11:みんないってる
琉の文句は
「隣のベッドの人は毎日見舞いに来ているのに、なんでもっと来ないの。」
というものだ。本当に隣の人のところにそうしょっちゅう見舞いが来るのか、宵乃生医師に聞いてみる。
「見舞いですか。一律同じルールですよ。隣のベッドの人は僕の科の人じゃないから、詳しくは知りませんが、もし毎日見舞いが許可されているとしたら、それはもうじき死ぬってことですよ。」
すごい回答が返ってきたので、相部屋では言えなかった。
ただ、琉の言っていることが真実じゃない場合もある。思うのだが、人間はある程度は分類分けが可能だ。琉はたぶん子供だったら、欲しいものがあった場合、
「みんな持ってる。」という強請り方をするタイプの人だと私は思っている。それが80近くになっても変わらないのだ。
相部屋は気を遣う。テレビもイヤホンで聞かなければならないし、会話も小声の必要がある。さて、テレビ。普通の人ならば、目で画面を見てチャネルを変えることができるが、新米視覚障がい者の琉は、どこに何があるかすらわからない。個室であれば、巡回の看護師が確実にその部屋の患者の状態を確認すると思われるが、相部屋では個室ほど手が回るわけではないだろう。
琉は家から持ってきたマグカップサイズのクマのぬいぐるみに、ナースコールのボタンを縛り付け、命綱としていた。クマの手がつながっていて、ボタンを持たせるのに都合がよかったこともあるが、ナースコールのボタン単体では、ベッドの上でどこにあるかわからず、クマのぬいぐるみのボリュームが探すのにちょうどよかったらしい。
小声で会話をすると、やはり、どうにも琉の反応が悪い。
「宵乃生先生、母の耳、やはり悪くなっているんですけど。」
「いや、年相応って、耳鼻科の先生が言っていましたよ。」
結局、耳の問題は入院中に対処されず、後に半年以上たって
「やっぱり、病気のせいでした。」
としれっといわれることになる。
なんだかなー。確かに、生きるか死ぬかの状況に陥り、最終的には生存確率30%の状況を救急科、消化器内科的には勝ち抜いた。しかし、細菌は全身に蔓延。腰の背骨も溶け、整形外科も頑張った。で、最初から訴えていた目と耳は取りこぼしていいのか。さらに言えば、この一年後、琉は爪水虫で開業医の皮膚科にかかることになる。爪であるので、症状の出始めた時期はちょうどこの感染症と同時期。水虫の原因となる真菌と、この感染症の原因と推定された真菌って同じなのではないのか?真菌の種類はたくさんあるのか?
確かに、医学王道分野?の生きる処は救われている。が、緊急性の優先順位で仕方なかったにしても、目と耳の、当初やその後の訴えを「年のせい」にするとは、変な色眼鏡がかかりすぎだ。
総合病院でありながら、体をものすごく詳細なパーツに分け、専門家を数多く作った末に全体の責任者がいない感を受ける。
介護の世界や政府に言わせれば、それをやるのが「かかりつけ医」ということらしいが、健康な状態で近所の医者に定期的に行くなど、常識的な人であればあるほどしないと思う。
ただ、琉のこの病気の場合、もしかかりつけ医が居たとして数日早く医者に行ったとしても、風邪でしょうと誤診される可能性が高かったと救急の医者は言っていた。私が救急車で病院に乗り入れたから、検査をされ対処されたとか。じゃあ、何を信じたら良いのかわからない。
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