第14話 勇者(自称) エリリカ・バロス「あたしたち、これから頑張ります!」 ~お父さんが血を流しながら見守る娘の門出~

 歯茎が剥き出しになるほど食いしばっているマスラオの見守る中、ザッコルが震えながらカメラマンを務め、配信チームバロス・チョロス・ロリのお披露目が始まった。


「あ! こんにちはー!! ……また挨拶考えてなかった!! ど、どうもー!! エリリカでーす!! あのですね! あたしたち、配信チームで活動して行くことになりましたー!! 今日はまず! 仲間たちを紹介しますねー!!」


 元気に手を振るエリリカ。

 お父さんの持って来たインナーを穿いたので、スカート丈は膝上15センチに。

 娘はこっそりと犯行を済ませているつもりだが、マスラオは当然気付いている。


「お父様!! エリリカ様に叱られますから! 落ち着いてください!!」

「シカくん!! 私のエリリカちゃんがいやらしい目で見られてないって言いきれるのかね!!」


「……どっちかと言えばいやらしい寄りではあると思いますけど。ご本人がそれをお望みなので」

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! エリリカちゃんが望んでるんなら何もできないじゃないか!! シカくん!! 君の血は何色だね!!」


「紫です」

「知ってる! さっき見たよ!!」


 ヤッコルがマスラオをどうにか抑える事に成功しており、カメラを構えるガイコツはカタカタと震えながら「我は得難き部下を持った」と涙した。

 もう心から流れる涙なので、どこに目があるとか関係ないのである。


「あたしはですね! リアリアを通して、見てくださっている皆さんと楽しいを共有できたらいいなって! わー! コメント! ええと、クソブタさん! ありがとうございますー!! えー? スカートもっと短く? インナーだから見えても平気? そうですかぁ?」



「シカくん」

「無理です。メモリア・リガリアの匿名性ってすごいので。クソブタは探せません。お父様。娘様のお披露目ですから! 無礼講で!!」


 マスラオの唇からは鮮血がしたたり落ちる。

 ザッコルと戦った時は血の一滴も流さなかったのに、手の平に続いて2度目の流血沙汰であった。



「ではー! うちのチームのお姉さん! セフィリアさんです!!」


 紹介されたので頭を下げるセフィリア。

 相変わらず聖衣の上からでもハッキリクッキリ確認できるスタイルの良さで、一気に視聴者が増える。


「セフィリア・チョロスと申します! 好きな事は筋トレです! 嫌いな事は興味のないものに使う時間です! 興味のない事は配信です! どうぞよろしくお願いいたします!!」

「え゛。……わ、わぁー!! セフィリアさんはですね! すごいんですよ! 鑑定士さん!! きっと皆さんの事も色々と鑑定してくれちゃいます!! ねー?」


「はい! いと罪深き邪な者の真なる穢れた心内を示せ!!」

「……なんでそんな辛辣な詠唱してんすか、エセ僧侶」


 フレームインしたくなかったのに、ツッコミ役不在のチームにおいて責任感からかついつい口を挟むために出てきてしまったマロリ。

 セフィリアは挨拶の代わりに鑑定を披露するらしかった。



「出ました!! 端末の前におられる男性のうち、75%の方が恋人のおられない歴史イコール人生ですね!! これからも望み薄ですが、どうぞわたくしたちの配信で慰めてください!!」

「エセ僧侶は何なんすか? 近くにいねーヤツも殴れるんすか? ……うわ。視聴者が増えてんすけど。キモいっすね」


 2割ほどピュアな心の視聴者が減った。

 トータルでは9割ほど総視聴者が増えた。



 エリリカが「うん! なんだか分かんないけど! 世の中の男の人ってそーゆうのが良いんだ!!」と得る必要のない知識を拾い、マスラオが地団太を踏んだ事で闘技場の床にクレーターが生まれた。


 それを冷めた瞳で見つめるマロリ。


「よくやるっすねー」

「ではでは! 最後にとびっきりのレアな女子!! マロリちゃんです!!」


「は!? ウチはさっき動画撮ったんすけど!?」

「マロリちゃんはですねー! なんと! 魔法少女なんです!! 17歳って見栄を張るとこも可愛いんですよー!!」


「年齢詐称女子にさせられてんすけど。ウチは17歳ってエリリカ信じてなかったんすか? じゃあエリリカの中でウチは何歳なんすか? あー。だるっ」

「マロリちゃんは恥ずかしがり屋さんなので! みんなで呼んであげてください! せーの!!」


「ざーけっすよ。その流れで出ていくバカが……いや割といるんすけど。ウチはバカじゃねーんで」


 フレームアウトを済ませて闘技場に転がっている岩の上に座っているマロリ。

 その瞳にはまったく情熱が感じられない。


 エリリカがオロオロし始めた。

 ならば、あの男が動くのは必然。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ロリリン!!」

「マジで殺されてーんすか、おっさん! 声でけーんすよ!!」


「エリリカちゃんが呼んでるの! お願い!」

「ぜってぇ嫌っす。変身するのも、した後も! 恥ずかしいんすよ! だから数減ってんでしょうが! 魔法少女とかいうクソ職業! ウチもそのうち辞めるんで!!」


「シカくんがね! 自分の角を折ってくれたよ! これ、都会のバザーで売ったら私たちが1年働いて稼ぐお金より高く売れるんだって!!」

「へー。それが? ふーん?」


 マロリはぶっきらぼうに角を受け取ると、無言で変身した。

 フリルだらけで存在する意味があるのか分からない短さのスカートを翻しながらスパッツ全開でカメラの前に駆け込むと、両手を胸の前でキュッと握って上目遣いを繰り出す。



「みんなー!! お待たせっすー!! 魔法少女マロリっすよー!! みんなに夢と希望と愛を届けちゃうっすから! ぜひぜひ一緒に色んな事していくっすよ! マロリとの約束っすからね!! 約束の魔法かけるっすよー!! きゅるるんっ!!」


 給料分はきっちりと仕事をする、社会人の鑑。

 魔法少女マロリであった。



 こうしてバロス・チョロス・ロリのお披露目配信は終わる。


 チャンネル登録者数は10000を超えた。

 これは初速として充分な成果といえる。


「……なんでこの世は平等じゃねーんすか」

「マロリさん! 鑑定しましょうか!」


「エセ僧侶はその乳とか尻引っ込めてからもの言えって話なんすよ。不平等の極みがウチの何を鑑定するっつーんすか」

「貧しき少女に揺蕩う哀しき貧しさよ。その象徴たる貧しさの値を今、示せ!!」


「ばっ!? バカ! ヤメるんすよ!! そーゆうのいいんで!!」

「出ました!! マロリさんの胸囲はAですね!!」


 『原初の教え』によって、プロヴィラルでは古来より男女問わず胸囲のサイズはABCの記号が用いられる。


「ニポーンってもう滅亡してるっすよね? してなかったら、ウチが滅ぼすんで。クソが!! つまんねぇもんばっかこの世界に伝えやがって!!」


 これから上手くやっていけそうなバロス・チョロス・ロリであった。

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