し、健康チェックをして紙に記載した。
「これが言われていたものです。」
「こちらがお預かりしていた毛布とお洋服ですね。」
「あと、これ、皆さんで召し上がってください。」
私は、すかさず『桃栗あんこ』を差し出した。
「申し訳ありませんが、当病院では、患者様からスタッフへの贈答品はいただいておりません。お気持ちだけ受け取っておきます。」
むー。残念だが、この対応は少し見直した。かつて、20年前頃は手術前に医者に贈り物をしろと言われていた気がする。いろいろ押したのだが、受け取られなかった。
なお、その日は部屋に入れてもらえなかった。そこで様子を聞くと、
「昨日と同じですよ。」
と帰ってくる。琉は、前日の最後の、意識のある状態で、看護師に日にち、名前、年齢、自分が塾講師であることを答え、さらに多少雑談を飛ばしていたらしい。
「あ、飲み物をいくらか買っておいてください。」
看護師によると、琉は水をよく飲むので足りなくなるそうだ。今の感じではあまり大事は無い。その階の自動販売機でいろんな種類のペットボトルを購入し、その人に託した。そこで帰途についた。
さて。『桃栗あんこ』である。私は『桃栗あんこ』が嫌いだ。さらには、琉はカステラが駄目である。同居を始めてから、カステラは水気がなくて喉に詰まるから嫌だと言っていた。要するに、この形態で食べられることがない。
日曜はまだ時間がある。私は全てを餡とカステラに分離することにした。カステラは水分を飛ばせばラスクになると見たことがある。ラスクは少々日持ちがしそうだ。そして、餡は水で練ってお汁粉とか別のものにできるのではないだろうか。琉は、カステラの大きさで水気がないのはだめだが、ラスクまで小さくしてカチカチであれば問題がない。琉は、いつまでたっても健康な歯が自慢なのだ。
そこで、私はカステラを切って、250℃のオーブンで30分ほど焼いてラスクにし、餡を鍋で煮詰めて部分的に取り出し、お汁粉にして食べた。ラスクは結構おいしく出来、別に分けた餡も悪くはなかったが、金輪際『桃栗あんこ』は要らないと思った。
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