第24話 速攻の異名

 トラブルに巻き込まれつつも、花織は無事に本戦へと進出。

 その一方で、ごうもまた予選を終えていた。

 そして、帰りの新幹線内。

 めずらしく悲しげな表情を浮かべ、車窓の外をながめる彼。

 今日あった出来事が、景色と共に遠退とおのいてゆく……。




 ――時は、本日の昼までさかのぼる。

 こちらは関西。

 天候は晴れ。

 現在、休憩きゅうけい時間。

 予選を順調に勝ち進んだごうは、昼食をりに外へ向かった。


 大会のにぎわいに合わせ、周囲には屋台が出ている。

 長蛇ちょうだの列に負けない程の出店数で、種類も豊富。

 その中から、彼は名物のお好み焼きとたこ焼きを購入こうにゅう

 すると……。


「ありがとう。おおきに」


 お礼の言葉と共に手渡された。

 おおきに。

 言わずと知れた、ありがとうを意味する関西弁。

 であれば、その前にありがとうと付け足すのは重複ではないのか。

 ごうは、そうしたわずかな違和感を覚える。


 だが、再び予選が始まれば、些細ささいなことは忘れ全力で戦えるのが彼の強み。

 参加者たちを圧倒し、次々と勝ち進んでゆく。


 と同時に、決勝で当たるであろう相手を見定める。

 目を付けたのは、二十代の青年。

 鮮やかな速攻で周囲をかせており、表情からは余裕もうかがえる。

 そのスピーディーな攻めに対抗すべく、ごうは余った時間に決戦用のデッキを組んだ。


 そして、いよいよ最終戦。

 予想通り、その青年が勝ち上がってきた。

 テーブルをはさみ、にらみ合う両者。

 と、青年が不敵に笑った。


「お前、関西のモンとちゃうやろ?」

「……だったら何だ?」

「何でわざわざこっちに来たんや? 向こうでは勝たれへんのかいな」

「ああん?」


 即座にってかかるごう

 その眉間みけんしわる。


「んなわけねえだろ? 仲間とのつぶし合いをけただけだ。ついでに武者修行むしゃしゅぎょうねて遥々はるばるやって来たんだが……」


 そこまで言いかけたごうは、対戦相手を一瞥いちべつすると侮蔑ぶべつみを浮かべた。


「どうやら、期待外れみたいだな……」

「おおん? 言ってくれるやないか! オレのことも知らんと、よう言うたな」

「知らねえな。お前、強いのかよ?」

「当たり前や。『速攻のフウマ』っちゅう通り名で呼ばれとる。知らんかったことを、たっぷり後悔するとええ」

「そうか……。楽しみだぜ!」


 獰猛どうもうみを向けるごう

 喧嘩ケンカを買う気満々のフウマ。

 険悪な空気の中、ごうの先攻でバトル開始。


 1ターン目。

 ごうは1枚のカードを場に出した。


「シールドマンボウを召喚しょうかん。どうだ? 速攻対策はバッチリだぜ? お前のことはよく知らないが、何戦か見たからな」


 得意気とくいげに笑うごう


 場に出たそのカードは、ガーディアンという効果を持つ。

 それにより、相手の攻撃を防ぐことが可能。

 なおかつ、シールドマンボウの消費魔力は無属性1。

 先攻は1ターン目の魔力チャージで無属性しか選べないが、このカードなら召喚しょうかんできる。


 初手から相手の出鼻をくじくことに成功したと、優越感にひたごう

 しかし、フウマは顔をしかめるどころか、ニヤリと笑った。


「そう来ると思っとったで。何や、これまでの対戦中、随分ずいぶんとオレのことをチラチラ見とったもんなあ? それに気付いたオレの勝ちや」

「何だと? だったら見せてみろよ。さあ、お前の番だ」


 ターンを得たフウマは、木の魔力をチャージ。

 そして、1枚のカードを場に出した。


「超魔術ファーミング・リライトを使用」

「っ!?」


 息をみ、目を見開くごう

 それもそのはず。

 予想していた動きと違ったのだから。


 超魔術ファーミング・リライトは、自分のライフ1を犠牲ぎせいに魔力を増やすカード。

 それ自体が場の戦力になるわけではなく、おおよそ速攻に入れるカードには値しない。

 にもかかわらず使ってきたのは、そのデッキが速攻でないから。

 つまり、ごうの予想が大きく外れたことを意味する。


