整形外科 腰痛 座骨神経痛に対する薬物治療

 今回は「腰痛診療ガイドライン2019」に基づいた「坐骨神経痛(を伴う腰痛)に対する薬物治療」の治療効果について述べてみたいと思います。


 さて、坐骨神経痛とは何でしょうか。坐骨神経痛とは、坐骨神経に沿ってお尻から足の後面や外側にかけて起こる痛みを指します。坐骨神経とは、腰の骨(腰椎)の中にある神経が通る通路(脊柱管せきちゅうかんといいます)から出てくる神経で、この坐骨神経が何らかの原因で刺激されると痛みやしびれが生じます。

 症状としてはお尻~太もも~ふくらはぎなどに痛みやしびれが出現し、ひどいときには歩行困難になることもあります。また排尿・排便機能の低下(尿閉や尿失禁・便失禁など)を生じることもあります。

 坐骨神経痛を引き起こす病気としては、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などが例に挙げられますが、腫瘍(脊髄腫瘍やがんの転移性腫瘍など)が坐骨神経痛の原因となることもあります。

 今回はこの坐骨神経痛(腰痛を伴う、あるいは伴わない場合も含みます)に対する薬物治療について、これまでと同様にいくつかの薬物を挙げてみましょう。


 評価法については今まで通り、以下の「エビデンスの強さ」と「推奨度」をご参照ください。


 「エビデンスの強さ」とは、ある治療が腰痛に実際に効果があるのかどうかを、各種論文を用いて総合的に判断したものです。これが強ければ、その治療は実際に腰痛を和らげる効果が確認されている、という事です。エビデンスの強さには4段階あり、

  A(強):効果の推定値に強く確信がある

  B(中):効果に推定値に中程度の核心がある

  C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である

  D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない


 「推奨度」とは、その治療が実際に腰痛に対して行われることが勧められるか、という事です。これにも4段階あり、

  1:行うことを強く推奨する

  2:行うことを弱く推奨する(提案する)

  3:行わないことを弱く推奨する(提案する)

  4:行わないことを強く推奨する


それでは各薬剤についてみていきましょう。やはり今回も、前回までに紹介した薬剤についてはコピペで載せています。ただし解説については、坐骨神経痛用に変更したものを新たに書き起こしています。


③坐骨神経痛(を伴う腰痛)に対する薬物療法


ⅰ)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

 プロスタグランジンE2(PGE2)という炎症発生物質・疼痛発生/増強物質の合成を抑制することによって鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮する薬剤です。


 製品名:「ロ〇ソニン」「ロ〇ソプロフェン」「セ〇コックス」「セ〇コキシブ」など


 主な副作用:胃腸障害、腎機能障害、NSAIDs喘息ぜんそく(成人喘息患者の10%程度で発症)、薬疹など。喘息と薬疹の2つの過敏症反応は、内服してからおおむね30分~数時間以内に出現します。


 坐骨神経痛に対する効果:推奨度「1」エビデンス「B」


 解説:急性腰痛に対しては推奨度「1」エビデンス「A」、慢性腰痛に対しては推奨度「2」エビデンス「B」であったNSAIDs。坐骨神経痛に対しては推奨度「1」エビデンス「B」となっています。ややエビデンスレベルが下がっているものの、坐骨神経痛に対する薬剤の中では最高の評価であり、第一選択薬といえます。急性腰痛を伴う坐骨神経痛においては、このNSAIDsをしっかり内服したうえで他の治療薬を一緒に内服するという選択肢もあります。腰痛であれ神経痛であれ、急性期の強い痛みには信頼できる薬剤でしょう。


ⅱ) Ca チャンネルα2 δ リガンド

 Caチャンネルα2δリガンドは、神経終末においてカルシウムイオンの流入を減少させ、興奮性神経伝達物質の遊離を抑制することで、疼痛緩和(鎮痛)作用を発揮する薬剤です。


