最終話 勇者の父です!! 娘が忘れ物を? 成長したと思ってもまだまだ子供なんだから!! ~変わった人たちと変わっていない人たちと、これからも続くであろうお父さんの物語~

 ここはレーゲラ・ハァァンにある名前もなかった小さな村。

 今はバロス村と呼ばれている。


 2年の間にバロス村はプロヴィラルの第二首都として姿は変わっていないのに名称と役割だけ様変わりしていた。

 主産業は乳搾り。


「タオヤメさんやー。なんか家で端末が鳴ってたぞー」

「あら! ホゲーさん! ありがとうございます!!」


「なんのなんの。今日もどエロイ恰好してるなぁ。すごいね、その服。どうなってるんだい?」

「これですか? 母乳をすぐに出せるようにですね! この、胸の部分が! ワンタッチでバカっと開くんです! マスラオ様! 私は家に帰りますね!!」


 牛の乳搾りに精を出すマスラオに一声かけるタオヤメ。


「はーい。あれ? もしかして! エリリカちゃんの配信の時間じゃないの!? じゃあ私も帰るよ!! ホゲーさん! ちょっと乳搾っといてくれる? 後で好きなだけ乳持って帰って良いから! 私、ココリカのためにタオヤメの乳も搾ってあげないと! タオヤメの乳をね!!」


 ココリカ・バロス。

 3ヵ月前に生まれた、お父さんとお母さんの第一子。

 エリリカの妹である。


 今はマスラオがタオヤメの乳も搾って、授乳を共同作業している。

 そうした方が乳の出が3.2倍になるらしい。


「ほいほい。いいねぇ。夫婦仲が良くて。ああ。もう行っちゃったか。乳搾りする前に、私もひと仕事しておくかね。……エリリカちゃん、インナー脱いで! と」


 ホゲーおじさんの端末にはクソブタとアカウント名が表示されていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 エリリカ・バロス。17歳。

 今年成人したのを機に、魔国議会へと参政。

 すぐに配信担当大臣に拝命された。


 淫乱宰相は産休中だがリモートで仕事をしているため、お母さんに拝命された娘。

 民主主義が聞いてあきれるかもしれないが、淫乱宰相の独裁政治が母娘独裁政治に変わっただけなので今まで通りである。


「はい! やるよ! マロリちゃん! セフィリアさん!!」

「ざーけ。なんでウチは呼ばれたんすか?」

「出ました! 100万エェェンに釣られたからですね!!」


 マロリ・マロリン。19歳。

 魔法少女は廃業した。と言って欲しかったと唇を噛みしめる。


 タオヤメによって「あなたは娘の親友! そして私とマスラオ様のキューピット!! 魔法少女保護法を制定しました!! 一生魔法少女の地位を保証します! 80になっても魔法少女ですよ!!」と新法が施行されたので、魔法少女に定年制がなくなった。

