第15話 苦戦

 思考をめぐらしている最中さいちゅうすぐるへと、じん容赦ようしゃない次の一手が放たれる。


「残りの魔力でヒメカゼスズメを召喚しょうかん


 じんの場にも戦力が生み出された。

 しかも効果により山札から手札へ1枚加わる。


 どんどん事態が悪化してゆく中、迎えたすぐるの3ターン目。

 開始時の一連の準備をしたのち、彼はまず全軍でじんへと攻撃宣言した。


 追い込まれていようとも、さすがの熟練者。

 これは正しい手順。

 もし、召喚しょうかんを先に行おうものなら、まとめて全体ダメージの餌食えじきとなり被害が拡大してしまう。

 それをけてのプレイング。


 結果、攻撃は無事に通り、3ダメージを与えることに成功。

 続いて、すぐるは1枚のカードを場に出した。


「シヴァルリーを使用」

「カウンター発動。パラダイムシフト」


 先に述べた通り、シヴァルリーは強力なカード。

 ゆえに、じんが使用した時と同様、やはりすぐるも即座に打ち消されてしまう。

 だが、今のやり取りでお互いに使った手札は1枚。

 アドバンテージは失っていない。


 そしてさらに、次に使用した天使の弓兵は打ち消されずに召喚しょうかん成功。

 その効果により、じんのヒメカゼスズメに1ダメージを与え、倒した。

 残りの魔力は温存し、ターンエンド。


 迎えたじんの4ターン目。

 彼は光の魔力をチャージすると、迷いなくカードを場に出した。


「コールを使用」

「……何?」


 宣言されたカード名を聞き、すぐるは疑問を抱く。

 なぜなら、そのカードとじんのこれまでの戦略にみ合いを感じなかったから。


 コールは、山札から2魔力以下のレプリカを3枚サーチするという効果のカード。

 当然、それが最もかがやくのは速攻デッキでの使用。

 しかし、これまでの流れを見る限り、じんの戦い方は長期戦を見据みすえた守り主体のもの。


 にもかかわらず、一転して小型レプリカの大量サーチ。

 その意図いとを見極めるべく、すぐるは長考に入る。


 デッキタイプの偽装か?

 はたまたこれ自体が陽動か?

 いなじんはそのような小細工をする必要がない。

 そんなことせずとも、彼には勝つ実力がある。


 ならば、サーチしたそのレプリカの効果により、さらにキーカードをサーチするのがねらいか。

 そう断定し、今度は妨害すべきかいなかを考慮こうりょする。


 手札にあるカウンターカードの内、コールをうち消せるのは超魔術コンフュージョン・リライトのみ。

 しかし、このカードで打ち消した場合、相手に魅力みりょくある二つの選択肢を与えてしまう。

 一つは、打ち消されたカードによって消費した魔力の回復。

 もう一つは、打ち消されたカードを手札に戻す権利。

 どちらにせよ、すぐるはアドバンテージを失う。


 なので、彼は仕方なくコールの使用を通した。

 じんは山札を手に取り、カードを探し出す。

 そして、選んだカードを公開。

 その内訳を見て、さらにすぐる困惑こんわくする。

 提示されたのは、見習い天使2枚と宣教師。

 宣教師はサーチ能力があるのでともかく、見習い天使の効果はトークンを1体召喚しょうかんするというもの。

 それこそ、速攻に相応ふさわしい効果。


 ミスマッチにしか思えないカード。

 しかし、当然そこには思惑おもわくがある。

 普段のすぐるなら、そのねらいの正体を見抜けていたに違いない。

 しかし彼は今、精神的に追いまれている。

 加えてじんの止まらぬさぶり!

 なおも彼は追撃のカードを場に出した!


「シヴァルリーを使用」

「……」


 最早もはや、声すら出ないすぐる

 それもそのはず……なぜなら今、彼の手札にある対抗手段は超魔術コンフュージョン・リライトだけだから。

 これがもしパラダイムシフトなら、相手に消費魔力は回復されるが、しっかり捨て札へと送ることができたのに……。

 すぐるとて、本当ならそうしたかった。

 しかし、そう都合よく引けないのがカードゲーム。


 それに、今戦ってる相手はじん

 彼には全てお見通し。

 今回だってそう。

 運悪くすぐるに対抗手段がなかったのではない。

 すぐるに対抗手段がないからこそ、じんは付け入ったのだ。


 これに対し、すぐるはどう応じるべきか。

 もし、なりふり構わず打ち消せば、この後の展開が厳しくなる。

 じんはアドバンテージを得たことに満足し、決着を遅らせればいいだけの話。


 すぐるもそれがわかっているため、苦渋の決断により打ち消しを断念。

 しかし、さすがの天才ゲーマー……ただでは起きない!

 代わりにカードを1枚選び、場に出した!


「カウンター発動、カーム……!」


 静かに、しかし力強く宣言!

 その目に宿すは反撃の意思!


 そう、これは最善のタイミング。

 シヴァルリーを使用された後だと、加わったトークンの餌食えじきにされる。

 そうなれば、温存した魔力が無駄になってしまう。

 なぜなら、シヴァルリーで加わるトークン――オネスティで打ち消された場合、消費魔力は戻ってくるのだが、相手のターン中であるため、その使い道がすぐるにはないからだ。

 ゆえに、ディスアドバンテージをいられることなく使うには、これがギリギリのタイミング。


 実に合理的な戦術。

 ただし、じんも当然想定済み。

 彼はあわてることなく、手札から1枚場に出した。


「超魔術コンフュージョン・リライト」

「くっ……」


 惜しくも打ち消され、渋々カードを手札に戻すすぐる

 しかし、これでハンドアドバンテージは1枚分取り返した。

 ただし、シヴァルリーの効果によりじんもオネスティをストックゾーンへ2枚追加。

 じんが有利のままターンエンド。


 そして迎えたすぐるの4ターン目。

 彼はまず、リライトの効果によりカードを入れえた。

 それから全軍で攻撃し、4ダメージを与えることに成功。

 続いて、先程打ち消されたカームを使用。

 しかし、またもやトークンのオネスティによってはばまれる。

 だが、これによりじんの防壁も1枚くずれた。

 さらに、回復した魔力で場と手札を整え、ターンエンド。


 続くじんの5ターン目。

 彼はストックゾーンのカードに手をばした!


