整形外科 ③下肢(膝)の打撲/捻挫

 整形外科に行くべき状況、第3回。

 今回は「膝」の打撲/捻挫について、代表的な状況をいくつか挙げてみましょう。


 なお、現在は打撲/捻挫について述べていますが、中~高齢者の膝痛で圧倒的に多いのは「変形性膝関節症」という軟骨の摩耗まもうによる関節障害です。こちらはいずれ別項で述べてみたいと思います。


 膝の外傷では、受傷機転(どのように痛めたか)が大切になります。


 打撲の場合。

 前方に倒れて膝のお皿(膝蓋しつがいこつと言います)を直接強打することにより、骨折する場合があります。膝蓋骨骨折を受傷した場合、ただの打撲とは異なって膝関節が丸々と腫れます。そうです、思い出してください。骨折の場合には骨髄から出血するのでしたね。

 膝蓋骨骨折では、ずれていなければ装具による保存的治療(手術は不要)が可能ですが、ずれていればその多くは手術が必要になります。膝のお皿を打ち付けてぼっこり腫れた場合は、少し覚悟が必要かもしれません。


 膝蓋骨以外の骨折は、若年~壮年では比較的まれです。ただし高齢者で骨粗しょう症が強い場合には、ちょっとした打撲で太ももの骨(大腿骨)やすねの骨(脛骨けいこつ)の不全骨折(ずれてはいないが骨折している)を受傷することがあります。高齢の方で体重をかけれないほど痛いのにX線で異常なしと言われた場合、やはり病院でのMRI撮影を考慮してください。




 次に捻挫の場合。

 スポーツ、特にバレーやバスケ・サッカーなどでジャンプして着地した時やダッシュした際、あるいはラグビーなどのコンタクトスポーツでひねったりすると、やはり急激に膝が腫れて痛みを伴う場合があります。

 急に腫れるという事は、内出血があるという事。ひねった場合は打撲と違って骨折が起きていることはありませんので、じゃあ何から出血しているかというと、それはズバリ靭帯じんたい

 ある特定方向にひねると、「前十字ぜんじゅうじ靭帯」という膝関節のちょうど中央にある靭帯が切れることがあります。この靭帯は、ひざの骨と骨が前後にずれることを防ぐ役割を果たしています。よって前十字靭帯が断裂すると、足を踏み込んだ際にがくっと膝くずれが起きて踏ん張りがききにくくなります。

 これだけでもスポーツを行う上では困りものですが、さらに厄介なことに、この不安定性を放置すると膝関節の軟骨や半月板はんげつばんという膝を保護する組織も痛んできます。結果、通常は50歳以降で発症することが多い変形性膝関節症が、30歳代などの若年で発症することがあります。変形性膝関節症は進行すると手術治療しか根本的な治療がなくなりますので、若いときに受傷した前十字靭帯損傷を放っておくことは悪手と言えます。つまりは、10歳代~50歳代くらいまでの前十字靭帯損傷には、基本的に手術治療が推奨されているのです。手術は他の部位から靭帯を移植する再建術が通常行われます。

 この前十字靭帯損傷、診断はMRIでしか出来ません。膝をひねって強く腫れているのにX線で骨折がないと診療所で言われた場合には、病院を受診してください。


 また、先ほど少し述べた「半月板損傷」を膝をひねった際に受傷することがあります。半月板は膝の内側と外側に一つずつある軟骨様の組織で、ひざの骨と骨がぶつからないようにするクッションの役割を担っています。これに傷が入ると、膝を屈伸した際の頑固な痛みが長期間にわたって持続することがあります。ちなみに半月板はあまり血流が豊富な組織ではありませんので、受傷時は前述の骨折や靭帯損傷と違って大きく腫れることはそれほどありません。

 半月板は自然治癒ちゆ力に乏しい組織で、サポーターなどで固定すれば治るという事は期待できません。痛みが軽度で日常生活やスポーツにそれほど困らなければ鎮痛薬やサポーターなどで経過をみても良いですが、数か月~数年続く痛みや徐々に増強する痛み、急激に痛みが強くなり膝の曲げ伸ばしが出来なくなるといった場合には、手術が必要となることがあります。手術はそのほとんどが関節鏡という内視鏡で行われることが多く、リスクはそれほどありません。ただし損傷形態によって成績が異なってきますので、手術を受ける際には一般的な手術成績について医師に尋ねておいた方がいいでしょう。

 半月板損傷もやはりX線では診断できず、MRI撮影が必要になります。スポーツなどで膝をひねった場合、1~2週間程度で気にならなくなればそのまま様子を見て問題ありませんが、1か月以上痛みが続いて支障が出ている場合には、病院でのMRI撮影を考慮してもいいでしょう。



 以上、膝の打撲/捻挫について、主なものを挙げてみました。

 ポイントは、

 ⅰ)膝の骨折ではお皿の骨(膝蓋骨)が多い。凄く腫れているときは、X線撮影かMRIを。

 ⅱ)スポーツでひねったりジャンプで痛めた時、4~8週間以上長く続いて日常生活やスポーツに支障がある場合は、靭帯損傷か半月板損傷を疑え。X線ではわからないので、MRIを。

 ⅲ)高齢者では軽い怪我でも骨折していることがある。やはりX線でわからないことも多いので、歩けないようならMRIを。


 次回は膝のさらに下、「下腿の打撲/捻挫」を予定しています。



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