 むしろ、新法を施行された直後にタオヤメがバロス村で子作りに励み始めたので、魔法少女の辞め方が分からないままなのである。


 マロリは責任感の強い社会人女児。


「ざーけ。誰が女児っすか」


 勝手に仕事を辞めるような子ではない。


「出ました! プロヴィラルの平均的な児童の体のサイズに当てはめると!」

「出さねぇでいいんすよ! 黙れ! 乳リア!!」



「マロリさんは12歳女児と同じですね!! みなさん! ごきげんよう! チョロス性大臣です!! 童貞の皆さん、朝ですよ!! 今日も元気に搾ってください!!」

「あ゛!? 配信始まってんすか!? この駄乳! なにウチの個人情報を挨拶にしてんすか! あ゛あ゛! 野郎ども、盛り上がんなっす!! 19歳っすよ、ウチは!!」


 セフィリアも大臣として魔国議会に参戦。

 詳細な説明は省いても問題ないかと思われた。


 プロヴィラルの出生率がこの1年で結構低下したとだけ付言しておく。



 勇者兼任配信担当大臣エリリカ。

 性大臣セフィリア。

 ロリリン。


「ざーけ」


 彼女たちは職業が変わったものの、紡いだ絆は不変。

 今もしっかりバロス・チョロス・ロリとして配信をしていた。


「えっりりーん!! 今日はですね! マロリちゃんにキックを習ってみた! これをお送りしていきます!!」

「マジでざーけ。ウチ何も聞いてねぇんすけど。……あんた、ミニスカにインナータイツ穿いてんのはそれでっすか」


「だって! ちゃんとしとかないとお父さんが忘れ物届けに来るんだもん!!」

「わたくしは大歓迎ですが!! 成人チャンネルでマスラオ様との濃厚なヤツをお届けします!!」


 「お義父さんまだー!!」と力強い一体感がコメント欄に走る。

 「ロリリン」「ロリリン」「ロリリン。スパッツいつ忘れるの?」と古参ファンも健在。


 配信を始めたバロス・チョロス・ロリを確認してから、威圧感を垂れ流す低い声が議会に轟いた。


「ふっはっは。貴様ら。我はタオヤメ様より委任された代理議長。ザッコルである。知っているという顔だな。当然だ。もう就任して1年と7カ月。しかし、身分を名乗るのは義務と我が命じた。ふっはっは。貴様らはどこに行ってもまず身分を証明し、そして口を開くのだ。議員としての責任を持て。そして責任感に耐えられぬ者は死ね。我が生き返らせたのちに、故郷へ送り返してやろう。そこで精々余生を楽しむが良い。議員年金は廃止した。ふっはっは。がっかりしたか。我がポケットマネーで小遣いをくれてやろう。過ぎた年金は身と魂を亡ぼす。貴様らは永遠にこのザッコルの圧政に苦しむのだ。ふっはっは。今月のマスラオ様賞はゾウの魔族。貴様だ。ンビューの養殖産業の活性化。見事。報奨金と副賞にマスラオミルクをくれてやる。他の者も励むが良い」



 ガイコツがプロヴィラルの指導者みたいになっていた。



「ザッコル様。イッヒィィン・ハァァンで暴動が起きてますけど」

「ふっはっは。ヤッコルか。……そんなハァァンあった?」


「マスラオ様の遺伝子を受け取るためにサキュバス特区ができたので。そこですね。遺伝子の取り合いで暴動発生です」

「ふっはっは。最悪過ぎる。モッコル。行って来い」


「モッコル! 行って来ます!!」

「……また死ぬな。あいつ。復活させる用意をしておくとしよう」


 ヤッコルが副議長。

 モッコルはモッコルとして議会で働いている。


「ペロペロ。ザッコル様。先週の報告です。マスラオ様のマスラオの持続時間が5分まで伸びました。ペロペロ」

「ふっはっは。そうか。ご苦労。ウサペロス。……お父様の担当大臣とかやらせて、本当にすまぬ」


「あ。いえいえ。僕の個人的な希望でメスゴリラーン様の復活を停止してもらってますから。このくらいやりますよ。」


 ウサペロスが益荒男担当大臣に就任。

 誰もやりたがらない仕事を率先してこなすこのウサギにはエリリカ勲章が既に3度授与されている。


 多分、来月にはまた授与される。

 「ごめんなさい! ウサペロスさん! お父さんが迷惑ばっかりかけて!!」とお言葉も賜るだろう。


 ウサギは言う。

 「ハラスメントのない職場とか最高ですよ。ペロペロ」と。


 ガイコツによる圧政とバロス・チョロス・ロリによる娯楽の提供。

 そして淫乱宰相の不在と益荒男の存在。


 プロヴィラルの夜明けはとっくに済んでいるのかもしれない。

 日が昇ったのならば、明るい時間はまだまだこれから。


「はーい! マロリちゃんのキックでした!! 小さいのに偉いでしょ!!」

「……あんたは2年でマジの淫乱ボディになったっすね。実は母ちゃんと血、繋がってんじゃないっすか?」


「出ました!」

「おっ! この流れはエリリカに出たっすね!!」


「エリリカさん! インナーが裂けています!! 結構派手に!! 調子に乗ってエリリカジャンプキックをして着地失敗からのお尻をぶつけた時ですね!! そこの床、ささくれてますから!!」

「ぴぇ!? マロリちゃん! 1回カメラ止めて!! ……ねっ!? なんで止めてくれないの!? マロリちゃん!! ダメだってば!! ごめんね! なんで怒ってるのか分かんないけど!! 謝るから!!」


 コメント欄が一致団結。

 「来たか……!」とだけ、大量のコメントが流れていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バロス村の民家では。

 とある男が立ち上がっていた。


「タオヤメ。ココリカの面倒を頼むよ」

「あら! マスラオ様! またエリリカさんの引き出しを勝手に開けて! 怒られますよ!」


「怒られるからなんだって言うんだい!! エリリカちゃんのセクシーな太ももがプロヴィラルの野郎どもに注目されてる!! 替えのインナーを忘れて行ったみたいなんだよ!! じゃあ、お父さんが届けなくちゃ!!」

「ウフンア・ハァァンまで竜車で2時間かかりますよ?」


「大丈夫! 最近ね、なんだか調子が良いんだ! 全力疾走したら15分で行ける!! 足首のスナップも強くなったみたい!!」

「それはいけません!! 手首のスナップも疎かにしないでください!! 帰ったらしっかり搾ってもらいますからね!!」


「私も搾られるよ! はっはっは!!」

「…………………」


 まだ乳飲み子のココリカが蔑んだような視線をお父さんに向けたのは気のせいか。

 この後、バロス・チョロス・ロリの配信で視聴者が期待している展開が起きる。


 「すみません! 勇者の父です!! 娘の忘れ物を持って来ました!!」という声と共に、乱入して来るお父さん。

 迷惑そうにしながらもどこか嬉しそうな娘のひきつった笑顔。


 プロヴィラルは今日も平和であった。

 明日も来週も来月も来年も、きっとずっと平和である。




 ————完。

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