「魔力を支払しはらい済みの超魔術テンペスト・リザーヴを……解放する」


 静かに、おごそかにされた宣言!

 青いひとみてつくような鋭さを放ち、その異様な雰囲気から白銀の髪は煌々こうこうかがやいて見える!


 そのオーラに気圧けおされつつも、すぐるは応戦すべくカードを場に出した。


「超魔術カウンタースペル・リライトを使用」


 それは、直前のターン開始時にリライト効果により入れえたカード。

 通れば完全に打ち消すことができる。

 しかし……!


「カウンター発動。オネスティ」


 じんもトークンで対抗。

 だが、すぐるもこれで終わりではない。

 用意の一手が今、場へ放たれる!


「カウンター発動。サイレンス」


 サイレンスの対象範囲はスペル。

 これはオネスティの種類と合致がっちしている。

 しかも、消費魔力は0コスト!


 手札に抱えていた奥の手。

 しかし、目の前の化け物に見抜かれていないはずがない!

 すぐさまじんはカードを場に出した!


「サイレンスに対し、オネスティを使用」

「ッ……!」


 顔面蒼白そうはくになってゆくすぐる

 こおりつき、口はポカンと開けたまま。

 目の焦点しょうてんは合っていない。


 その視界の先にある、絶望の1枚。

 たった今使われたオネスティはトークンではない。

 シヴァルリーによって加えたカードではなく、元からデッキに入っていたカード。

 サーチ能力によって加えたわけでもない。

 すなわち、何ターン目かのドローにより引いていた、ということになる。

 つまり、対戦相手からすれば知るよしもない情報。


 だが、バトルという非情な舞台においては、それはプレイヤーの責任。

 読めなかった者が悪いと、運の女神はただ突き放す!


 これにより、すぐる万策ばんさくきた。

 ほろすぐるの陣営。


 そして、じん猛攻もうこうが始まる!

 彼は2枚の見習い天使と宣教師を召喚しょうかん

 見習い天使の効果により、場へ並んだレプリカはトークン含め5体。

 そしてさらに、宣教師の効果でサーチしたカードが今、公開される!


「加えるのはこのカード……神風」

「ッ!?」


 すぐるは息をんだ。

 それは、1ターンの間だけ自陣のパワーを2増加させるサポートカード。

 このままでは一気に大ダメージを受けてしまう!


 なんとか敗北をまぬがれようと、すぐるは回ってきたターンで本来使う予定のない火の魔力を緊急チャージ!

 そして、リライトを交換し、すぐさま場に出した!


「超魔術バーニング・リライトを使用!」


 いつになく必死の宣言。

 そのカードは相手の場に全体ダメージを与える効果。

 しかも、カードの種類はディザスター、属性は火。

 ウィズダムを対象とするパラダイムシフト、スペルを対象とするサイレンス、水のサポートを対象とするオネスティ……それら全てをくぐれる!


 通ればじんのレプリカは全滅ぜんめつ

 しかし、それは幻想に過ぎない……。

 その希望を打ち砕く奥の手が今、じんの手によって場に出された!


「カウンター発動。杞憂きゆう


 そのカード名にすぐる硬直こうちょくし、震えから歯がカチカチと鳴り出す。

 打ち消し用のカウンターカード、杞憂きゆう

 このカードが対象とするのは……ディザスター!

 カウンターの打ち合いに使えるパラダイムシフトやサイレンスは、入っていてもおかしくない。

 しかし、ディザスターは範囲がせまいため、それを対象とする杞憂きゆうくさりがちと判断され、採用率は低め。

 そこをしっかり対策してきたじん


 どこまでもかりない戦略に、すぐるは恐怖のあまり全身が震える。

 当然、返せるカードはなく、希望はついえた。


 そして迎えたじんの6ターン目。

 彼はまずレッサーイーグルを2体召喚しょうかんした。

 そのレプリカは消費魔力が光1つと軽く、なおかつすぐに攻撃可能なアサルトという効果を持っている。


 ズラッと並んだ攻撃可能なレプリカ7体。

 そこへ今、全体強化バフがかかる!


「神風を使用」

「……」


 じんの宣言にまともに反応を示さず、ただ呆然ぼうぜんと立ち尽くすすぐる

 数秒ののちじんが再び口を開く。


「カウンターが残ってないのはわかっているよ」


 静かに言い放つじん

 そう、対抗手段がないことは見透みすかしている。

 だからこその一連の手順。

 本来であれば、先に召喚しょうかんしてからの全体強化バフ及び攻撃は、返された時のリスクをともなう。

 しかし、じんは手札を読めるため、こういう場面で一切の躊躇ちゅうちょがなく、かつ全て成功する。


 その化け物みたプレイングを前に、すぐる戦慄せんりつ

 彼の手札がテーブルへパラパラと落ちてゆく……。

 そして数秒後……。


「うああああ!!」


 絶叫ぜっきょうと共に、すぐるはデッキを置いてけだした!

 咄嗟とっさに花織は「待ってください!」と呼び止めるが早いか、必死に後を追う。

 ごうも「おい! 待てよ!」と怒鳴どなり、後へ続いた……。

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