よもやま話 そのサプリメント、必要ですか?

 これを書いている2024年4月現在、サプリメントによる健康被害についての記事が連日ニュース欄をにぎわせています。

 健康被害を起こした成分や被害者の症状との関連性などについては現在調査中であるため、私から個別のサプリメントの是非について語ることは出来ません。よってこの項では、私たちがサプリメントなるものに対してどのように向き合っていくべきなのか、私見ですが少し述べてみたいと思います。


まずは、日本医師会のHPで公開されている健康食品についてのアナウンスを見てみましょう。


「健康食品には、法律上の定義はありません。

一般的には、通常の食品よりも、『健康によい』『健康に効果がある』、『健康の保持増進に役立つ』などの表現で、販売されているものをいいます。

また、サプリメントは、ある成分が濃縮されて、錠剤やカプセルなど、通常の食品とは違う形をして作られた製品をいいます。ただし日本では、スナック菓子や飲料まで含むこともあります。

"Supplement"は、英語で「補助」、「補充」というような意味です。

ただし、健康食品やサプリメントが、実際に、ふつうの食品よりも、「健康によい」、「健康に効果がある」、「健康の保持増進に役立つ」かどうか、科学的根拠があるかどうかは、必ずしも十分ではありません。

また、健康食品やサプリメントは、くすりの代わりではありません。

それから、「食品だから安心」、「天然成分だから安全」は誤解で、天然成分由来の健康食品でも、アレルギー症状や医薬品との相互作用を起こすものがあります。

特に、病人、子ども、妊産婦、高齢者、アレルギー体質のある方などは、要注意です」


 いかがでしょうか。かなりふわっとしているな、というのが私の印象です。もちろん健康食品には「栄養機能食品」「特定保健用食品(トクホ)」「機能性表示食品」など様々なカテゴリーがあるのですが、その区分を一般の消費者の方が理解し熟知するのは困難だと思います。


 しかし少なくとも、基本的には「不足分を補う」ものであって、病気を治したりするものではないという事は理解しておく必要があります。私もよく聞かれます、「コラーゲンやコンドロイチンが入った錠剤で膝の痛みが治るのか?」「〇〇で脂肪の燃焼が良くなって、やせるって聞いたけれど」「このお茶を飲むだけで血糖値が下がるらしい」などなど…そして私の答えはこうです、「基本的にお勧めしません。どうしても、とのご希望ならば、販売会社に問い合わせた上で個別に判断を」と。

 もちろん健康食品を開発するにあたっては、専門のラボで研究を重ね厚生省に論文を提出し認可を得るというプロセスを経ているものも多いため、その研究結果に目を通していない私にはそのサプリについての良し悪しを断定することは出来ません。しかし、ここで少し考えてみてください。その食品が本当に高コレステロール血症や糖尿病を改善し、血圧を下げ、関節軟骨を再生させることが出来るのであれば、もはやそれは「食品」ではなくて「薬」に格上げされるべきだとは思いませんか? そしてそれらが「薬」ではなく「食品」の地位にとどまっているという事は、「薬」とは異なってサプリには医療費を、つまりは税金をつぎ込むだけの価値はない、と国に判断されているという事です。要するに、お金を払うだけの効果は認められていないという事なのです。私に言わせればサプリは、その効果はともかくとしてお金がもったいない。もっとほかにやれることがあるのではないか、と。

 さきほどサプリについて聞かれた時に「販売会社に問い合わせた上で個別に判断を」と説明していると書きましたが、実はこれもかなり無責任な言い回しだなと思っています。販売会社は基本的にデメリットについてつらつらと説明したりはしませんし、健康食品について論文並みの知識を持たない消費者が、そのサプリの効能や危険性などについて判断できるはずもありません。


 それでは、とりあえず私たちに出来ることは何か。身もふたもないですが、「無用なサプリは摂取しない」。これに尽きます。私は治療の原則として、なるべくデメリットが少ない方法から行うべき、と考えています。


