にゃーる・すとーりぃ

7：介護エプロン

　　琉が食事が出来るようになったのはよいことだが、看護師から物品催促の電話が来た。

「介護エプロン、持ってきてもらえませんか。」

「介護エプロン？何ですか、それ。普通のエプロンじゃダメなんですか。」

「この病院のコンビニには売ってませんが、多分、ドラッグストアにあると思います。介護エプロンといえば判る筈です。」

　琉はこの感染症の直前まで塾講師をしていたぐらいなので、介護用品とは全然縁がなかった。当然持っていない。ドラッグストアに探しに行く。

　しかし、莫迦邪県余山市はかなりの田舎である。ドラッグストアを数軒回り、三件目でやっと介護エプロンなるものを発見した。これは…酷い。こんなもんに金払いたくねえ。

　一昔前の園芸用品に近い。かつて、若者の趣味でガーデニング等が流行る前、園芸用エプロンや手袋、グッズのセンスの残念さには目を覆う程だった。今でこそ、アースカラーのシンプルなデザインで普通の生活の中に取り入れられるようなものが多くなってきたが、トータルコーディネートとは真逆を行く、単品超残念、奇抜といえばよい言い方の野暮ったい用品が多く、選択の余地の無さに大変がっかりしたものである。

　さて、目の前で見つけた1800円するらしい介護エプロン。一つの会社のものしかなく、素材はただのポリエステルで、ぺらぺら。そして、幼稚園児の落書きかと思う残念なデザインのものが3種類だ。この中から購入しなければならないのは、ものすごく苦痛である。

　そういえば、幼児向けの洋服。派手なだけの、色の取り合わせが残念なデザインのものが昔は多く見られたものだが、おしゃれな人が子育てをするようになった際に、製品として精錬されたデザインのものが増えてきたように思う。

　介護の世界は、お洒落な人が到達していないのか？そんなことはないだろう。昭和初期に生まれた人は介護をうけておかしくない年齢になっている。昭和初期生まれの文化人、ミュージシャンはまあまあいる。だから、需要はあると思うのだが、供給のほうで普及していないのか。そうだ、ネット通販で探してみよう。田舎のドラッグストアにセンスを求める方が酷というものだ。

　ぺらぺらの残念1800円の介護エプロンを許容できない私は、家に帰り、ネットで介護エプロンを探した。大丈夫。介護の世界に、お洒落と品質、機能性を求める人がちゃんといた。提供側も購買側もだ。

　ドラッグストアで見た残念系も同様に販売はされているが、色、デザインは結構多彩だ。価格幅は8000円から1500円程。ネット通販だと、実物が確認できない分、何処まで現物を想像できるかがポイントである。

　送料も考慮する必要があるが、通常いくらか以上だと送料は無料になる。食べこぼし対策ということなら、洗濯もするだろうから、数枚購入しておいた方がよさそうだ。長さとデザインを変えて購入すると、翌々日には到着した。通販様様である。

意気揚々と病院に持参した。が、すべてが終わって自宅に持って帰ってきた介護エプロンは新品同様に奇麗だった。

　凧中病院では当時、入院時の洗濯を家族にさせなかった。寝間着を持って行っても、病院の浴衣を着せられていたし、下着はおむつにされている。

　そこで、まったく琉の状態がわからなかったのだが、実は琉は目が見えなくなっても、食べこぼしをしなかったのだ。そして、さらに言えば、失禁もしなかったので、おむつも不要だった。通常の下着でよかった。

　コロナ禍だったからか、通常からそうなのかはわからないが、患者の状態を見ないで、一般論で、一律必要そうなものや、病院都合の便利そうなものを購入させるのはやめてほしい。

　看護師が買ってくれと電話してきた８割がたのものは不要であった。一度、すでに買ったものがなくなったから至急持ってきてくれと二重に買わされた。至急は無理だからと次の日持っていくと、次の看護師は何もわからない顔をしている。そもそも不足していなかったのだ。

　当時、不幸だったのは、琉に自分の携帯を持たせられなかったことである。まだ、重病状態で、自分で携帯の充電などできるとも思えなかった。なんとか、本人の状況を把握しようと、WEBカメラを持参し、１５分以内という短い面会時間の際に取り付けてみたのだが、病院内ではwifiの電波が弱く、役に立たなかった。

　 なお、WEBカメラについては宵乃生医師に

「医療機器に影響与えるかもしれないので控えてください。」

と怒られたので、真似はされないほうが無難である。