第17話 轟の熱血指導

 敗北し、心を砕かれた者。

 勝利し、孤独に悩める者。

 観戦し、心配しつつも信じて待つ者。

 それぞれ平等に時間は過ぎ、この夜を超えてゆく……。


 そして翌日。

 ショップに集まったごうと花織。

 二人はテーブルをはさんで対面しており、その間には六つのデッキ。

 いずれも作成者はごう

 彼はそれら全ての中身を確認させ、コンセプトを説明。

 そして、その内の半分を渡し、もう半分を手元へ引きせた。


 バトル前にデッキを公表など、通常はしない。

 してや、相手のデッキを作成など……。

 なのにそうしたのは、今から行うのがガチ対戦ではなく、練習試合だからだ。

 これは、花織の提案に関連している……。




 ――昨日。

 花織は大変なことを口にした。

 それを聞いたごうは息をみ、数秒後……。


「そうか……。それなら、まずは強くならねぇとな! 特訓内容を考えてやる。デッキは全部オレが組む」

「ええ!? いいんですか?」


 申し訳なさそうな花織の声。

 それをごうが笑い飛ばす。


「気にすんな。お前には借りがあるしな! それに、このオレが誰だか忘れてねえか? このごう様にドーンと任せとけ!」

「わあ……! ありがとうございます!」

「ああ。それじゃ、明日な」

「はい!」


 約束した二人。

 この後、ごう懸命けんめいに初心者の視点に立ち、デッキを作り上げた。




 ――そして現在。

 ごうはデッキを一つ選び、残りを一旦いったん仕舞しまった。

 そして……。


「まずはカウンターからだ。それじゃ、始めるぜ?」

「はい! よろしくお願いします!」


 テーマに合わせてデッキが指定され、花織の先攻でバトルスタート。

 1ターン目は双方パス。

 2ターン目に、花織は火の国の軍師を召喚しょうかんし、ごうは再びパス。

 迎えた花織の3ターン目。

 彼女はカードの使用前に、場のレプリカへと手をばした。


「火の国の軍師でプレイヤーへ攻撃します!」

「来たか。準備はいいんだな?」

「はい!」

「それじゃ行くぜ! カウンター発動! レスキュー隊を召喚しょうかん! さあ、どうする?」

召喚しょうかんは止めません」

「なら、今出したレスキュー隊で攻撃をガード!」

「そのガード宣言に対し、カウンターを発動します!」


 間髪かんはつ入れずに宣言すると、花織は手札から1枚のカードを選び取る。

 そして、それを場に出した。


「レイジ! ターゲットは火の国の軍師です!」


 レイジはターゲットのパワーとライフを2ずつプラスする効果。

 これにより、2体のレプリカの勝敗は逆転。

 本来であれば、元のパワーとライフが共に1である火の国の軍師は、パワーとライフが2のレスキュー隊に一方的に負けてしまうはずだった。

 しかし、レイジの効果を受けた今、火の国の軍師がバトルに勝つ。


 反対に捨て札へ送られてしまったレスキュー隊。

 だが、これは練習戦であるため、ごうに悲観やあせりはない。

 むしろ、満足気まんぞくげみを浮かべている。


「いい調子だ。よし、次!」

「はい! 残りの魔力で幼きエスパーを召喚しょうかん。手札に加えるのは……パラダイムシフト、これにします。ターンエンドです」


 場に並んだ2体の戦力。

 そして、効果によりカウンターカードを補充。

 アドバンテージを得たと言ってよい。


 最初の攻防を見事に制した花織。

 その際に双方が駆使くししたのはカウンター。

 そう、これが一戦目のテーマ。


 ただし、今まですぐるが使っていたものとは少し違う。

 今回扱うのは、第二弾から新たに追加された要素の一つ……カウンターを持つレプリカ。

 カウンター自体は第1弾から存在していたが、サポートカードにしか付与されていなかった。

 そのため、今までは返し技として使う効果が多かったが、レプリカがこの効果を持つと新たな表情を見せる。

 それに関しては、また後程のちほど


 今ここで確認すべきはカウンターの基本。

 言うまでもなく、それらを使いこなすカギはタイミング。

 それ如何いかんによっては、結果が劇的に変わってしまう。


 先程のけ引きでも同様。

 二人とも、負けるとわかっていたらバトルを仕掛しかけたりなどしない。

 だからこそ、タイミングを見計らうのが肝心かんじん

 相手の動きを待ち、宣言を受けてからカウンターを発動することにより、後出しじゃんけんのごとく最善の対応ができる。


 そのコツを理解し、遺憾いかんなく発揮はっきしてみせた花織。

 対し、ターンを迎えたごうは次の手をり出す。


「火の海を使用! さあ、どうする?」

「止めます! カウンターを発動し、パラダイムシフトを使用します!」

「おっと、効果を確認してみな」

「えっ!?」


 おどろいて双方のカード効果を読み直す花織。

 やがて、ハッと息をんだ。

 花織は頭が真っ白になり、パニックにおちいる。


「す、すみません!」

「気にすんな。よくある見落としだ。パラダイムシフトで対抗できるのはウィズダムだけ。オレが今使った火の海はディザスター。種族や種類が書いてあるのは、効果文のところじゃなくカード名の下。うっかりしやすいからな」