 例えば高血圧。降圧薬を飲めばいいじゃないか、という短絡的な考えは捨ててください。どんな薬にも必ず副作用はあります、降圧薬にもアレルギーや歯肉の腫れ、咳、血圧が過度に下がることによるめまいなどが生じることがあります。血圧が高いと言われた時には、まずは塩分の高い食事を見直し、適度な運動を生活に取り入れることです。この二つに大きなデメリットや副作用がないことはお分かりいただけると思います。これで血圧が正常になれば、あえて副作用の生じる可能性のある降圧薬などを飲む必要はないのです。高血圧を治療する場合、内服薬は最後の手段と考えてください。

 そして、サプリ。高血圧に限らず何らかの病気の治療過程において、サプリは治療の効果判定を阻害する因子であると私は考えます。もし仮にサプリを摂取した後に血圧が改善したとして、それがサプリのおかげかどうかを判断する手段はありません。サプリを飲みさえすれば大丈夫と考えてしまい、生活習慣の改善を怠ってしまう可能性があります。第一、食事にも気をつかわず身体も動かさない状態でサプリだけ摂取して健康になろうというのは、ちょっと虫がいいとは思いませんか? しかもそのサプリ、結構なお値段がするのに効果があるかどうかも分からない、さらにはひょっとして副作用が生じる可能性もある。正直お守りを買った方が副作用が無いだけまだましなのかもしれない、と思うことすらあります。


 治療の原則でデメリットが少ない方法から行うべきと書きましたが、明らかに緊急性のある骨折などの場合を除いて、いきなり手術を勧める医師に出会った場合にも、同様の理由で少し冷静にそのアドバイスを吟味してみる必要があります。手術はそれなりのリスクもあり、デメリットも決して無視できない治療法です。通常は「手術をした場合のメリットとデメリット」「手術をしない場合のメリットとデメリット」をそれぞれ話してくれるはずです。そして治療とは、メリットとデメリットを天秤にかけて選択するものです。どんな治療にも良いことと悪いことは必ずあります、良いことばかりを話す医師は無責任であると私は考えます。世の中そんなうまい話はないのです。医療は、人間の身体は、常に不確定性に揺れています。


 少し話がそれましたが、自分の身体に入れるものについては、もう少し敏感になるべきではないでしょうか。ご自分のビタミン必要摂取量が食事で摂れているかどうかわからないのに、やみくもにビタミン剤を摂取するのですか? それを正確に知るためには栄養士の知識が必要ですし、脂溶性のビタミンを大量に摂取すると副作用が生じる可能性があります。また、ご自分のカロリー収支を把握していないのに、コンビニで買うパンのカロリーを気にするのは少し変ではないでしょうか? シジミ50個分の栄養が錠剤1個でとれる、とうたう商品があるとして、シジミ50個分の栄養素を一度に摂ることは果たして健康に良いと言えるのでしょうか?


 今日のサプリの流行は、「健康」という言葉だけが独り歩きしていて、そこから生じた自分の生活習慣に対する漠然とした後ろめたさにつけ込まれた結果だとも言えます。もしあなたが本当に健康について心配であるというのなら、まずは健康診断を受けることです。まさか健診に行かずにサプリを飲んだりしていませんよね? 自分の現状を正確に把握し、問題点があれば対策を立てて改善する。どのようなタスクにも共通する基本的な考え方だと思います。


 もちろん今回の事件には、健康被害が被害者から会社側に報告されてからそれが公表されて販売中止となるまでに相当な時間のラグがあったこと、また健康食品自体へのチェック機構が甘い印象であることなど、消費者側以外の要因が大きいことも事実です。だからと言って、すべて会社と厚生省に非があるのだ、被害にあわなかった自分はラッキー、と思っているあなたは少し能天気だと言わざるを得ません。ラッキーが続くとは限らないのですから、危険を伴う賭けは最小限に抑える努力を普段から心がけておくべきではないでしょうか。


 健康に王道なし。安易な方法に流れることなく、不断の努力で正しく健康になりましょう!

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