整形外科 腰痛 診断手順・必要な検査
前回は「腰痛診療ガイドライン2019」に沿って、腰痛の定義や病態・職業や心理社会的因子との関係について現在の知見を紹介させていただきました。今回はその続きで「診断」と「必要な検査」について、やはりガイドラインに述べられている内容を紹介したいと思います。
前回は腰痛の一般的な知識としてⅠ~Ⅵまで述べましたので、今回はⅦから。
Ⅶ.腰痛患者が初診した場合に必要な診断の手順
腰痛患者が医療機関を初診した場合、まずは注意深い問診と身体検査により、以下の3つに分けて考えることが推奨されています。
①危険信号(レッドフラッグ)を有し、重篤な脊椎疾患の存在が疑われる腰痛
(早急に対処しなけばならない腰痛)
ここでいう危険信号(レッドフラッグ)は、概論2で述べたことの繰り返しになりますが、非常に重要なのでもう一度載せておきます。
・発症年齢が20歳未満、または55歳以上の腰痛
・時間や活動性に関係のない腰痛(安静時疼痛)
・胸部痛
・がん、ステロイド治療、HIVの感染の既往
・栄養不良
・体重減少
・広範囲に及ぶ神経症状
・構築性脊柱変形(側湾症や後弯症)
・発熱
これらに当てはまらない場合、次に進みます。
②神経症状を伴う腰痛
神経症状とは、「片側、あるいは両側性の下肢痛やしびれ」「急速に進行する下肢の筋力低下・麻痺」「尿閉や尿失禁、排便困難や便失禁などの膀胱直腸障害」を指します。
腰椎には脊柱管と呼ばれる神経が通る通路があります。上記の症状は、骨だけでなく神経に何らかの障害があることを示唆しています。神経をX線検査で描出することは出来ませんので、この場合にはMRI検査を考慮することになります。
上記の①及び②に当てはまらない場合、③に進みます。
③非特異的腰痛
ここでようやく、ある程度様子を見ても良いと判断される「非特異的腰痛」と一応の診断が下されます。この場合は4~6週間程度の保存的治療を行い、改善がなければ画像検査含め再評価を行い、重篤な疾患が隠れていないかどうかについて再び検討を行うことが推奨されています。
さて、いかがでしょうか。上記を知っていれば、腰痛が出た場合にもある程度ご自分で様子を見ても良いかどうか判断できるのではないでしょうか。あるいは、もしも①における「レッドフラッグ」がご自分に当てはまる場合、医療機関で大したことがないと診断された時に医師に反論出来る根拠になるのではないでしょうか。そんな場面に出会わないのが一番なのですが、悲しむべきことにすべての医師が上記の腰痛トリアージを知っているとは限らないのです…このフローチャートを参考に、自分の腰痛が医療機関を早めに受診する必要があるのかどうか、是非当てはめてみてください。
Ⅷ.腰痛診断において有用な画像検査
・非特異的腰痛と考えられる場合は、早急な検査は必ずしも必要でない。
・危険信号(レッドフラッグ)を有する腰痛や神経症状を伴う腰痛の場合は、画像検査を行う。
この場合、推奨される画像検査はMRIである。
炎症の存在が疑われる場合は、画像検査に加えて血液検査を行い、炎症の有無や程度を評価する。
ご自分でこれは「非特異的腰痛だな」と思える場合には、X線検査やMRI検査はとりあえず不要という事になります。心配性のあなた、その腰痛は慌てて検査をしなくて良いものなのかもしれませんよ?
逆に危険信号や神経症状があるのにX線検査だけで経過をみようと言われた場合には、MRIを撮影できる医療機関に紹介状を書いてもらうべきです。
このように、腰痛の診断にはX線検査はあまり役に立ちません。X線検査が有用といえる場面は高齢者の椎体骨折(圧迫骨折)の、しかも一部の場合のみといっても過言ではありません。しかし診療所の多くはX線撮影しかできませんので、とりあえずX線だけでも撮影しておきましょう、という事になりがちです。非特異的腰痛でX線を撮影する分には大きな問題はありませんが(大抵有意な所見はない。X線だけで椎間板ヘルニアだと言われたら、それは少し眉唾です)、レッドフラッグで検査なしという状態だけは何としても避けたいところです。
今回は少し短いですが、きりが良いのでここまでとしておきます。次回はお待ちかね、エビデンスに基づいてガイドラインが推奨する「治療」についてです。腰痛に対する治療は何がいいの? 安静、薬、リハビリ、コルセット…あなたが今行っている治療は、果たして本当に効果があるのでしょうか?
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