「……気を付けます」

「大丈夫だって。こんなんで怒る奴はいねえよ。まあ、相手に手札の情報を与えちゃうから、不利にはなるかもな。少しずつ慣れてこうぜ」

「はい!」


 安心して微笑ほほえむ花織。

 だが、ごうがカードの使用宣言中であることを忘れてはならない。


「さて、他の手段で止めるか?」

「あ! えっと……無理です」

「それじゃ、火の海の効果により、相手レプリカ全てに1ダメージ」

「あ、ああ……」


 花織は落ち込みながらカードを捨て札へ置いた。

 自分の失敗を責めながら、そのカードをじっと見つめる。

 だが、次の瞬間しゅんかん


「失敗は誰にだってある!」


 ごうの大声が、花織の後ろ向きな気持ちを吹き飛ばした。

 そしてさらに続ける。


「だから練習するんだろ? あのすぐるにだって敗北はあるんだ。それでも戻ってきてほしいんだろ? 失敗をかてに、オレたちは強くなれるんだよ!」


 ごうの熱い言葉にはげまされ、花織はハッとした。

 その表情に再び決心が宿る。


「そうでした……。ごうさんの言う通りです! バトルの続き、お願いします!」

「おう! そう来なくっちゃ!」


 かくして、ゲームが再開された。

 このターン、ごうは残りの2魔力を使用せずに温存。

 迎えた花織の4ターン目。

 彼女は長考の末、そのままターン終了を宣言。

 それに合わせ、ごうが1枚のカードを場に出した。


「カウンター発動! ノーヴィスサイキッカーを召喚しょうかん! ……止めるか?」

「……いいえ、スルーします」

「そうか。なら、効果を発動!」


 宣言ののちごうは山札を手に取った。

 サーチできるのは水のサポート1枚。

 これは幼きエスパーと同じ効果。

 両者の違いは消費魔力とカウンターの有無。

 ノーヴィスサイキッカーはコストが1高い分、カウンターを持っている。


 それを利用し、ギリギリのタイミングで使用したごう

 本来であれば、レプリカの召喚しょうかんという能動的な手は、自分のターン中に行うもの。

 それを、カウンターにより相手ターン中に行える。

 これこそがレプリカの新たなる表情。

 先程、解説を後回しにした内容である。


 それをたくみに利用したプレイング。

 結果として、サーチするカードも状況に合わせて選べる。


「加えるのはこいつだ。超魔術カウンタースペル・リライト」


 ごうはカードを公表し、山札をシャッフルした。

 カウンターの効果処理を終え、花織のターン終了宣言が処理される。

 よって、続けてごうのターン。

 しかし、ここでもごうはパス。

 すると、ターン終了宣言に合わせ、今度は花織がカードを選び取った。


「カウンター発動! 火の国の伏兵ふくへい召喚しょうかんします!」


 火の国の伏兵ふくへいは、パワーとライフが4ずつ。

 カウンターを持つレプリカの中ではかなり高い数値。

 カウンターの他に効果は持たないが、他のカウンターを構えつつ召喚しょうかんねらえる優秀なレプリカ。

 カウンタースペルやネゲイションで備えながらも、相手が動いてこなかった際に召喚しょうかんへ切りえることができるため、温存していた魔力が無駄むだにならない。


 こういった考え方を実践を通じて学ぶ花織。

 その後も、カウンターをめぐって勝負は続く。

 そしてついに、ごうはライフが0となり、花織へと称賛しょうさん拍手はくしゅを送った。


「よくやった! これだけできれば充分だ!」

「ありがとうございます! 途中とちゅう、ミスもありましたが……ごうさんのおかげで最後まで戦えました!」

「おう! それじゃ、次のテーマに行くか」

「はい!」


 デッキを変える二人。

 その様子を遠くからひそかに見守っていたしょうが、携帯けいたいを取り出す。


「……もしもし。すぐる君」

「……誰だお前」

しょうだよ。ほら、この間ショップ前で名刺めいしを渡した……」


 言い切るより前に、電話口から溜息ためいきが届く。


「何でオレの番号知ってんだよ……。何か用か?」

「花織ちゃんたち、特訓してるみたいだよ」

「……それが何だ?」

「いや、それを伝えたかっただけ。それじゃ」


 そう告げるなり、しょうは通話を切った。

 一方、すぐるは手にした携帯けいたいをじっと見つめ、昨日のことを思い返す……。

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