整形外科 ⑥腰痛 概論1

 腰痛、これは本当にありふれた症状です。医療機関に通院する理由としては、男性4位・女性2位(ちなみに男性では1位:高血圧症、2位:糖尿病、3位:歯の病気、4位:腰痛症、5位:眼疾患。女性では1位:高血圧症、2位:腰痛症、3位:眼疾患、4位:高脂血症、5位:歯の病気)。いかに腰痛で医療機関に通院することが多いか、お分かりいただけるかと思います。

 また訴えのある疾患(有訴者数)としては1位肩こり・2位腰痛となっており、身体に何らかの症状を感じている人の3人に1人、約1200万人が腰痛持ちというデータがあります。もはや「国民病」と言っても過言ではないかもしれません。


 もちろん「腰痛」というのは症状であって、腰痛をきたす原因というものは非常に多岐にわたっています。ところで、原因がはっきりと特定できる(X線写真やMRI画像などで診断がつく)腰痛はどのくらいの割合と思われますでしょうか? 実は、原因を特定できる腰痛は全体の15%程度なのです。つまり、腰痛で医療機関を受診しても85%の人は「写真で特に異常は見られないから、痛み止めで様子を見ましょう」と言われてしまうのですね。さて、あなたはこれで納得して帰宅できますか? 「とりあえず急ぎとなる大きなものは無いようだ、よかった」と思って頂けるあなたは優しいし、その判断はおおむね間違っていませんが、やはりそこには落とし穴があります。


 写真で異常を特定できない腰痛は「非特異的腰痛」と呼ばれますが、その痛みの原因についてはさまざまな議論があります。筋肉だ、椎間板だ、関節だ…しかしそれを特定することにはあまり大きな意味はなくて、これについては湿布や鎮痛薬などを利用しながら無理を避けていれば、期間は様々ですが次第に軽減していきます。もちろん最初の痛みはそこそこ強いでしょうから不安にはなりますが、経過を見ていても良い、となれば、とりあえずは安心できます。


 だから腰痛を考える際に重要なのは、自分の腰痛が「非特異的腰痛」であるのかないのか、というところにあります。要は「鎮痛薬などで漫然と経過をみているだけではいけない、ヤバい腰痛」というものが存在している、ということですね。

 ここで一つ考慮しないといけないのは、年齢層によってヤバい腰痛の原因が異なる、という事です。10歳台の腰痛と80歳台の腰痛では原因が違うのではないか…とは何となく感じていただけるのではないかと思います。よって腰痛を論じる場合には、年齢別に分けて考えることが大切になってきます。


 なお、今回は「腰痛」とひとくくりにしていますが、腰の疾患では「神経痛」や「神経症状」が生じる可能性があるということにも注意が必要です。ん? 腰痛って神経痛じゃないの?と思われるかもしれませんが、その2つは別の状態だと考えてください。

 腰は神経を保護する重要な部位で、五(あるいは六)個の骨で構成される「腰椎」は、中に脊柱管という神経の通る穴があいているトンネル状の構造をしています。よって、腰の病気になった場合に中を通っている神経が圧迫されると「神経症状」が出現する場合があるのです。ここでいう「神経症状」とは、お尻~足(太もものみ、あるいはひざ下のみ、またはその両方)の痛みやしびれ、足の麻痺(膝が崩れて歩けない、足首に力が入らないなど)、膀胱直腸障害(尿を出そうとしても力が入らず出すことが出来ない、あるいは便秘や便失禁)などのことを指します。基本的に腰痛自体は神経痛ではありません。

 各論で述べたいと思いますが、たとえば「椎間板ヘルニア」という病気があります。腰の骨と骨の間にある比較的柔らかい緩衝材のような組織を椎間板と言いますが、これが先ほど述べた神経が通るトンネル「脊柱管」の中に出っ張って神経に当たることにより、お尻~足の痛み、いわゆる「坐骨神経痛」が生じる病気が椎間板ヘルニアです。「俺って椎間板ヘルニア持ちだから、いつも腰痛がひどくて」という方をときどきお見掛けしますが、腰痛のみで神経症状を伴っていない場合には、それは椎間板ヘルニアが原因ではない可能性が高くなります。椎間板ヘルニアは、腰痛ではなく足の神経痛が出る病気なのです。

 腰痛と神経痛では、同じ椎間板ヘルニアでも治療方針や使用する鎮痛薬の種類などが異なってきます。この二つの違いは、ぜひとも知っておきたいところです。



 以上、今回は腰痛に対する大まかな考え方を述べてみました。

 ポイントは、

 ⅰ)腰痛は非常にありふれた症状であり、その85%は検査を行っても診断がつかない「非特異性腰痛」である。

 ⅱ)腰痛の85%を占める「非特異的腰痛」は様子を見ても良いが、残りの15%の腰痛の中には、放置してはいけない危険な腰痛が隠れている場合がある。

 ⅲ)腰痛は年齢層によって注意すべき疾患が異なる。

 ⅳ)腰の病気では、「腰痛」と「神経症状(下肢痛・しびれ、下肢麻痺、膀胱直腸障害)」の2つの症状が現れることがあり、これらは別々に考えるべきである。


 概論、もう少し内容がありますので「腰痛 ~概論その2~」に続きます。危険な腰痛の見分け方!です。

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