第25話 村娘 エリリカ・バロスはぼったくられ終わっていた。 ~お金に厳しい魔法少女と真実を見通せる鑑定士は捜索中~

 マロリは身長も低い。

 失礼。身長が低い。


 チャー・ハァァンは朝も昼も夜も何かしらの店舗が営業しており常時混雑している性質上、低身長女子は人探しに向かない。

 ならば魔法使いらしく空を飛べばいいのだが、彼女は魔法少女なので空を飛ぶためには変身する必要がある。


 変身するためには1秒ほど全裸になる必要も生まれ、最終的には羞恥心が生まれる。


 レーゲラ城の闘技場やスライムの沼地とは話が違う。

 公衆の面前で変身キメる魔法少女など、それこそ配信者の獲物である。


 エリリカを探す前にマロリが探される事になるので、それはできない。

 本人が絶対にやりたがらない。


「ちょい! セフィリア!! あんたは普段から求めてねぇのに、出ました!! とかクソ乳張って色々出してるじゃないっすか! エリリカの居場所も出しやがれって話なんすよ!!」

「……わたくし、スライムの一件で色々と自身を振り返る事になりました。今後は体も鑑定魔法も安売りしないでこうと思います!! 恥ずかしかったです!!」


 脳筋乙女に羞恥心が加わると、ただのパワフルな美人になる。

 それは配信の時に取っておいて、今は鑑定魔法を使うべきではないのか。


「鑑定魔法って恥ずかしいもんじゃねぇでしょうが!! ウチの魔法少女と比べてぇ!! 贅沢なんすよ、セフィリア!! 乳も尻も身長も家柄も!! あと鑑定士ってなんか響きからして良いっすもん!! あ゛ー! 腹立ってきたっす!!」

「魔法少女も良いですよ!!」



「じゃあ交換するっすよ! あんたが今後はフリルだらけの存在意義すら不明なミニスカ腰に巻いて!! スパッツ丸出しできゅるるんっ! って言うんすからね!!」

「あ。ごめんなさい!!」


 マロリのモチベーションが著しく低下した。



「仕方がないのでやりましょう! いと哀しき村娘の残酷な運命の行方を今、示せ!!」

「……あんたが定期的に詠唱するのはどんな縛りがあるんすか? 気まぐれとか言ったらその乳しばいて、尻を蹴飛ばすっすよ」


「では言いません!!」

「言ってるんすよ!! でぇ!? エリリカは!?」


「ぼったくりに遭っています!! わたくしたちがマスラオ様から半日前に頂いた全財産を今まさに!! なんだかよく分からない古い布切れ2セットと交換する寸前ですね!!」


 マロリがものすごい速さで雑踏をかき分け路地裏に駆け込むと、見慣れた青い光が放たれた。

 周囲の人たちが急に光るものだからと振り返った時にはもう、魔法少女が立っている。


「おらぁ!! ウチの200000エェェン!! ぜってぇ死守するっす! セフィリア! 手ぇ伸ばすんすよ!!」

「お願いします! 先に言っておきますが、わたくしスタイル抜群の割に体重は軽いというファンタジー的な身体なので! 怒って落とさないでくださいね!!」


 「この世はクソっすねぇ!!」と叫んで、魔法少女マロリがセフィリアの腋に手を突っ込んで固定。そのまま飛び去った。

 本当に想定の半分程度の重さしか感じなかったらしく、生まれて初めて地面に唾を吐きそうになったが魔法少女のマナーと心根の優しさでどうにか我慢して、目標を発見すると急降下するのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「んー! 分かった! お嬢ちゃんはお友達と3人組で来たんだな! なら特大サービスだ!! このスカート! 3着で200000エェェンでいいよ!!」

「えー!? そんなそんな!! 2着で良いですよ! 2着で200000エェェンでお願いします!! セフィリアさんは多分このスカート穿けないので! お尻のサイズ違いますから!」


 もうぼったくられ終わっていたエリリカ。

 今はぼったくり店に対して遠慮をし始めていた。


 この慎ましさには育ての親のお父さんもにっこり。


「笑えねぇんすよぉぉぉぉ!!」


 急降下からの着陸をキメた魔法少女。

 フィジカル自慢の鑑定士もきっちりと完璧な着地で続く。


「わー! マロリちゃん! セフィリアさんも! どこ行ってたんですかぁ!!」

「くっ! 迷子のテンプレセリフ吐きやがるじゃねぇっすか……!! あんたの村はどんな構造なんすか!! 地図くらい読めるでしょうよ!!」


「地図は一昨日初めて読んだよ!!」

「思ってたより気の毒な村じゃないっすか!! うかつに貶せない感じだったっすよ!!」


「出ました!!」

「よっしゃ! 出たっすね!!」



「ホゲーおじ様に書いて頂いた地図ですよね!!」

「あ、はい! そうなんです!! お父さんには内緒だったので!!」

「そっち出しちゃってんすか!? ぼったくりの証拠出せっすよ!! 今こそ鑑定士の出番なんすよ!!」


 ホゲーおじさんは剣を貸してくれるし、お風呂も貸してくれるし、地図も書いてくれるし、エリリカが「勇者になります」と言えば「頑張ってね」と言ってくれる。



 ぼったくり店主の顔色が変わった。

 ゴミに法外な値段を付けて田舎者に売りつけるのが彼の生業であり、もうこの道で20年ほど稼いでいる。


 「鑑定士だけには気を付けろ」と遺言を残して散って行った同業者を山ほど見て来た。


「……じゃ! お嬢ちゃん! お友達と観光楽しんでね!! あっちの角のお店にあるンビューの丸焼き、美味しいよ!!」

「ご親切にありがとうございました!! ンビューってなんですか?」


「それはですね! 亀のモンスターの甲羅を叩き割って中身だけ焼き尽くした郷土料理ですね! 見た目が気持ち悪いと評判です!」

「鑑定しねぇで出ちゃってるじゃねぇっすか。さては食い飽きてるっすね。そうじゃなくて!! エリリカ! 撮影準備!!」


「ンビュー?」

「あー! もー!! それは後で買って良いっすから! ぼったくりと対決するんすよ!! 言っとくけど、ウチは『〇〇の不正暴いてみた』系動画、大好物っすからねぇー。おっさん、逃げられると思っちゃいないっすよねぇ? ウチ、本気出したらあんたをあそこに見える城までぶっ飛ばせるっすよ?」


 魔法少女がぼったくり店主の周囲を1人でゾーンディフェンス。

 エリリカは言われた通りに端末を構える。


「マロリちゃん……! 実はあたしたちのチームの事を真剣に考えててくれたんだぁ!!」

「はぁぁ!? なんすけど!! 勘違いすんなしっすわ!! 金になるから協力するんすよ!!」


 ピュアとツンデレがじゃれている一方で、セフィリアが小刻みに震えていた。


「あ、ああああ、あののののの……。わたくし、商品の鑑定だけはちょっと……!! 何を鑑定してもだいたい100エェェンって出ちゃうんですけど……!!」


 これまであんなに出して来たセフィリアが、出すのを躊躇する。

 お金持ちには庶民感覚が足りない。


 今もレーゲラ・ハァァンでは1番の大きな屋敷が目印のチョロス家。

 物品の鑑定については能力のあるなし以前に、興味がないので代々取り組んでこなかったのである。

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