第一章 最善の再起《最善のリスタート》
第1話 孤独な悩み
とある男子高校生が、自室の壁を
これは、
ふとした際にトラウマが頭を
これでもまだ落ち着いた方で、当初は
そんな彼――
彼が精神を
――五年前の出来事。
その日も彼は、自分が負ける未来など想像すらしていなかった。
だが、現実は非情。
一回戦目にしてまさかの敗退。
加えて、試合内容まで最悪。
全ての行動を読まれ、1ダメージも与え返せずにストレート負け。
文字通り手も足も出ず、完敗を
勝つイメージが全く
それがどれだけ彼を追い詰めたことか。
そして何より彼を苦しめたのは、仲間だと信じていた者から浴びせられた言葉……。
「がっかりだよ」
とても単純で低レベルな
しかしそれは、彼の心に深い
理由は明白……
今まで
「こんなに才能があるのに、もったいない! 親になんて縛られる必要はないよ!」
そう言ってくれたのは一体何だったのか?
彼は疑心暗鬼に
これをきっかけに、元々内気な彼は
心は常に
壊れに壊れ、壊れ続け……。
そうして二年が
しかし、
以来、彼は対人戦を行わず、ソロプレイに没頭している。
あるいは、あの日の絶望に対しての、その答えを求めて……。
――そして今に
彼は
その
アクション、RPG、格ゲー、音ゲー、レース、ホラー、恋愛シミュレーション、パズル……。
あらゆるジャンルが
しかし、
次に立ち
新作『ウィザーズウォーゲーム』で遊ぶ人々を、ただぼんやりと
と、そこへスタッフがルールブックを手にやって来た。
「よろしければどうぞ」
笑顔と共に両手で差し出すスタッフ。
そのまま閉じ、ぶっきらぼうに突き返した。
その
しかし、仕事上ここで帰すわけにもいかず、
「あの、もし難しければ、
「いらない。もうルールは理解した」
「え? あの……!」
しかし、
そして、その内容をザッと確認する。
それを心配そうに見つめるスタッフ。
だが、何にせよ興味は持ってもらえたと判断し、胸を
ところが、あろうことか
スタッフは
「どうぞ
そう呼び止められた
「ゲーム自体はまあ、面白そうだ。けど、人とゲームするのはごめんだね。見に来ただけで、やるつもりはない。悪く思わないでくれ」
生気のない表情が、機械のように言葉を
その声は暗く重く、これ以上
まるで孤独を
目には相手などまともに映っておらず、代わりにトラウマの幻影を追っている……。
あまりの異様さに、思わず言葉を失うスタッフ。
それを尻目に
だが、丁度その時!
「……つまんね。カードゲームなんて
近くの席からぼやきが届いた。
それは負け惜しみなどではない。
何しろ、口にした男は今まさに勝ったばかりなのだから。
つまり、
振り返った
すると、先程までの無関心はどこへやら。
目を見開き、凝視している!
スタッフは
「あ、あの! お待ちください!」
引き止めようと
「……一戦だけだ。遊んでやるよ」
「え? あ、あの!」
「ああいう奴は嫌いなんだ。許せない……。痛い思いをさせないと気が済まない。……この勝負、負けるわけにはいかないな」
その声は震えていた。
トラウマがかけているブレーキを、引き
カードゲームへの
不安と自信、
その恐ろしい
辺り一面真っ青に
「
「うん? 君、誰?」
強気な
だが、
「見学者だ。
その宣戦布告を受けた
「いいけど、オレ今日負けなしだぜ? それでもいい?」
半笑いでの受け答え。
対し、
「ああ……。初黒星つけてやるよ」
「そりゃあ楽しみだ」
こうして始まった試合を、スタッフはすぐそばで心配そうに見守る。
トラブルに発展しないようにと、祈りながら。
そう、心配なのはその一点のみ。
勝ち負けなど、彼女にとってはどうでもいい話。
むしろ、
先程ルールを知ったばかりの彼のことなど、
そのルールさえも本当に理解したのかどうか、怪しんでいる。
だが、その予想に反して試合は互角の進行を
そして、いよいよ
「火の国の
勝利を確信し、大手を広げて
何しろ、彼の場に
その
「行くぜ! 火の国の
男は勝ち
だが、次の
そして、ゆっくりと相手側へと向けてゆく……!
「カウンター発動。火の国の
「なっ!?」
静かに言い放たれた宣言に、男は指さしたその手をわなわなと震わせる。
口はポカンと開いたまま。
その
「せっかく使ったレイジが、
ゆっくりと、
あまりの恐怖に男は
「ま、待ってくれ! なら、レイジは使わない!」
必死に戻そうとする男。
だが……。
「お前、何を言っているんだ? 一度宣言した行動が、巻き戻せるわけないだろう」
そして、
「そのレイジというカードに、何のためにカウンター効果が付いてると思っている? この反撃を予想し、ギリギリまで保留するためだ。それを
「っ……!」
「これでわかっただろう。カードゲームにおいて、
「……」
あまりの正論に男はぐうの
その後、
一度差がついたアドバンテージは、最後まで
敗北した男はばつが悪そうに退散。
少しして、
――その日の夕方。
ウィザーズウォーゲーム本社に情報が入り、社員数名が会場を訪れた。
その内の一人が写真を取り出し、スタッフへと見せる。
「もしかして、この人だったかな?」
「は、はい! 間違いありません! えっと……彼は一体!?」
「数々のゲーム大会で優勝を重ねた、
それを聞いたスタッフは
と同時に、一連の出来事が
「それであんなに強かったんですね。ルールブックを数秒見ただけで理解しちゃうし……」
「さっき聞いた話だと、使ったのはレンタルデッキだよね? だとしたら、スタッフさんは
そう告げて一礼すると、その社員は去ってゆく。
後に残されたのは、
――数週間後。
新年度早々、
「進路調査票、まだ出してないのお前だけだぞ? 配ったのいつだか覚えてるか? 去年の六月だ!」
「……そうでしたっけ」
目を
その態度に担任は
「あのなあ……。いくら試験が満点だからって、これじゃあダメだろう?」
「賞金、まだまだたくさんあるんで、心配しなくて大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃないだろ? なあ、ちょっとはやる気を出せって。何でもできて面白くないのかもしれないけどさあ……」
「はいはい。それじゃ、失礼します」
そう言いながら、
「お、おい! ……ったく。ちゃんと提出するんだぞ! いいな?」
「はーい」
生返事と共に、
進路を真剣に考えるべきだなんて、言われずとも彼自身がよくわかっている。
だが、話はそう簡単ではない。
だが、そうした
だから今日も彼は一人、悩みを抱え
――時を同じくして、とある中学校での話。
桜の
何人かのグループで写る者や、親友と
中にはふざけるあまり、『入学式』と書かれた立て看板へと
そんな中ただ一人、その少女は
風に
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