第34話 宰相 タオヤメ・バロス
魔国プロヴィラルの首都。
ウフンア・ハァァンの宰相官邸では、1人の女性が肩を震わせていた。
彼女の名前はタオヤメ・バロス。
プロヴィラルの魔族の中でも数が年々減り続けているサキュバス。
淫乱の証。ピンク色の髪と黒い羽がチャームポイント。
普段はロングコートを着て政界の先頭に立っている。
サキュバスの『
ニポーンからやって来た英雄がプロヴィラルを統治するまで、サキュバスはその辺にいた。
その辺で奔放な性を振りまき、種族を拡大させていた。
が、原初の教えによってそれは一変する。
「あんまり外でそういう事はするべからず。だって教育に良くないから」と遺した英雄の倫理観。
それをサキュバスたちはしっかりと守った。
繰り返すが、プロヴィラルでは魔族の方が清廉潔白で禁欲的な思想を持っている。
順守し過ぎた結果、サキュバスの数が激減した。
サキュバスは女性しか生まれないため、種の繁栄のためには他種族の♂と子を成す必要に迫られる。
しかし、「良くないよね。誰彼構わずそういう事するの」という風紀を律儀に厳しく守ってきた結果、出産適齢期を超えてなお純潔を守ったままのサキュバスが続出。
そのまま生涯を終えると、当然その一族は絶える。
禁欲的な思想が伝統になった頃。
サキュバスは両手の指で数えられるほどまで減っていた。
そこで立ち上がったがタオヤメ。
「この世界で最も濃い遺伝子を持つ者と子作りします!!」と祖母と母に宣言して20歳で家を出た。
各ハァァンを漫遊していたところ、やたらといい匂いのする男と巡り合う。
益荒男の特性『
半ば押しかけ女房の形でマスラオの村に住みつき、共に生活をすること1年。
何度も夜の情事を重ね、タオヤメはマスラオに夢中になっていった。
それなのに、子を授からなかった。
マスラオは淡白だったのである。
夜の情事はだいたい2分、調子がいい時は5分で終わる。
1年ほどの夫婦生活の結果、タオヤメは欲求不満になっていた。
同じ『
マスラオは淡白なくせにギンギンであった。
心は落とされたのに体は全然落としてもらえなかったタオヤメ。
欲求不満のあまり、村の男たちから精力を奪って家出した。
これが14年前のお話。
以降、タオヤメは「何かしてないと淫乱になる!!」と危機感を抱き、ちょうどウフンア・ハァァンで議員選挙が近かったので出馬したところ『
あれよあれよとベテラン議員たちが魅了されていき、気付けば宰相になっていた。
そんなタオヤメが導入した配信だが、当人は忙しくて視聴する暇などなかった。
この度「バロスという名前の魔王が出て来た。人間らしい」という噂を聞きつけ、「こうしちゃおれん!!」と端末で動画を視聴。
「うわぁぁぁぁぁ!! マスラオ様ですわぁぁぁ!! 私の乳より牛の乳にしか興味を示さなかったあの御方が!! 外に出ておられますわぁぁぁ!! ……抱かれに行きましょう!!」
タオヤメは入籍していないのにバロス姓を名乗っていた。
淫乱宰相の名も自らが考え、自らが広めた。
男避けである。
「今! 今、参ります!! あなたのタオヤメが!! マスラオ様ぁ!!」
タオヤメは一途だった。
ただただ性欲が強すぎたせいで、マスラオに避けられる悲運のサキュバス。
タオヤメの相手をしているとエリリカのオムツも換えられないのだから仕方ない。
ところで諸君。
このテンションとノリにお気付きだろうか。
タオヤメの遠い先祖にはエクスタスィー・チョロスと言う名のサキュバスがいる。
エクスタスィーは人間の男と子を成して、そのまま人間の居住区にて生涯を終えた。
以降、サキュバスの血筋は隠して子孫繁栄を目的にその家は邁進し、今もしっかりと現存している。
随分と血が薄くなったので『
どこの誰とは言わないが、今、最も
プロヴィラルは意外と狭かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
エリリカ・バロス体制になってから1ヶ月が過ぎたチャー・ハァァン。
本日はバロス・チョロス・ロリの生配信の日。
「出ました!!」
「早いんすよ。出すのが。まだ挨拶もしてねぇんすけど」
今日も元気に出しているセフィリア。
今日は演者のマロリ。
「えっりりーん!! どうもこんにちは!! エリリカです!! 今日はですね! ンビューの唐揚げをみんなで作ってみた! こちらをお送りしていきます!!」
今日は玉座の前でお料理配信中のエリリカ。
勇者になる事は諦めていないが、魔王は魔王で結構色々と満たされるものがあり、1ヶ月が経った今、彼女は全然勇者配信をしなくなっていた。
「ミニスカートにエプロン!! どうですか!! これは良いものですよね!!」
「わたくしは普段着ですけど!」
「……野郎どもがどんだけコメント欄で騒いでも、ウチは変身しねーっすからね。今日はウチ、食べる係なんすから」
コメント欄は今日も大賑わい。
「魔王様! 白いスカート汚れるから脱ごう!!」「セフィリアさん早く甲羅砕いてー」「ロリリン変身マダー」と視聴者たちも日常的な配信に慣れ始めていた。
「くっ……! くそっ……!! 私は自分を抑えられる気がしないよ……!! 離してくれ! シカくん! ウサギくん!!」
お父さんもいつも通り、目を血走らせながら娘の配信を最前列で見学中。
そんなマスラオの両サイドにはシカとウサギが控えており、定期的に死にながら娘様の邪魔にならないようにお父さんを制している。
「あ。ヤッコルさん。危ないですよ。ペロペロ」
「ご心配なく。痛くない死に方を覚えたので。あ。ちょっと死にます。ぶはっ」
紫色の噴水が動画の端に見切れても「お義父さんいたー!!」と一部の視聴者が反応するだけ。
そんな平和なチャー城に緊張が走った。
「お父様ぁ!!」
「ガイコツくん!! 私、もう我慢できない!! 出て良いかい!?」
「それどころではありま、あ゛。ヤッコル……。我には過ぎた部下よ。今日も死んでおるか。ああ、それよりも!! 宰相閣下がこちらに向かっております!! 到着まであと……! ああああ! もう着いてます!!」
チャー城の壁が吹き飛んだかと思えば、黒い羽が舞い散った。
「来ましたよ!! 私が!!」
「えっ!? 誰!?」
突然のピンク色な乱入者に戸惑うエリリカ。
マスラオが目を逸らしながら言った。
「一応だけど。お母さんだよ……」
「お母さんなの!?」
「お母さんですよ!!」
バロス家が揃った瞬間であった。
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