第12話 配信チーム バロス・チョロス・ロリ ~早速お披露目配信をしなければ~

 娘のやりたい事を応援するのがお父さんの矜持。

 その応援方法の選択を誤ると疎まれる可能性を孕んでいるが、それに臆して手をこまねくは真のお父さんにあらず。


 マスラオは真っすぐに行く。

 真のお父さんは常に真道を真っすぐ。


「エリリカちゃん! 3人でユニット組みなさいよ!! だったらお父さんもちょっと安心!!」

「うぅー。でも、マロリちゃんは乗り気じゃないみたいだったし……」


 念のために繰り返し言及しておくと、エリリカは15歳。

 マロリは17歳。


 年齢の差が2歳ほどある。

 そしてスタイルの差は5歳くらいある。


「マジでそれっす。ウチ、歯医者の紹介してもらうためにここに来たんすよ? なんで配信者なんかやんねーといけねぇんすか」

「だよね……。うん。ごめんね。あたしがワガママ言ったの、分かってる」


「ま、まあ? 特別にやってやんねー事もねぇっすけど!?」

「え!? なんで!? いいの!? だって! マロリちゃん魔法少女だよ!? すっごくエッチな目で見られるよ!? あたしも触手型のモンスターとぬるぬる対決とかもう頭の中で企画してるよ!?」


「お、おお……。ガチでおっさんの娘っすね……。や。まぁ……。気まぐれっすよ。飽きたらヤメるっすからね!!」


 エリリカがマロリの手を握ってぴょんぴょんと跳ねた。

 喜びのリアクションとしては大変可愛らしく、これは配信向きの素養が垣間見えたか。


 「ちょっと失礼するっすわ」と言って、マロリが一旦エリリカと距離を取る。

 向かった先はお父さん。



「これね、手付金! ガイコツくんがくれたの! 銀だって!」

「マジすか! 金なのに銀とか洒落てんじゃねっすか! 仕方ないっすね!! じゃあ、しばらく頑張るっすよ!!」


 これをニポーンではパパ勝と呼ぶらしい。

 パパがお金の力で勝つ事の略称らしいが、なにせ『原初の教え』は古い文献なのでもしかすると齟齬があるかもしれない。



 一方、エリリカはセフィリアを勧誘中。


「セフィリアさん! その、えと、あのですね!!」

「あ! いいですよ!」


「やってくれんるんですか!? 配信チーム!!」

「いえ! 結構ですという意味です!! まったく興味がありません!!」


 毅然とした態度でノーと言えるセフィリア。


「あぅ……。あたしにできる事なら何でもしますから!!」

「エリリカさん……!!」


「はい!!」

「エリリカさんにやって頂きたい事は特にありません!!」


 お淑やかで清楚で丁寧口調で脳筋なセフィリア。

 正論で殴りつけるのが得意。


「ですよね。セフィリアさん、お父さんに用があるんでしたもんね。お父さんくらいならいくらでもあげるのに……」

「やりましょう!! カメラに向けてお尻付き出せばいいんですね!!」


「いいんですか!?」

「チョロス家は目的のためならば身体だろうと差し出せが家訓です!!」


 倫理観が欠如しているチョロス家。

 エリリカも自然にお父さんを売ったので、この2人は価値観が似ているかもしれなかった。


「お父さーん!! なんかね! 配信チームできた!! ありがとー!!」

「はぁぁ!! エリリカちゃんが笑顔で私にお礼を!! こちらこそ!! 生まれて来てくれてありがとう!!」


 こうして3人娘の配信チームが結成された。


 そんな運命的なシーンの後ろでは、ザッコルとヤッコルが「モッコルどうします?」「我より年上の部下であるからな。正直、結構気まずかった。しばらく死んでてもらうか?」と、藻の魔族の処遇について相談していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「お父さんが名前付けてよ! 配信チームの!!」

「ちょっと! いいの!? 私、考えちゃうよ!? ねぇ! 聞いた!? ロリリン!!」


 マロリはゲットした銀貨を見つめてほくほくしていたが、5秒ほどでほくほくを失い鬼のような権幕で隣にいるおっさんの胸ぐらを掴んだ。


「おっさん!! 今、なんつったんすか!?」

「ロリリン!!」


「ふざっ!? ふざけんなっすよ!? なんすかその誹謗中傷どストレート!! 誰がロリっすかぁ!?」

「えっ? マロリ・マロリンちゃんでしょ? 略してロリリン。いいじゃない!」


「良かねーんすよ。アホなんすか? マロリの方が短いんすよ。なんで略された形態が名前より長いんすか。あと略し方ァ!! マロリ・マロリンは略してもマロリン!!」

「だって。娘の友達を名前呼びはちょっと……!!」


「友達になってねーんすけど。よしんば友達だったとして、ロリリンって呼ぶ頭おかしいのが親父とか、そっこー友情なくなるパターンなんすけど」

「マロリちゃん、あたしとお友達になるの嫌なんだね……。そっか……」



「くっそ面倒くせぇんすけど! この親子!! そこのムチムチもなんか言ってくんねーっすかね!! あーもう! エリリカとウチはズッ友すよ!! ズッ友!!」

「鑑定しました! 平均的な17歳女子を10とすると、マロリさんの発育指数は1です!!」


 マロリは膝をついて「クソばっかじゃねーっすかぁぁぁ!!」とこの世の不条理を涙目で訴えながら地面を叩いた。



「うん。じゃあみんなの名前をくっ付けよう!」

「わー! すごい! お父さんって時々センスいいよね!!」

「マスラオ様の仰ることならばわたくしはお任せします!!」


 「あ。またやっておられる」と現場の様子をチラ見したザッコルとマロリの視線が交差した。


 「お気を確かに」「あんたは割とまともっすね」と魔王と魔法少女の間で友誼が結ばれた瞬間であった。


「よし! やっぱりエリリカちゃんを先頭にしたい! 後は出会った順で良いかな!」

「あたしは異議なし!!」

「御随意に! マスラオ様!!」



「では! バロス・チョロス・ロリでどうだろうか!!」

「頭ん中になんか詰めてから喋ってくんねーっすか。どうもこうもねーんすよ。ウチ、ロリになってんじゃねーっすか。抜けさせてもらうっす」


 マスラオが「ガイコツくん!」と叫び、ザッコルが銀貨をマロリに差し出し、マロリが「まあ別にロリってウチの事じゃねーっすもんね! 些細な事っす!!」と快諾した。



 ここに配信チーム『バロス・チョロス・ロリ』が誕生したのであった。


「じゃあお披露目配信しなきゃだよね!! どうしよっかなぁ?」

「ガイコツくん! シカくん!!」


「拝承」

「了解しました」


 モッコルの残骸をその辺に散らばらせて、緑色の背景を作る魔族コンビ。

 死体は有効活用するのがレーゲラ・ハァァンのやり方である。

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