 不穏ふおんなスタートを切ったこの試合。

 続く2ターン目に、ごうは見習いシスターを召喚しょうかんし、自身のライフをプラス1。

 対し、フウマが場に出したのは、彷徨さまよ怨霊おんりょうと巨大果実ダンシングアップル。

 3ターン目も、ごうは同様に見習いシスターを召喚しょうかん


 そして、迎えたフウマの3ターン目。

 彼は自身のレプリカへと手を伸ばした。


「ダンシングアップルでシールドマンボウを攻撃や!」

「させねえよ。見習いシスターでガード!」

「よっしゃ! かかったで!」

「な!?」


 思わず声を上げるごう

 目の前にはガッツポーズをするフウマ。

 その理由もわからないまま、戦闘処理が行われる。


 ダンシングアップルのパワーとライフは1。

 対し、見習いシスターはパワー1ライフ3。

 その結果、ダンシングアップルは倒され、見習いシスターはライフ2で生き残った。


 本来ならば、このバトルはごうの得。

 ガードしなければ、シールドマンボウと相打ちになっていた。

 それを阻止そしし、1体でも多く味方を生存させるのはカードゲームの基本。

 多くの場合、このプレイングは正解になる。


 しかし、今回は例外。

 先程の攻撃はわな

 直後、フウマはそれを思い知らせるカードを場に出した。


「火竜祭を使用!」

「うっ! そのために、ライフを2に調整したのかよ……!」

「せやで。そして、火竜祭の効果で手札に加えるのは……このカードや!」


 フウマが山札から選んだのは、ジャイアントボア。

 パワー、ライフ共に6と強力。

 さらに、召喚しょうかんしたターンに攻撃できるアサルトという効果を持つ。

 その代わり、サベージという効果により攻撃対象を自由に選択できない。

 だが、デメリットさえカバーできれば脅威きょういの破壊力!


 その暴走が今、ごうへと宣告された。

 何とか直撃を防ごうにも、彼の場のレプリカは風前の灯火ともしび

 火竜祭の効果により、ターン終了時に2ダメージを受けてしまうため、生き残るのは無傷の見習いシスター1体のみ。

 もう1体いる見習いシスターは、先程のバトルで負傷ふしょうしている。


 しかも、フウマの場には彷徨さまよ怨霊おんりょうが1体。

 その死亡時効果により、対象1体に3ダメージを与えられる。

 すなわち、最大2体のガードが突破されてしまう!

 このターンにえて彷徨さまよ怨霊おんりょうで攻撃しなかったのは、このねらいを残すためだ。


 早くもごうのピンチ!

 この状況を打開したくとも、現状の手札ではどうにもならない。

 たのみのつなは、ターン開始時のドロー。

 その結果次第で、ジャイアントボアの直撃をけられる。

 ごうは祈りをめて山札に手を置く。


 望みのカードたちが頭に浮かぶ。

 ベストなのは白檀びゃくだん療法士りょうほうし

 ターゲットのライフをプラス2する効果を持つカード。

 それにより、ダメージを受けた見習いシスターのライフを4に引き上げれば、火竜祭をえられる。

 それだけでない。ライフ2と余裕を持って生き残るため、彷徨さまよ怨霊おんりょうの戦闘ダメージでは倒されない。

 しかも、白檀びゃくだん療法士りょうほうし自体がライフ4のレプリカ。

 よって、1体は突破されても、残り2体で向かい打てる!


 もしくは3枚目の見習いシスターでも可。

 最善のケースとは違い3体ともライフ1で並ぶため、彷徨さまよ怨霊おんりょうにより2体突破されてしまうが、それでも1体は残る。

 最悪、ラベンダーセラピストでもいい。

 その場合、見習いシスター2体しか残せないため突破は許すが、死亡時効果がレプリカではなく自身に向かうことだけはけられる。


 それら、どのカードでもいい!

 引けばごうは立て直せる!


 早鐘はやがねを打つ心臓!

 荒くなる息!

 その緊張に打ち勝ち、ごうはカードを引いた!!


 ……乾いた笑いがむなしくれる。

 願いは届かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る