第15話 益荒男 マスラオ・バロス ~ほんのりと明らかになるお父さんの力こそパワーの根源たるパワー~

 配信を終えたバロス・チョロス・ロリ。

 お父さんも娘にお友達ができてご満悦であった。


 道中で血は流れたが、娘を男手一つで育てるには血くらい流れて道理なのである。


「いやいや! みんな仲良しになれて良かったね!!」

「は? おっさんは目が腐ってんすか? このエセ僧侶が乳の暴力でウチをいじめて来るんすけど? 大人として助けやがっれって話なんすわ」


「ロリリン!! 元気出して!!」

「エリリカはよくグレてねーっすね。もうこの親父と2人暮らしとかそれだけでエリリカとは仲良くできるんすよ。ソンケーするっす」


 エリリカは動画の確認作業をザッコルと行っており、編集と切り抜きをして先ほどのお披露目配信をアーカイブ化するために知恵を絞っている。

 彼女は村娘だったが配信は昔から嗜んでおり、調子の良い日は8時間ほど視聴する事もあったガチ勢。


 どこを切り抜いたら視聴数がさらにおかわしてくれるかは心得ている。

 今はセフィリアの胸にフォーカスしたシーンをザッコルに任せて、エリリカはマロリのきゅるるんっを編集中。


 彼女はリーダーなので、許可は事後承諾で済ませる方針。


「ちょうどいいので、マスラオ様! 鑑定させて頂いてもよろしいですか!」

「セフィリアは疑問を呈してる風に聞こえるんすけど、一切聞いてねーんすよ。いいですかって言うのは、これからやりますって意味じゃねーっすから」


「マロリさん! ついにわたくしの名前を呼んでくれましたね!!」

「は? う、うっせーんすけど! この乳リア!!」


 マロリは割とツンデレだった。優しい寄りの口が悪いタイプ。

 ニポーンでは魔法少女にツンデレは相性が良いとされており、これは今後の活躍が約束されたようなものである。


「私? 私、牛飼いだよ? またの名を乳搾ラーだよ? それ以下でもないし、それ以上にもなれないよ?」

「牛飼いの人には失礼っすけど、なんすか乳搾ラーって。そりゃ、それ以下はねーっすよ」


 セフィリアが杖を構えた。

 地面にドンッと突き立てると、杖が折れた。


「あ! またやってしまいました! マロリさん、これはあげます!」

「杖必要ねーんすか。鑑定魔法に。じゃあなんで持ってるんすか」


「雰囲気作りです!! あと、その宝石は売るとそれなりの値が付くと思いますよ!!」

「はー! 嫌だ、嫌だ! 嫌っすねー!! そうやって金を貧しい者に恵んでやる姿勢? もー! マジで嫌っす、感じ悪いっすねー!! あざっす!! セフィリアとも長く付き合っていきたいっす!! 今度、家に遊び行ってもいいっすか!?」


 マロリがまた現金化できるアイテムをゲットした。

 これで彼女はちょっと口の悪いツッコミ兼合いの手要員になる。


「いと逞しきこの英雄の真名を今こそここに示せ!!」

「普通に詠唱できるんじゃねーっすか」


 セフィリアの胸が光った。

 杖がないと魔力の根源が輝くらしく、セフィリアは胸だったらしい。


「マスラオ様! 貴方は益荒男ますらおです!!」

「うん。そうだね。私はマスラオだよ?」


 マスラオは益荒男だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 益荒男とは原初の教えに存在する100年か200年か300年くらいに一度現れるとされる伝説の職業。

 ひとたび拳を振るえばその屈強な肉体が呻りをあげ、ひとたび牛の乳を搾れば雌牛の乳房が悦びに打ち震えて搾乳量が一般の牛飼いの2.6倍になるという。


 その隠し切れない男らしさは道行く乙女を虜にするとされ、生まれながらにして『魅了チャーム』の力を無自覚に保持しているとか。


 乙女を守る際には特にその潜在能力が覚醒するらしく、先の魔王ザッコルとの戦いで発揮した乳搾ラーの極み・手首のスナップもどうやら益荒男に起因する力の可能性が高かった。


「そうだったのか。私はマスラオで益荒男だったのか。知らなかった。それで、私は何か変わったのかな?」

「マスラオ様はチョロス家の鑑定によると、プロヴィラルの歴史を変えてしまわれる男とされています。どうぞ! 変えてください!! わたくしはお供します!!」


「いやいやいや。割と普通に機能してるじやねーっすか。プロヴィラル。おっさんがおっさん色に染め上げるとか、それウチらのプラスになるんすか?」

「何を言うんですか、マロリさん! マスラオ様ですよ? チョロス家の鑑定でハッキリと出たんですよ? だったらもうマスラオ様が何かしてくださるのを見届けるのがチョロス家の使命です!!」


 顎に手を当てて少し悩んだマスラオがぼそりと呟いた。



「エリリカちゃんによる魔国の統治って可能かな?」

「今んとこ、あんたは世界滅ぼす側なんすよ。大魔王の統治とエリリカとおっさんの統治ってぜってぇ大差ないっしょ。むしろ治世経験ねーんだから。悪化するんすよ」


 マスラオは国家転覆の雄であるとマロリが断定した。



 続けて魔法少女は慧眼をこれでもかと光らせる。

 面倒事に巻き込まれるのはごめんなのだ。


「セフィリアの鑑定って……それ、合ってんすか?」

「なんてことを言うんですか! マロリさんの胸はAです!!」


「……なんなんすかぁ。……そこじゃないんすよぉ。おっさんが益荒男だとして!」


「私はマスラオだよ!!」


「うっせーんすよ! 喋ってる!! 途中! ウチが!! ……こほん。このおっさん、道行く乙女が虜になってる形跡ねーじゃんって話なんすよ。おっさん、これまでに交際した人数は?」

「えー。ロリリン、お年頃なのは分かるけどさ。そういうの聞いちゃうの良くないよ?」


「あんたに興味ある訳じゃねっすからね。益荒男に興味があるんすよ」

「私はマスラオだよ!!」


「頭ん中に詰まってんのはカニミソっすか?」

「交際経験って言うのは、妻も含めて良いのかな?」


「そりゃそうでしょ」

「じゃあ0人だね!!」



「セフィリアの鑑定がクソだって事が証明されたっすね。このおっさん、一応エリリカ作ってんすけど!!」

「待ってください! それはちょっとわたくしも遺憾の意ですよ!! マスラオ様は交際経験ありませんから!!」


 マスラオの口から卵が出てきてエリリカが誕生した可能性が浮上してしまった。



 そこにタイミング悪くやって来る娘。


「なになにー? みんなで何のお話してるのー? あたしもいーれて!!」

「マスラオ様が未婚で交際した事もないという証明を行うところです! エリリカさんもぜひ立ち会ってください!!」


「お父さんさ。娘の友達とナニしようとしてるの? なんでそんな嘘つくの? やだ。ちょっと……普通にキモい……」


 マスラオが地面に崩れ落ち、静かに息を引き取った。

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