整形外科 腰痛 急性腰痛に対する薬物治療
前回より「腰痛診療ガイドライン2019」に基づいた「腰痛の治療」について紹介しています。「安静」が非特異的腰痛の治療には効果的ではない、覚えていらっしゃいますでしょうか。今回は「薬物療法」の治療効果について。
まず前回のおさらいとして、ある治療に対する評価には「エビデンスの強さ」と「推奨度」の2つがあります。
「エビデンスの強さ」とは、ある治療が腰痛に実際に効果があるのかどうかを、各種論文を用いて総合的に判断したものです。これが強ければ、その治療は実際に腰痛を和らげる効果が確認されている、という事です。エビデンスの強さには4段階あり、
A(強):効果の推定値に強く確信がある
B(中):効果に推定値に中程度の核心がある
C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない
「推奨度」とは、その治療が実際に腰痛に対して行われることが勧められるか、という事です。これにも4段階あり、
1:行うことを強く推奨する
2:行うことを弱く推奨する(提案する)
3:行わないことを弱く推奨する(提案する)
4:行わないことを強く推奨する
上記の2つを各薬剤別に当てはめて評価しています、それではさっそく見ていきましょう。今回は効能の分類(例えば「非ステロイド性抗炎症薬」)と実際の製品名(これは一部を伏字としますが、医療機関で処方されればすぐに見当がつくと思います。「ロ〇ソニン」など)を併記しています。内服薬を処方された場合には、ぜひ確認してみてください。
今回はまず、急性腰痛に対する内服薬の効果についてみていきましょう。
①急性腰痛(発症から4週間未満)に対する薬物治療
ⅰ)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
プロスタグランジンE2(PGE2)という炎症発生物質・疼痛発生/増強物質の合成を抑制することによって鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮する薬剤です。
製品名:「ロ〇ソニン」「ロ〇ソプロフェン」「セ〇コックス」「セ〇コキシブ」など
主な副作用:胃腸障害、腎機能障害、NSAIDs喘息(成人喘息患者の10%程度で発症)、薬疹など。喘息と薬疹の2つの過敏症反応は、内服してからおおむね30分~数時間以内に出現します。
急性腰痛に対する効果:推奨度「1」、エビデンス「A」
解説:腰痛のみならず、打撲傷や関節痛・頭痛や歯痛などに幅広く用いられており、医療機関だけではなくドラッグストアにも同様のものがあります。推奨度「1」、エビデンス「A」と急性腰痛に対しては最高の評価を得ており、ガイドライン上も1+Aを獲得している薬剤はNSAIDsだけです。急性腰痛に対する薬物としては第一選択といえます。ただしいくつか注意するべき副作用もあり、NSAIDsに対し過敏症のある方、胃潰瘍の治療中の方、腎機能障害がある方(特に高齢者)には使いにくく、また妊娠後期の方には禁忌となっています。
内服が出来るのであれば、急性腰痛に対してはNSAIDsは効果を期待できる薬剤といえます。
ⅱ)筋弛緩薬
脳から筋肉への筋肉緊張の伝達を抑え筋弛緩作用をあらわし、痛みやしびれ感などを緩和する薬剤です。筋肉の緊張状態が続くと肩こりや腰痛・頭痛などがおこりやすくなるため、緊張を押さえることで痛みの軽減を図ります。
製品名:「ミ〇ナール」「サ〇バゾン」など
主な副作用:ふらつきやめまい・眠気などが出る場合があります。頻度や程度はそこまで多くはない印象ですが、長時間の車の運転などを予定している場合には避けた方がよいかもしれません。
急性腰痛に対する効果:推奨度「2」、エビデンス「C」
解説:飲んでも良いけれどそこまで効かないかもしれない、というニュアンス。副作用が比較的少ないのが推奨度2の理由かもしれません。NSAIDsと重複して飲めるので、たくさん飲んで安心したい!という方には良いかも(このような考え方はあまりお勧めしませんが…)。
ⅲ)アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは鎮痛・解熱作用を有しており、NSAIDsと同様も作用を持ちますが、その作用は弱く抗炎症作用はほとんどありません。そのためアセトアミノフェンはNSAIDsには分類されていません。
製品名:「カ〇ナール」など
主な副作用:肝障害が出る場合がありますので、もともと肝機能が良くない方の内服は注意が必要です。
