第36話 確かに魔国を変える男だったマスラオ・バロス ~プロヴィラルを揺るがす戦い配信中~

「タオヤメ!! 君には私なんかよりもっと相応しい男がいるよ!!」

「そんな事はありません!! 私にはマスラオ様以外の男なんて全て粘土細工にしか見えません!!」


「粘土でもモノによっては私より硬い!!」

「私はマスラオ様のふにゃふにゃマスラオ様もお慕いしております!!」


「私! 牛の乳しか搾れないから!!」

「ご存じでしたか!? 私の乳も個体によっては牛サイズです! まずは搾ってからコメントをお願いします!!」



 高度で激しく火花散る舌戦が繰り広げられていた。



 マスラオ・バロスは意味もなく女性を傷つけない。

 ゴリラをボコボコにしたじゃないかという指摘は貴重なご意見として持ち帰ることとする。

 今は言葉で拒絶という名のインファイト中。


 対して、タオヤメはマスラオの言葉が全てご褒美。

 サキュバスは男に対して肉体的にマウントポジションを取って搾取し、精神的にもマウントを取り「ほぉら。どうしたのぉ。それで終わりぃ?」と攻め立てるイメージが先行しているが、そんなものは幻想。


 人間だって背が高い者を高身長と判断するためには背の低い比較対象が必要になるし、魔族だって残虐性を特徴として示すならば、他の魔族よりもいかな方法でその酷いやりようを示すかが肝要。

 つまり、多数派は存在しても画一的に種族をカテゴリーで語ることはナンセンス。


 タオヤメはドМであった。


 精力の弱き者に「うわ。なによこれ」と唾棄するのではなく、精力の脆弱なマスラオに「頑張って! 頑張って!! あー! そんなところもステキ!!」と全肯定してエールを送る。

 やっている事は原初の教えに記されているニポーンの大和撫子。

 ただし恰好は裸の方がエロスティックなのではないかと錯覚するほど淫乱を極めているため、なんだかもう筆舌に尽くし難いアレを男に喰らわせる。


 マスラオはそれを喰らって、戦う前に全てが終わる。



「君は魅力的過ぎるんだ!! 私、もう少しブスが良い!! 牛の乳搾るしか能のない男が君の乳を搾れるものか!!」

「そんな謙虚な御心と逞しい御体のギャップにタオヤメは酔いしれるのです!!」


 相性はバツグンなのに相容れぬ男と女がここにいた。



 戦いは苛烈を極めていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カメラを向けているマロリと戦局を見守るセフィリアは言葉を失くし、豪魔とその名を轟かせるザッコルは骨をカタカタと鳴らして震えている。


「やべぇっすね。なんであの人たち、しょうもねぇ事叫んでるだけで衝撃波が出てんすか? 意味分かんねぇんすけど。すっげぇ配信盛り上がってるっすよ」

「あれは『愛の言霊サザーン』と呼ばれる古来の魔法!! 強すぎる愛の言葉は時としてどんな刃よりも鋭利になるのです!!」


「それはマジのヤツっすか? セフィリア、今、出ましたって言ってないっすけど?」

「だって知りませんから!! けど、チョロス家の文献には書いてあったので! 実質出てます!!」


「出てる判定もクソになって来たっすね。ウサきちさん。うちの魔王様の耳は塞げてるっすか?」


 マロリが「これでぜってぇ仕事辞められるんすよ」と商機を見極めたため、エリリカへの良くない大人ワード阻止はウサペロスが代行。

 彼はチャー・ハァァンの魔王次席なので、適材適所である。


「ペロペロ。僕はもうダメみたいです」


 ウサペロスの全身から血が噴き出していた。


「え゛。何してんすか?」

「なぜかエリリカ様にあの方たちの口撃が向かって来るんですよ。僕が盾になってましたけど、そろそろ1度死にます。すみません。生き返ったら戻りますので」


 ウサペロスが絶命した。


「あれ!? 聞こえる!! なんでウサギさんがボロボロに!?」

「エリリカ様ぁ! 危ない!!」


 今度はザッコルが身を挺してエリリカの前に立ちはだかった。

 ちょうどマスラオが「君の恰好どうにかならないの!? ちょっと動くだけで色々とこぼれそうで見てらんないんだよ!!」と叫んだタイミングだった。


 ザッコルの伸ばした爪が9本全て吹き飛んでいく。


「ええ……。もしかしてっすけど」

「さすがですな。魔法少女様。マスラオ様のアレな言葉は娘様であるエリリカ様にとって、毒!! これまで過保護にお育てになった結果! エリリカ様が少しでもセンシティブを感じられた瞬間に鋭い刃となって顕現!! 周囲はもちろん、エリリカ様自身も切り裂きます!!」



「や。ちょっと意味分かんねぇっす」

「待ってください! つまりエリリカさん……。あなた、マスラオ様の言葉の意味が理解できていますね!? 大人になろうとしているんですね!」



 エリリカが真っ赤になって俯いた。

 続けて叫ぶように言う。


「だってぇ! なんか、エッチな言葉だなっていうのは分かるんだもん!! それをお父さんとお母さんが言ってると思うと……!! すっごくやだ!!」

「ぐぇあぁぁぁぁぁっ」


 ザッコルの左半身がバラバラになった。


 マスラオとタオヤメの舌戦は続く。


「私の乳を搾れば良いじゃありませんか!! ナニか出ますよ!! 恐らく!!」

「無理だ!! 私、牛の乳ですら最初の2年は興奮してたんだから!! 君の乳なんか搾れるか!!」


 無数の刃となってチャー城に降り注ぐ卑猥な言葉たち。


「ひぃぃぃ!! もぉ、やだ!! なんであたし! お父さんとお母さんのこんな話を聞かされなくちゃいけないの!?」


 涙を流すエリリカ。

 こんなしょうもない事をと思われることなかれ。

 諸君。想像してみて欲しい。


 15歳の時分、両親が全国土に配信されている状況でなんか卑猥な事を叫びあっている場面に立ち会ったらば、人はどうするだろうか。



 ひとしきり泣いた後に人間不信になって熱出して寝込むくらいはあり得る。



「ひゃああ!!」


 タオヤメの放った「実は私! この服、下着と一体型なので捲ったら裸です!!」という魔言がエリリカに迫る。


「あーあー。もー。マジで配信者ってクソっすわ。これ、あとで給料もらうっすからね。おらぁ! 変身!! 『ピュアリン・キュアキュアキック』!!」


 卑猥な刃を蹴り飛ばしたのは、魔法少女マロリ。

 ピュアの体現者とも呼べる職業の魔法少女は猥談に強い。


「マロリちゃぁぁん!!」

「だぁぁ! すがりつくんじゃねぇっすよ!! あ! こら! スカート取れる!! それマジで腰に巻いてるだけなんすから!!」


 沈黙していたコメント欄が「ロリリン来たぁ!!」「課金し続けたかいがありました」「ワイは満たされている」「何もない胸からしか得られない力があるんや」と一斉に活気を取り戻す。

 勇者配信チームバロス・チョロス・ロリ。


 最後の敵は淫乱宰相と。


 お父さんである。

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