4:TOEIC-CD
琉は塾講師であった。約40年余山市で現役、かつ実績を挙げていたのだ。病院の中でできるとしたら、CDだのカセットで自分が何者か思い出すのが一番ではないだろうか。
私は琉の職場に入院の連絡をするのと同時に、病院内で流してもよさそうなCDを貸してもらえるようお願いをした。あと、可能であれば、何か応援メッセージを手紙でもらえると嬉しいと添えると、両方ともOKを頂いた。
そこで、借りたのが、TOEIC攻略CDである。昔琉がはまっていたゲーム『えいぽんぽん』もTOEICの英単語量を測るゲームであったので丁度よい。普通の人が聞くと退屈だが、琉ならいいのだ。そういう人だ。
私は病院の救急にCDラジカセとそのCDを持参し、延々かけてもらうようにお願いした。「奇跡を待つ」作戦だと言ったら、理解されたようだ。
***
コロナ禍で、病院に行くことは著しく制限され、私は専ら、主治医となった消化器内科の宵乃生医師の連絡を待つだけになった。
「本人さんですが、血の状態が改善されてきまして、これはもしかしたら、手術ができるかもしれない。」
「今の成功率はどんなものですか。」
「まだ、賭けですかね。」
「改善してきたのなら、もう少し待ちましょう。」
さて、丁度コロナ禍の一番ひどい最中、実の母が生きるか死ぬか、奇跡を待たなければいけない状況で、自分が面会制限されているという心理状態を想像していただきたい。かなり肝が据わっていないとメンタルがやられるので、予め雑事は降ってこないようにしようと考える。そんな最中、大迷惑なのが、母の弟、坂上網彦の嫁、涼子である。母の弟の嫁、即ち、私とはなんら無関係の血のつながりすらない他人だ。
じゃかじゃか電話をしてくるのを発信番号を見て無視をしていたら、次はメッセージ攻撃である。
「近くの神社に祈祷に行きたいので詳細を教えてください。」
今まで言った内容以上のことはねえよ。
というか、余計な人間の応対をしたくないので、私は親類系の電話連絡網は、従兄弟の坂上一ルートに絞っているのだが、本当に愚かな母の弟の嫁(赤の他人)である。網彦が必要以上に偉そうだから、自分も偉いと勘違いしている馬鹿である。
必要な電話を待ってる際の、無駄な電話やメッセージの邪魔な事にいい年して気が付かないか。
織田信長は父の死の位牌に灰を投げつけて
「神や仏が何をしてくれた!」
といったとか、いわないとか、私はその手の話が好きな無神論者である。ちょい役、涼子の自己満足の為に、本筋、琉の状況を逃すようなことをしたくない。私は、元々が、琉と違ってお世辞を言わないのだ。
馬鹿じゃないの。
そんな返事も書く時間すら無駄。ただ、憎しみだけがメンタルに積もり積もる。
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