整形外科 腰痛 概論2:危険信号(レッドフラッグ)
今回は「腰痛:概論その2」と題して、注意するべき腰痛の見分け方を大まかに述べてみようと思います。
おさらいですが、X線写真やMRI画像などで原因をはっきりと特定できない、いわゆる「非特異的腰痛」が85%という大部分を占めている、ということを思い出してください。つまりは、残りの15%は画像診断その他で、何らかの原因が特定できるということです。そして、その中の1~5%については「漠然と様子を見ていると危険な疾患、見逃してはいけない疾患」が含まれています。
それでは、「非特異的腰痛」ではない残り15%の「特異的腰痛」の
①椎間板ヘルニア 4~5%
②
③腰椎椎体骨折(圧迫骨折) 4%
④
⑤大動脈
どうでしょう。③の腰椎椎体骨折はご高齢の女性に多く(骨粗しょう症が多いため)、かなりの頻度で動けなくなります。④はかなりヤバいですね。腰の骨の感染は抗生物質(抗菌薬と呼ぶことが多い)を使用しないと
①の椎間板ヘルニアと②の腰部脊柱管狭窄症の場合は、その大部分は緊急性はありません。腰痛と共に強い下肢の神経痛を伴う場合には動けなくなりますが、鎮痛薬でなんとか様子を見ていくことは出来ます。
だから見逃していけないのは、上記③④⑤という事になります。また小児では「腰椎分離症」という疲労骨折的な疾患がありますが、これは別項で述べたいと思います。
さて腰痛を生じた場合、まずはやはり整形外科を受診すると思います。まったく身動きできない時は、救急車を呼ぶことも考慮してください。たとえ俗にいう「ぎっくり腰」(急性腰痛症、いわゆる急激に発症した腰痛を総称してこう呼びます。原因は上記のごとく非特異的腰痛が多い)であっても、動けなければ自宅生活が困難となり入院が必要となる場合があります。
この場合、先ほどお話ししたとおりに腰痛は整形外科的な疾患ばかりではありません。内臓や血管、泌尿器系など様々な他科疾患でも腰痛は生じます。そしてここが落とし穴ですが、専門医というものは往々にして腰痛を自分の科の疾患で説明したがる傾向にあります。それも道理、専門医は他科疾患についてはそこまで詳しくないことが少なくないのですから。腰痛の原因について、整形外科は椎間板ヘルニアと診断したがり、泌尿器科は尿路結石を、循環器内科や心臓血管外科は腹部大動脈瘤を積極的に疑う……そして一度こうと決めつけてしまうと、別の疾患の可能性についてはなかなか頭を巡らせない…
もちろん診断については医師の技量にかかってはいるのですが、なかなか治らない場合にご自分で「これは普通の腰痛とはなんか違うな」と疑うことができれば、別の医療機関で意見を聞いてみる、というオプションを選択肢に入れることが出来ます。
わが国には「腰痛の診断ガイドライン」というものがあります。この中に「重篤な疾患が原因となっている可能性がある腰痛のサイン」というものが記載されていて、これは「レッドフラッグサイン」と呼ばれています。
その内訳は、
①発症年齢が20歳未満、または50歳以上の腰痛
②時間や活動性に関係のない腰痛(安静時疼痛)
③胸部痛
④がん、ステロイド治療、HIVの感染の既往
⑤栄養不良
⑥体重減少
⑦広範囲に及ぶ神経症状
⑧構築性脊柱変形(側湾症や後弯症)
⑨発熱
となっています。やや広めに書かれてはいて、50歳以上の腰痛はそこまで珍しくはないし、広範囲に及ぶ神経症状というのもヘルニアや脊柱管狭窄症でも生じることがあるので、これが全て!というわけではないですが、なかなかに的を得ています。特にがんの既往と発熱の2つはかなり注意が必要です。
そして「腰痛を生じる注意すべき病気」の代表例としては、先ほどの③④⑤すなわち
腰椎の感染症(化膿性脊椎炎)
腰椎椎体骨折
腹部腫瘤
腹部大動脈瘤
悪性腫瘍(がんの転移)
腰椎分離症
などがあげられます。
ただしここで考えなければならないのは、年齢によって注意すべき疾患が異なる、という事です。骨粗しょう症のない小児~青年期に腰椎の骨折が起きるとは考えにくく、またがんの転移も頻度としては高齢者よりかなり低いであろうことは想像していただけると思います。ですので、若い人と高齢者の腰痛にはそれ相応の別の原因を念頭に置くべきです。
以上、今回は「見逃してはいけない腰痛」についての考え方を述べてみました。
ポイントは、
ⅰ)骨折や感染・がんの転移・内臓疾患などの放置してはいけない
ⅱ)そのような重篤な疾患は、その特異性から若年者よりも高齢者に多くみられる。
ⅲ)若年者では生命に危険を及ぼすような重篤な疾患は少ないが、高齢者とは別の観点から注意が必要である。
それでは次回からは具体的に、「小児・学童期」「青壮年」「高齢者」に分けて、注意すべき腰痛を上げてみたいと思います。
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