第13話 女子たちは配信準備中! ~衣装とか魔法少女とか魔法少女とか~

 人間に無償で配布されている端末は魔国議会によって製造、流通が行われている。

 魔王になればまだ開発段階の高品質なメモリア・リガリア配信端末を所持している。


「はい! カメラの用意整いましてございます!! お父様!!」

「ありがとう、ガイコツくん! 君のお父さんと呼ばれる覚えはない!!」


「藻の量はどうですか? とりあえず魔族倒した直後のシーンから撮るんですよね? もう少し散らしときます? お父さん!」

「いや、そのくらいでいいよ! なかなか筋がいいね、シカくん! 君にもお父さんと呼ばれる覚えはない!!」


 マスラオが現場監督となり、魔王と中位魔族に指示を飛ばしながらバロス・チョロス・ロリのお披露目配信の用意を進めていた。

 先ほどまで使っていたエリリカのアカウントとは別に、チームのアカウントもザッコルによって超特急で申請済み。


 エリリカのアカウントはセンシティブな映像が多すぎたため、バァァァンされたらしい。

 バァァァンとは配信者が最も恐れる事態。

 これを喰らうと現金化していない報酬も、これまで配信して来たメモリア・リガリアの動画も全てが闇に葬り去られ無かったことになる。


 魔国議会配信審議局が絶えず検閲しているので、かなりの速さでバァァァンされる。

 エリリカの稼いだ視聴数はザッコルによって既に現金化された事を付言しておく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちら、バロス・チョロス・ロリのメンバー。

 各々が身だしなみチェックをしていた。


「ミニスカートの丈ってどのくらいが良いと思います? セフィリアさんは大人なので、意見を聞きたいです」

「鑑定しましょう! ……出ました! 何センチでも大差ないみたいです!!」


「え゛……。そうなんだ……」

「ただ、エリリカさん! インナーは穿いていた方が良いと出ています!」


「どうしてですか?」

「生足ですと最初からエリリカさんのフルスロットルですが、インナーを穿くことによって、インナー有、一部破損、生足と段階を踏んで悪あがきができると出ました!!」


「そうなんですか!! じゃあ穿きます! お父さん、忘れ物とか言っててウザかったけど……。届けてくれて助かったぁ!」

「……いや。エリリカは人の言う事を信用し過ぎだと思うんすけど」


 エリリカは白いスカートに黒いインナーを穿いて、胸のプレートは戦う必要がないのでその辺に放り投げた。

 元気な15歳アピールで行くと決めたらしい。


 セフィリアは特に何もしていない。

 露出の少ない聖衣とアンバランスなスタイル。

 もうそれだけで需要があると彼女自身が鑑定済み。


 マロリはショートパンツにノースリーブのまま、冷めた目で2人を見つめていた。


「マロリちゃん!!」

「だからウチはエリリカより年上なんすけど。まあ、いいっす。なんすか?」


「マロリちゃんの自己紹介動画は個別で先に撮りたいからね! 指示出していいかな?」

「あー。まあ……。あんたがリーダーみたいなもんっすからね。一応、聞くだけ聞くっすけど。ただウチは全然乗り気じゃねーっすからね。そこんとこ」


「変身して、きゅるるんっ! って言って! ポーズはね、こう! スパッツだからガッツリ見える感じで!!」


 エリリカが胸の前で拳をギュっと握ると、上目遣いでカメラを見つめる。

 続けてくるりとその場でターンして、両手を広げてにっこり。


 設営作業をしていたマスラオが「あああー!! 最高でぇぇぇす!! もうエリリカちゃんがプロヴィラル支配しよう!!」と万雷の拍手を1人でキメた。


「エリリカは耳クソ詰まってるとか以前に親の教育がダメなパターンなんすよ。頭ぶっ飛んでんすけど! 親父は責任取りやがれっすわ、マジで!! そもそも魔法少女が嫌だつってんのに! なんでそんな辱め受けねぇとなんねーんすか!!」


 マスラオは100メートル離れていても娘の援護射撃が可能。


「ロリリン! お金あげるから! エリリカちゃんのお願い聞いてあげて!!」

「おい、おっさん! 次にそのふざけたあだ名で呼んだらマジで吹き飛ばすっすよ!! そんな屈辱的な略され方され続けたら血圧上がって倒れそうっすわ。あー。おっさんってマジ無理」


 マスラオが100メートル先から5秒ほどでマロリの前までやって来た。

 ニポーンでは天下が取れるスピードらしい。


「これ! ほら! ガイコツくんがくれたの! 金だって! あげちゃう!!」

「変身するとこは撮ったら怒るっすからね! ……しゃあ! 変身完了!! おら、カメラ構えるんすよエリリカ! ポーズこうっすか!? こんなスパッツとかいくらでも見りゃいいんすよ!! ウチは魔法少女だぞ! ローリリン! きゅるるんっ!! 余計に回転しとくっすわ!! きゅるるるん!!」


 一仕事終えたマロリにセフィリアが声をかけた。



「マロリさんはプライドとかないんですね! 清々しいです!! わたくし、人の業を目撃しました! 感動です!!」

「うっせーんすよ。ムチムチお嬢様。プライドって持ってたらなんか良い事あるんすか? 金は持ってるだけで幸せになるんすよ。あー。お疲れっした。変身解除するんで、こっち見たヤツは殺すっすよ」


 フリルいっぱいの衣装が消えて、一瞬あられもない姿を経由したマロリがラフな私服に戻り「出番来たら呼んでもらっていいっすか」と言ってザッコルの用意した軽食コーナーへと消えて行った。



 スタッフのガイコツとシカが設営を終える。

 お父さんチェックが入るのでまだ油断はできない。


 最悪の場合、ガイコツはバラバラになるしシカは頭が吹き飛ぶ。


「お父様! いかがでしょうか!!」

「オレら生まれて初めてガチで配信する側にかかわりました!!」


 真剣な表情でスタジオと言う名に変わった闘技場を隅々までチェックするマスラオ。

 骨で作られたステージの端を指でなぞると埃が付いた。


「ガイコツくん。こういうところだよ。詰めが甘い。エリリカちゃんの衣装にゴミが付いたらどうするの!!」

「はっ。申し訳ございません!!」


 死ぬのかなと恐怖しながら頭を下げるザッコル。

 そんな彼の元に降臨せし娘。


「お父さん!! ザッコルさんもヤッコルさんもタダで手伝ってくれてるんだよ! 文句言うなんてあり得ない! お礼言って! ありがとうございます!! はい! 復唱!!」


 丁寧に頭を下げるエリリカ。

 それを見て、歯を食いしばりながらマスラオも続いた。


「ザッコルさん。ヤッコルさん。ぐっ! あ゛、あ゛あ゛……!! あ゛り゛がどゔござい゛ま゛じだぁ゛ぁ゛!!」


 謝辞で死の予感を覚えたのも初体験だった魔族コンビ。

 2度と人の命を奪うまいと心に誓った。


 ガイコツの心がどこにあるのかは分からない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る