整形外科 ①上肢(肩~指)の打撲/捻挫

 さて今回は各論その1、「整形せいけい外科」を受診する場合です。


 なぜ整形外科から論じるのかといえば、第一には私が最も身近に接しているから、という個人的な理由もありますが、カクヨムを利用している方の年齢層は比較的若いと考えていて(20~60歳程度を想定しています)、それならばもっと高齢の方の疾患(骨粗鬆そしょう症や認知症など)、あるいは低年齢層の疾患(水痘すいとうやはしか、プール熱など)よりも、骨折や腰痛・肩こりなどのほうがより身近ではないかと考えたからです。


 まず基本事項として、整形外科と形成外科は全く異なります。

 名称と語感が似ているので間違われやすいですが、整形外科は骨や関節などの運動器を主な対象としているのに対し、形成外科は皮膚や軟部組織を主に対象としています(皮膚科とは領域を異にしています)。

 これもひとえに、美容整形という言葉が独り歩きしている弊害へいがいでもあります……


 それでは、整形外科に行くべき症状から、順にひも解いていくことにしましょう。


① 打撲、捻挫

 スタンダードな受診理由、それは外傷による打撲だぼく捻挫ねんざです。

 もちろん頭を打った時は整形外科ではなく脳神経外科、腹部を強く打った時は腹部外科を受診するべきですが、その他多くの部位では整形外科を受診することが多いと思います。


 さて、転倒などで手足を強く打った時などには、どこに注目すればよいでしょうか?

 打撲したところが大きくれる、あるいは青あざ(皮下出血)ができた時は注意してください。

 なぜなら、このような場合には骨折している可能性があるからです。

 骨には表面の硬いところ(皮質骨といいます)とそれに囲まれている髄腔ずいくうがありますが、骨折して皮質骨に亀裂きれつが入ると、髄腔にまっていた血液が出血し皮下にたまって腫れや青あざを作ります。

 もちろん打撲だけでも腫れたり青あざを作ったりすることはありますが、その程度については比較的限定的です。


 それでは部位別の注意点を。

 まずは「上肢じょうし(肩~指先)の打撲/捻挫」の場合。


 この部位で多いのは、まず突き指。バレーボールやバスケで指の関節が腫れた時も、上記の腫れ/皮下出血の法則を適用してください。

 腫れが強く指を動かせない場合には、必ずX線撮影さつえいをしてもらってください。

 ただの突き指ではなく関節に剥離はくり骨折が生じている場合があり、骨折があればテーピングではなくギプス/シーネ(添木)固定が必要になったり、程度によっては手術が必要となる場合があります。

 また特に指のDIP関節(一番先の関節、爪のすぐ近く)を突き指すると、指先が「く」の字状に曲がって完全に伸びなくなる場合があります。

 これは槌指つちゆび変形といって、剥離骨折やけん断裂だんれつの可能性があります。

 長期の固定か手術が必要ですので、怖がらずに速やかに整形外科を受診してください。

 指の変形は放っておくと後から手術をして矯正きょうせいすることは非常に困難になります。

 日常生活にも影響が大きいので、本当に軽度だと自分で判断できる突き指以外は、念のためにX線撮影をしてもらうのが望ましいでしょう。


 また、手首(手関節)も非常に多い外傷部位の一つです。

 雪で滑って手をついた、自転車やバイクで転倒、などなど。

 手をつくと、手首の親指側にある「橈骨とうこつ」という骨に体重がかかります。

 よって先ほどの法則に照らし合わせて、手首の腫れや皮下出血が著しい時には、橈骨骨折をしている可能性が十分にあります。

 また、ずれが大きい骨折では、最初から手首の変形が見た目でわかることもあります。

 やはり整形外科を受診しましょう、骨折があればシーネ固定か手術かの二択になります。


 ただし、まったくずれていない骨折については、X線検査ではわかりません。

「こんなに腫れていて痛いのに、診療所ではX線写真で骨折がないと言われた……」

「捻挫といわれて1週間、手首の痛みが全然ひかない……」

 このような場合には大病院を受診してMRIをとってもらいましょう。

 患者さんの方からMRI検査を希望しても全然OKです。

 もちろん紹介があれば、以前紹介した選定療養費を払わずに済みます。


 ずれていない橈骨骨折については、手術になることはなくシーネ治療で治りますが、診断がはっきりついているのとついていないのとでは安心感が違いますし、いつ頃痛くなくなる見込みなのか・手を使う仕事をいつからしても良いかなどについて、それらを推定し判断するのに大きな助けとなるでしょう(捻挫なら2~3週程度で痛みはほぼ消失していることが多いですが、骨折なら4~6週程度の時間がかかる)。


 肩を打撲して上がらない状態が続く場合には、X線写真で異常がなくても「腱板けんばん断裂だんれつ」といって肩の腱が切れている場合があります。

 打撲して2~3週以上肩が上がらない場合には、「病院」の方を受診してください。

 なぜなら腱板断裂はMRIでしか分からないからです。


 肩の脱臼だっきゅうは比較的多いですが、脱臼した直後から激痛で全く動かせなくなるので、医療機関の受診にちゅうちょ躇はないと思います。

 すぐに戻さないと戻りにくくなりますので、速やかに受診してください。

 通常脱臼はX線で容易に診断できますので、診療所と病院どちらでも構いません。

 ただし脱臼の整復には不慣れな診療所もありますので、できれば病院の方がベターだと思います。

 脱臼が本当に戻りにくい時は全身麻酔をかけることがありますが、その場合には入院が必要になるからです。


 ひじ頭(肘頭ちゅうとう)の骨折も比較的よく見ます。

 やはり転倒して肘を付くことより骨折が起こります、肘がぼっこり腫れて曲げ伸ばしができなくなります。

 肘頭骨折は手術が必要になることが多いです、X線写真を撮りましょう。

 診断は診療所でも病院でも構いませんが、手術が必要になれば当然病院を紹介されます。


 以上ざっと述べましたが、注意点としては

 ⅰ)大きく腫れたり青あざが出てきたときは、骨折を疑え

 ⅱ)X線で骨折が分からなかった場合、1~2週間程度で痛みが全く引かない時はMRIを撮ってもらえ

 上記は上肢に限らず、打撲/捻挫での一般論になります。

 参考にしてください。


 次回は「下肢(股関節~足先)の打撲/捻挫」について述べたいと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る