 製品名:「リ〇カ」「プ〇ガバリン」「タ〇ージェ」など


 主な副作用:主なものは眠気、めまい、浮腫ふしゅ(からだのむくみ)、体重増加などがあります。全体的な副作用の出現率は30~40%ともいわれ、これはかなり高い頻度です。しかし眠気やめまいの多くは内服開始後1週間以内に現れることが多く、ある程度耐えることが出来れば、以後は継続して内服できるようになることもあります。ただし内服初期のめまいには特に注意が必要で、この期間内の長時間の運転は避けるべきですし、階段昇降などでの転倒には特に注意が必要です。


 坐骨神経痛に対する効果:推奨度「2」エビデンス「D」


 解説:急性腰痛・慢性腰痛では挙げられていなかった薬剤です。それはなぜかと言えば、この薬剤は作用機序からもわかるように「神経痛」に対してのみ有効な薬剤だからです。エビデンスレベル「D」というのは、比較的新しい薬剤で2019年頃には症例数が少なかったからかもしれませんが、発売されて以降は坐骨神経痛に限らず神経痛に対して広く使われるようになった薬剤です。

 推奨度「2」というのは、やはり眠気とめまいの副作用が無視できないからで、ご高齢の方などでは転倒による骨折の報告などもあることから、医療機関で最初に処方される場合には適正量よりもかなり少ない量から開始となることがあります。1週間くらいで副作用が出なければ、医療機関を再診して速やかに薬の量を増やしてもらってください(量が少ないと効かない、適正量を内服して初めて効果が出ます。よって最初の1週間はあまり効かないと思った方がいいです)。

 適正量を内服することが出来ればその効果は高く、神経痛に対してはいまやNSAIDsと同等の評価を得ていると言ってもいいでしょう。自分は坐骨神経痛の場合には、NSAIDsとCa チャンネルα2 δ リガンドの2剤を両方とも処方することが多いです。この2剤は作用機序が全く別であり、相乗効果を見込めます。大事なことなので3回書きますが、初期量ではほぼ足りません。徐々に増やしてもらってください。


ⅲ)セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

 セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これら神経伝達物質の働きを増改善することで抗うつ作用をあらわします。またノルアドレナリンやセロトニンは脳内で痛みの抑制に関わる下行性疼痛抑制系を賦活(活性化)し、この働きにより鎮痛効果が期待できます。


 製品名:「サ〇ンバルタ」など


 主な副作用: 眠気・めまい・頭痛や吐き気・嘔吐、便秘、口渇、などが生じることがあります。また前立腺肥大症に伴う排尿障害や緑内障の方には相対的禁忌となっています。


 坐骨神経痛に対する効果:推奨度「2」エビデンス「C」


 解説:慢性腰痛において推奨度「2」エビデンス「A」であったSNRI、坐骨神経痛においては推奨度「2」エビデンス「C」とエビデンスレベルを下げています。この理由としてはSNRIはあまり神経痛に対して広く使われていないため、ということかもしれません。自分も坐骨神経痛に対してこの薬剤を使用することはあまりありません。



結論

・坐骨神経痛に対しては、NSAIDsかCa チャンネルα2 δ リガンドのどちらか、あるいは両方とも内服することが薬物治療としては効果的である。

・Ca チャンネルα2 δ リガンドは有用な薬剤であるが、眠気とめまいの副作用にはかなりの注意が必要である。また初期量ではあまり効果がないことが多く、1週間程度で副作用がないことが確認できたら、速やかに増量してもらうべきである。

・神経痛だけでなく足の麻痺(足首が動かない、膝崩れして転倒する)や膀胱直腸障害(排尿障害や便失禁など)を生じた場合は手術適応である。すぐに医療機関(診療所よりも手術を行っている病院が望ましい)を受診するべきである。遅れると麻痺が後遺障害として残存する可能性が高い。



 腰痛に対する薬物治療は今回で終了です。医療機関で腰痛に対し薬を処方された場合には、一度目を通して確認していただければ幸いです。


 次回は「腰痛に対する物理・装具療法、運動療法について」を予定しています。牽引や超音波、ホットパック、コルセット、そして運動……腰痛の治療は薬だけではもちろんありませんよ!

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