急性腰痛に対する効果:推奨度「2」、エビデンス「D」
解説:「飲んでもいいですがおまじないかもです」という、上にあげた筋弛緩薬の下位互換的な評価です。この薬の良いところは副作用が非常に少ないということです。胃腸障害や腎機能障害・喘息など、NSAIDsにつきもののこれらの注意点をほとんど気にせずに内服できます。この理由から、高齢者には高頻度で処方されます。
「効かないなら飲む必要ない」というのは一面の真実ですが、内服薬には「プラセボ効果」(全く薬の効果を持たない薬を飲んでも、効果が出てしまうこと)を期待して処方するものもあり、この効果は決して馬鹿にはできないものです。カ〇ナールくらい副作用が少ない薬であれば、これはこれでありだと個人的には思います。
ⅳ)弱オピオイド
「オピオイド」は「麻薬性鎮痛薬」を指す用語ですが、麻薬=オピオイド”というわけではありません。オピオイドとは「中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似した作用を示す物質の総称」です。この中でも弱オピオイドは、軽度~中等度の強さの痛みに用いるものを指します。
製品名:「ト〇マール」「ト〇ムセット」「ノ〇スパンテープ(外貼剤)」など
主な副作用:吐き気は頻度としてかなり多い副作用です。このため、弱オピオイドと一緒に制吐剤を処方されることがあります。また便秘の副作用も比較的高頻度で、やはり下剤を一緒に処方されることがあります。また、長期の内服は薬物依存や耐性を生じる場合があります。
急性腰痛に対する効果:推奨度「2」、エビデンス「C」
解説:近年非常に多く使われるようになった薬剤です。「効き目としては期待できるが、副作用もあるので第一選択ではない」と私は捉えています。弱オピオイドは手術の後にも使用するような強めの鎮痛薬で、効果は確かにあるのだと思いますが、副作用・特に吐き気の頻度が高く安易には使いづらい薬剤です。実際に内服して自分には合わない、という方もかなりの頻度でいらっしゃる印象です。NSAIDsが全く効果がない場合に限定して使用すべき薬剤だと思います。
ⅴ)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液
ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は、ウサギの皮膚にワクシニアウイルスを注射して、そこの炎症を起こした部位より摂取した物質を抽出精製したもので、日本で開発されました。痛み神経の感受性を低下させることで鎮痛効果を発揮するとされています。このため、一般的な鎮痛薬が効きにくい神経の損傷による神経障害性疼痛によい効果が期待できます。特に帯状疱疹(ヘルペス)後の神経痛には、内服・注射薬共によく使用されています。
製品名:「ノ〇ロトロピン」
主な副作用:特になし
急性腰痛に対する効果:推奨度「2」、エビデンス「C」
解説:作用機序がが今一つ分かっていない薬剤ですが、整形外科領域では腰痛・座骨神経痛などに幅広く処方されています。最大の特徴は「副作用がほとんどない」こと。よって筋弛緩薬などと同様、NSAIDsと共に処方されることも多く、また高齢者にも比較的安心して使用することができます。……が、その効果については特に急性腰痛に対しては限定的です。やはりプラセボ的な効果を期待して使うことが多い印象です。
結論
・急性腰痛に対しては、内服可能であれば「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」が第一選択。
・その他の薬剤は、あまり効果が見込めない、あるいは副作用の点でお勧めしにくい。NSAIDsが何らかの理由で内服できない時に、ある程度気休めとして内服するくらいの気持ちで考えた方がよい。
少し長くなりましたが、今回は「急性腰痛に対する薬物療法」でした。もちろん内服しなくてもやっていけそうな程度の痛みであれば、必ずしも薬を飲む必要がないことは言うまでもありません。飲まなくてもいい薬は飲まないに越したことはないのです。少しでも早く治したい、あるいは薬を内服しないと不安で仕方がない(このような考え方はやはりお勧めしませんが)、そんなときには内服薬の使用をご一考ください。
次回は「慢性腰痛(発症からの期間が3か月以上)に対する薬物療法」を予定しています。
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