第38話 エリリカアタック!!! ~エリリカアタックとは、間違った大人を両断する必殺剣である~

 エリリカが剣を一振り。

 向けられた切っ先はお父さんとお母さんへ。


 なんという悲劇的な光景だろうか。


「あー。これいいっすねー。映えるっすわ。ウチはもうぜってぇ出ねぇんで。エリリカ、がんばー! 今、あんた輝いてるっすよー!! ほれ、野郎ども! 応援するんすよ!!」


 コメント欄の賑わいが弱い。

 勇者が巨悪を前に立ち向かうという最高に燃える、そして萌えるシチュエーションだというのに。


「出ました!!」

「あんたはさっき出し切ったばっかなんすよ。まだ出るならあっちに出せっす」


「エリリカさんのスカートが捲れ上がってます!! さっきまで座り込んで泣いてましたから!! 今日に限ってインナー穿いてませんし!!」

「ざーけ。野郎ども、エリリカの尻に集中しててコメント打つ手がお留守っすか!! そんなんだからいつまで経ってもそんなんなんすよ!! おらぁ! 変身!! ……ったく。そーれ!! 『マロリン・ピュアピュアソックス』!!」


 マロリがカメラにニーソックスを被せた。

 フリルが映り込んだのでコメントの勢いが戻る。


 「ロリリン!!」「ロリリン前言撤回来たぁ!」「スパッツ脱ぐの? いくら出せばいい?」「全額仮想エェェンに換金して来た。あとワシも服脱いだ」と男たちが滾る。


 その間にセフィリアがエリリカに駆け寄り「エリリカさん! スカートが! チラどころかモロです!! 良かったですね! 今日は可愛いヤツで!!」とフォローしながら捲れたプリーツスカートの裾を直してあげた。


「おっし。サービスは終わりっす」


 ソックスがフレームアウト、いやさソックスからフレームイン。

 もうよく分からないが、とにかく再び凛々しい顔で剣を向けたエリリカが端末によって撮影再開される。


「う、うぅぅ……!! もぉぉ……。ホントやだ……」

「やっちまったっすね。さっきの勇者ムーブ消えてんじゃねーっすか。パンチラで」

「出ました! 出てました!! パンモロです!!」


 プルプル震えながら、内股になって涙を浮かべながら、それでもエリリカは吠えた。


「お母さん!!」

「はい! なんですか!!」


「よ、よくないと思う!! そーゆうの!!」


 魔国を統べる淫乱宰相と勇者エリリカ、最期の戦いがファーストアタックという形で幕を開ける。

 つまり、ファイナルアタックでもある。


 世の中はいつも矛盾に満ちている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「エリリカさん!! さすが私の娘!!」

「分かってくれたの!?」


「一緒にマスラオ様を落とす算段をつけようという事ですね!?」

「全然分かってない!! お母さんはさ! その……お父さんが好きなんでしょ!?」


「もちろんです! 今すぐにでも体中をまさぐられたいです!!」

「まさ……!! 絶対エッチなヤツだ……!! だから、そーゆうのよくない!!」


「あ!」

「分かってくれたの!?」



「もう四の五の言わずに服を脱いでおっぱじめろと言うんですか!! さすが私の娘!! とっくに淫乱ですね!! サキュバスになりましょう! 戸籍変更しときます!!」

「そうじゃないの!! ……似た者夫婦だよ!! 2人とも!! ばかぁ!!」



 一見すると無為な会話の応酬。

 一聴すると哀しき言葉の乱舞。


 だが、見る者が見ればここまでとは流れが明らかに違うことにすぐ気付く


「さすがですな。まっこと、さすがはお二人の娘様であらせられる。エリリカ様は今、戦場の中心に立っています」

「ガイコツさん生きてたんすね」


「我はバラバラになったの初めてでしたが、よく考えたら反対側が透けて見える部分も多い体の構造でしたので。気合と魔力込めたらくっ付きました」

「ザッコルさん! それは良いので、何がどうなっているのか出してください!!」


「あんたは出せねぇんすか……」

「出ませんでした!!」


「便秘みたいっすね」

「ヤメてください!! 高潔な鑑定魔法ですよ!!」


 ザッコルが目を細めてから言った。

 多分、ガイコツの目はみんなの心の中にある。


 ガイコツが目で見るんじゃない。

 ガイコツを我々観測者の目で見るのだ。


「エリリカ様に向かって、淫乱閣下の卑猥な刃が飛んでいません」

「おー。確かに。そっすね」


 先ほどまでは耳を塞いで聞くに堪えない言葉から逃げていたエリリカ。

 今は真正面から立ち向かっており、時を同じくして飛び交っていた刃も消えた。



「出ました!! エリリカさん、ついにエッチな言葉を理解して! 受け止めたんですね!! 母親とエロトークができるまでに成長した!! だから刃が消えたんです!!」

「あー。分かるっすわ。なんか、ある日突然、親とそーゆう話するようになるタイミングってあるっすよねー。最初はなにいってんだこいつって思うんすけど。慣れたら何でもねぇんすわ」


 エリリカちゃん、猥談に慣れる。



 それはつまり、タオヤメ・バロスの口撃の全てを受け止めることが叶うという事実。

 最後に会ったのは1歳の頃で、エリリカには記憶すらなくてもお母さんにとって娘は大事。


 物理的に傷つける道理がない。

 残虐な魔族を統べる宰相ならばその限りではないと申されるか。


 マスラオとタオヤメは性的な相性こそ最悪だが、性格の相性はバツグン。

 つまり、子育ての価値観は共有している。


「お母さん!!」

「はい! なんですか!!」



「人前でそーゆうこと言うの、ホントにやだ!! 常識ってあると思う!! お母さん、国で1番偉いんでしょ! あたしも魔王を1ヶ月だけやって分かったもん!! 職員の人、魔族も人間も! みんな頑張って働いてるじゃん!! よくないと思う!! 上に立つ人がそーゆうこと言ってみんなのやる気を削ぐの!! せっかくお母さんとお話しできたのに!! そんな事ばっかり言うと嫌いになるから!!」

「え゛っ!? エリリカさん!? それはもしかして……同居NGですか!? そ、そんな……!!」


 タオヤメが力なく崩れ落ちた。



 これが勇者エリリカ・バロスの必殺技。

 エリリカアタックである。


 正論で猥談を叩き斬る正義の一太刀。

 娘の放つ社会通念上に敵う理屈はお母さんに効く。


「おー。おおー!! エリリカ! やったんじゃないっすか!?」

「出ました! まだです!!」


「そこはもうやったでいいっすよ……。何が出たんすか……」

「マスラオ様です!!」


 床に崩れ落ちたお母さん。

 さすがはサキュバス、崩れ落ち方も大変に淫乱である。


 それを見下ろして勝ち誇るお父さん。


「はっはっは! エリリカちゃんに怒られたね、タオヤメ!! そらご覧! 私はずっと帰りなさいって言ってたのに!! ははははっ!」

「お父さん」


「なんだい!? エリリカちゃん! 助けてくれてありがとう!!」

「今日からもうマスラオさんって呼ぶから!! あと反省するまで無視する! ばか!!」



 マスラオが静かに息を引き取った。



 プロヴィラルで最悪の戦いは勇者エリリカの剣によって終わった。

 この瞬間、真の勇者が誕生したのだ。


 メモリア・リガリアのホットワードランキングトップ10のうち9つをエリリカが独占した瞬間でもあった。


「……なんで8位にロリって入ってんすか。ざーけ」


 実質エリリカも15歳でロリの範疇だから、広義の意味でランキングを制覇しているのだ。

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