整形外科 下肢(股~大腿)の打撲/捻挫

 整形外科に行くべき状況、第2回。

 前回は上肢(肩~指)打撲/捻挫について比較的頻度の高い状況を挙げてみましたが、今回は下肢(股関節~大腿だいたい)について。


 まず前回のおさらいとして、打撲/捻挫の場合に注目すべきなのは「大きく腫れたり青あざが出てきたときは、骨折を疑え」でしたね。これはもちろん、今回の下肢についても当てはまります。

 それではさっそく、部位別に見てくことにしましょう。


 股関節。

 ここは若年者~壮年では骨折や脱臼だっきゅうを乗じることは比較的少ない場所です。スポーツなどで違和感を感じた場合の多くは筋や靭帯じんたいの問題で、多くは一過性に治まることが多いです。

 しかし高齢者(70歳以上)では、全く話が違ってきます。

 高齢者が尻餅しりもちをつくと、股関節(大腿骨近位部)を骨折することがあります。女性が全体の7~8割程度を占めていて、その多くは骨粗しょう症に軽度な外力が加わって生じたものです。そして整形外科の外傷で手術になることが最も多いのは、この大腿骨近位端骨折なのです。

 この大腿骨近位端骨折の厄介なところは、この部位を骨折すると寝たきりになってしまう事です。股関節は歩くときに体重がかかるだけではなく、座る、あるいは寝返りだけでも常に動きのある関節です。よってここを骨折すると、歩行はおろか座位すらも困難になります。入浴もトイレも不能、自宅生活困難ということです。

 そして高齢者を寝たきりにしてしまうと、あっという間に肺炎や尿路感染症などの重篤な合併症を生じ、最悪の場合には命取りになる可能性があります。

 よって大腿骨近位部骨折は、麻酔困難などのよほどの事情がなければ、出来るだけ早く手術をして座れるようにし、早期からリハビリを開始して体力が弱る前に自宅退院を目指す、というコースが一般的となっています。もちろん病院への入院が必要です。

 高齢者のご家族と同居されている方、まずは自宅内での転倒予防を行ってください。股関節骨折は屋外よりも圧倒的に自宅内が多いのです。ちょっとした段差を減らす、散らかっているコード類を片付ける、トイレへの導線や手すりの設置の考慮、ベッド脇や階段へのフットライトの導入……特に高齢者は男女問わず夜間頻尿ひんにょうになりやすく、夜にトイレに行こうとして転倒するパターンが非常に多く見受けられます。

 そして不幸にも転倒して股関節を痛がり立つことが困難となった場合は、ためらわずにを受診してください。自宅生活困難であれば入院が必要、手術が必要になれば入院が必要、X線でわからない骨折であればMRIが必要……いずれも診療所では対応できません。自家用車に乗り込めなければ救急車を利用してください。

 以上、かなりの説明を割きましたが、そのくらい高齢者の大腿骨近位端骨折は問題となっている骨折の一つなのです。


 次、太もも。

 大腿骨の真ん中(骨幹部といいます)自体が骨折をすることはまれ、交通事故や高所からの転落などのかなり大きな怪我が原因となります。この場合、病院を受診することに異存はないでしょう。

 ただし、肉離れは多い部位ではあります。肉離れとはダッシュなどの急激な動作の際に筋肉の損傷を起こすもので、筋断裂だんれつ・筋膜断裂・筋損傷という用語とほぼ同義です。よってスポーツ障害としての発症がメインとなります。

 特に多いのは太ももの前面よりも後面、いわゆるハムストリングスと言われる筋群です。太ももの後ろから膝裏にかけて急激な痛みを生じ、歩行や走行、スポーツなどに支障が出ることがあります。数日して皮下出血が出てくることもあります。

 ある程度歩ける程度の軽度の症状ならば、スポーツを少し休んで様子を見るのもありかもしれません。しかし歩けなければ、病院でMRIを取ってもらうのがベターではないでしょうか。X線写真では骨しか写らないので、筋の損傷を正しく診断するためにはMRIが必要です。特に学生スポーツの現場では、学校に診断書の提出が必要であったり、復帰にどのくらいかかるのかの目安を指導者やコーチに聞かれることもあります。それらについて、MRI撮影は大いに助けとなるでしょう。


 以上、今回は大腿骨近位部骨折と太ももの肉離れだけで終わってしまいました。

 ポイントは、

 ⅰ)高齢者が尻餅をついて股関節を痛がっているときは、大腿骨近位端骨折が非常に疑わしい。動けなければ病院へ。

 ⅱ)若年者~中年の太ももの裏側は肉離れの好発部位。歩けないほどの痛みならば、病院でMRIを。


 さて、次回はさらに下、「膝の打撲/捻挫」について述べたいと思います。

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