第26話 『ぼったくりと戦ってみた!』 ~お嬢様は市井の商品の鑑定ができない~

 狼狽える鑑定士のお姉ちゃん。

 それを見て息を吹き返すのがぼったくり店主。


 ぼったくる相手を見定められなければこの生業は成り立たず、ぼったくれなさそうな手合いが急にぼったくれる感じに変化する事もままあるのがこの仕事。

 店主の社会不適合な鑑定の方がセフィリアよりも先に出た。


「おやぁ? お嬢さん? さては鑑定士って言うのは嘘かな? 良くないなー。そうやっておじさんの仕事の邪魔して? これは明らかな営業妨害だよねぇ? どうする? 城の役人呼んでくるかい? おじさん怒ってるよ?」

「ざーけ。なーに勢いづいてんすか。このハゲ! 今からセフィリアが特大のヤツ出すんで!! 覚悟するんすね!! この女の出すヤツはマジっすから!! ほれほれ! セフィリア! いつもの詠唱キメたれっすよ!!」


「え゛。あ゛。はい。……いと慈悲深き神々の御心よ。この哀れなわたくしに行くべき道を指示して頂けないでしょうか。無理なら大丈夫です。ていっ」

「ええ……。それは詠唱なんすか? 神頼みしただけでは? なんであんたは肝心な時にダメになるんすか? シカさんの頭を杖ですっ飛ばした映像見たっすよ? なんかローアングルだったっすけど。この顔はダメなヤツっすね」


 一応、新しく実家から届いた新品の杖がぽやっと光った。

 普段は杖なしでも出す時は胸が盛大に輝くのに、こんなに慎みのある光り方は初めてであり、マロリがまず諦めた。



「100エェェンですね。そのスカート。多分」

「…………なんだと!?」


 「あってんすか」とギリギリ口には出さず、マロリが諦めた心を立て直す。



 ぼったくり店主の仕事はまず、各ハァァンの廃品回収の日を狙って旅をする。

 プロヴィラルでは原初の教えに従いリサイクル活動に力を入れており、現在の魔国議会で権力を集約させている淫乱宰相タオヤメ・バロスもリサイクル推進派。


 無料で家から出た廃物は引き取られ、再利用可能なものとどうにもならないゴミに分別される。

 魔国環境センターにてゴミは炎熱魔法で焼却処分されるのだが、その際に「これから責任者がよそ見します」という時間が2時間ほど設けられるのがどのハァァンでも慣例となっており、これは家を持たぬ者やその日の寒さすらしのげない者、その他行政の支援を受けていない者などに「本当はダメだけど、よそ見している間に持って行ってね」と与えられる暗黙の了解。


 そこにぼったくり店主も参加して、貯金もあるしその日の宿泊先と夕食と地酒の手配も済んでいるにも関わらず「へへっ。さーせん」とゴミを拾って来る。

 仕入れ値は0円。


 そこに交通費などを加味したところ、ぼったくっている商品の平均値は原価が100エェェンとなる。



 それをだいたい100000エェェンくらいで田舎者に売りさばいている。



「あのあの! おじさん!」

「なんだい? お嬢ちゃん。おじさん撮って良いって言ってないんだけどねぇ?」


「それって絶対に破けないんですよね!」

「もちろんさ! 怪鳥が両サイドから引っ張りあっても無傷だよ!」


「そんなにボロボロなのにですか?」

「それが売りだからね! ダメージ受けているのに丈夫! これが流行の最先端!!」


 エリリカが珍しく頭脳プレーを発揮している雰囲気はすぐに魔法少女が察知。

 魔法少女には周囲がちょっとでも変な空気になればすぐに家に帰る事のできる思い切りの良さが必須とされる。


 悪い顔したマロリがエリリカとアイコンタクトをしたのち、静かに頷いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 作戦は実にシンプル。


「ははーん? 悪い事考えたっすねー。エリリカ!」

「むふふー!」


 ぼったくり店主だって伊達にぼったくってはいない。

 彼は魔法の心得がある。


 ぼろ布でできたスカートを思い切り引っ張って見せる実演販売も必殺技の1つで、引っ張るタイミングで強化魔法を発動させると、ちゃんと怪鳥が咥えて荒ぶってもどうにか耐えうるレベルの硬化が望める。


 だったら魔法使いをやれば良いのに。


「んじゃ、たかが小娘たちに引っ張られても裂けたりしねぇんすよね? 裂けたら……。あんた、嘘つきってことになるっすけどぉ?」

「はっはっは!! もちろん、もちろん!! ただねぇ。おじさんも商売だからね? そこまでやらされたらタダでは引き下がれないよ?」


「いいっすよ! じゃ、本物の丈夫なスカートだったら言い値で買うっす!」

「……バカがぁぁぁ!! ……こほん。そうかい!? じゃあ、おじさんは万が一不良品だった場合、お店の商品全部あげるよ!!」


 話がまとまった。

 エリリカが端末を構えて立派な胸囲に寄っていく。


「セフィリアさん!!」

「え……? あ。なんですか? 帰って良いんですか?」


「ちょっぴりスカートを両手で引っ張ってみてください!! 全力で!!」

「いいんですか? 知りませんよ? 今、わたくし結構イライラしてますから。商品鑑定だけはしないって言ったのに!!」


「聞いてねぇんすけど。まあまあ、あんたの出番っすよ」


 セフィリアがダメージデニムスカートを手に取った。


「ふっ。バカが!! 『マッスル・ドーピング』!!」


 ぼったくり店主の指先が光ったが、一体何をしたのか。

 その件は必要ないかと思われた。


「てぇい!!」


 バリバリバリとマジックテープの財布を思い切り開いたような音がして、ダメージデニムスカートが本物のダメージを負う。

 深刻なヤツなので、もうスカートではなくなった。


 デニムの切れ端である。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「これでいいんですか?」


「良くねぇよ!! この女ぁ!! 何しやがった!!」

「引っ張りました!!」


「胸張りやがって! ボインだな!! さてはお前も魔法使いか!! お清楚な姿して凶悪な魔法を!! 今のはダメだ!! 反則だ!!」


 マロリが指先に魔力を込める


「おっさん。3秒だけ待ってやるっすよ」

「このガキ!! さっきから態度がデカいんだよ! 何歳だ!? 親の顔が見てみたい!! 9歳くらいか!?」


 3秒で死期を加速させてしまった店主。

 マロリの指が頭皮に食い込む。


「……ウチは17ぁ!! 『ピュアリン・ヘルズクロー・キュンキュンバースト』!!」

「ぎゃあぁあああああ!! ちょ、ああああ!! えええ!? あああああああああ!!」


 キュンキュンした魔法少女の可愛い魔法で悪徳ぼったくり店主が成敗された。


 バロス・チョロス・ロリは良い感じの動画と店の商品とおっさんの身柄をゲットしたのであった。

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