第28話 メスゴリラーンとウサペロス、迎え討つ

 闘技場の中では、既にゴリラとウサギっぽい何かが待ち構えていた。


「うほほほほほほ! あ、違う。あーっははははははは!! 愚かな人間だよ!! このメスゴリラーン様に勝てると思ってかい!?」

「ラーン様。ご自身でメスゴリラーンと名乗られていますが、バナナ食べられます? ペロペロ」


「仕方ないだろが!! 魔国議会の法律で決まってんだよ! 配信求められたら正式な登録名を名乗らなきゃって! くそ! これ作ったのタオヤメ様だからあんまりデカい声で文句も言えやしない!!」

「言っておられます。ペロペロ」


「まあいいよ! 殺しゃいいんだ、殺しゃあ!! そんならね! 配信なんかこっちでもみ消せるし!!」

「ペロペロ。ラーン様。そっちはメモリア・リガリアの規約に引っ掛かります。配信されたものはアカウント登録者、あるいは魔国配信審議局以外の者が無許可で編集や削除をする事が大罪とされております。ペロペロ」



「くっそ面倒くせぇ!! 誰だい! そんな意外と筋の通った法律整備したの!! あ゛あ゛! 私の組織のトップぅ!! あとウサペロスぅ! ちゃんと語尾キャラ徹底しな!!」

「え゛。あの、これは別に語尾ではなくてですね。僕、舌が長いでしょう? アリクイの遺伝子入ってるので。だから、これ。ペロペロ。ただ舌をペロペロしているだけでして。だけでペロ。的な使い方を求められても。僕、30ですし」


 ウサペロス。

 30歳。メスゴリラーンが27歳なので年上の部下はここにもいた。



 喋っていると扉が押し開けられる。

 なお、チャー城の闘技場は全て押戸である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 今回はバロス・チョロス・ロリとして初めて勇者配信。

 そして勇者はエリリカ・バロス。

 村娘から脱却したい15歳。


 セフィリア・チョロス。18歳。

 鑑定士だがマスラオの遺伝子が欲しいので義妹になるであろうエリリカには甘い。


 マロリ・マロリン。

 魔法少女の17歳。

 説明不要。口だけ悪くて後は全部優しいし面倒見も良い。


 カメラ担当はマロリ。

 わずか2日でヤッコルの指導のもと完璧な端末捌きをマスターしているが「は? これも給料のうちなんで! エリリカは動きが地味だから定点カメラじゃ映えねぇんすよ!」とあくまでも自分のためである旨を慎ましい胸を張って、声も張って、とにかく主張。


 先ほど変身した直後なので通常ロリリン。

 ショートパンツにノースリーブという攻撃を喰らったら軽く死にそうな軽装にも関わらず、躊躇なくカメラの画角調整に専念。


 これが賃金を得る以上は何を犠牲にしてでも相応の仕事の成果を示す、社会人の鑑。


「いと何となく先ほど食べたンビューの筋が歯の隙間に挟まっている感じよ! 今こそその力を示せ!! とりゃああああ!!」


 セフィリアは僧侶を装わない。

 そもそもバロス・チョロス・ロリでは「鑑定士です」と名乗っているし「画面の前の野郎どもの7割は童貞ですね」と鑑定まで披露しているので、今更僧侶を装っても特に得る者はなく、セフィリアが疲れる。


 が、恰好は未だにお清楚系僧侶か聖女なので、相手は1度に限られるが騙せる。

 どう見ても僧侶なのに、妙な詠唱をしたかと思えば高く飛び上がる。


 僧侶はまず結界とか防壁とか味方の身体強化の加護とかを施して然るべきなのに、初手でセオリーを無視した大ジャンプ。

 メスゴリラーンとウサペロスも当然見上げる。


「あれは何だい? 僧侶? 勇者と僧侶と魔法使いだったろ? 来るの。じゃあ……僧侶? いや、もしかして清楚系の魔法使い? どっちにしろ、支援職があんなに跳ぶ意味は?」

「分かりませんね。ペロペロ。とりあえず僕、舌伸ばしましょうか」


 ウサペロスがペロペロしていた舌を10メートルほど伸ばす。

 マロリが舌打ちをした。


「マジすか!! 触手タイプの敵がいるんなら作戦変えたのに!! 先にセフィリアを絡めとらせてワンカット撮ってたのに!! リサーチ不足だったっすねぇ! もったいねぇっす!!」


 セフィリアが上空で何かを振りかぶりながら抗議の声を上げる。


「わたくしは羞恥心を覚えました!! 見せるのは服の上の膨らみまで!! せいぜい下から覗かれた時のパンツまで!! どうしてまたウネウネプレイされなくちゃいけないんですか!! 行きますよ!! 『簡易な墜星チョロス・コメット』!!」


 伸びて来た舌を器用に躱すセフィリア。

 空中でどうやったのかは分からないが、多分空気の壁を蹴ったとかそういう感じである。


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 投げ飛ばされたのはエリリカ・バロス。

 村娘である。


 ホゲーおじさんから借りている剣を真っすぐに突き立てて、メスゴリラーンに向かってスカイダイビング。

 セフィリアの脳筋魔法という名のガチ投擲による急降下なのでその勢いはすさまじい。


 エリリカが死ぬのではないか。

 当然の疑問である。


 が、ちょっと前に彼女たちが相手にしていた、名も無きぼったくりおじさん。

 彼が使っていた魔法の事を諸君は覚えているだろうか。


 覚えていないだろう。

 彼はぼったくりのためだけに怪鳥が両サイドから引っ張ってもぼろ布が破れないほどの強度を付与できる、強化魔法が使えた。


 チャー城にぶち込む前に彼をマロリがちゃんと脅していたので、エリリカに『マッスル・ドーピング』がかけられているのである。


「てやぁぁぁぁぁ! エリリカアターック!!!」

「ぐぇぇぇ!! いてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 ついにさく裂した、エリリカアタック。

 挨拶代わりにザッコルがペシッとやって以来、長い助走期間だった。



「や、やったぁ! ふぎゅっ!!」


 身体強化がされていても中身は村娘。

 そもそも実戦トレーニングを積んでいないので、ちょっと元気な15歳女子。


 着地がキメられるはずもなく、尻もちをついた。


「あー! いいっすねー!! 大迫力な必殺技からの!! あざといペタン座り!! ただ惜しいんすよ! そこはパンチラ!! できればМ字開脚!! どうせインナーなんすから!! 惜しいんすよ!! ただ! エリリカ頑張ったっすね!! ナイスっす!!」


 バロス・チョロス・ロリの華麗な連携攻撃が淀みなく完了。

 これはもうやったか。


「くそがぁぁぁぁ! むっちゃ痛い!! 私のドレス裂けたし!! うほぉぉぉ!! 頭に来たぞ!! 人間どもぉぉぉ!!」


 ゴリラの外皮は硬い。

 ゴリラの性格は穏やかであるが、攻撃されると防衛本能に火がつく。


 ゴリラは繊細な性格なので、敵を見ると逃げる。

 逃げない場合は敵を殺す。


 メスゴリラーンは逃げない。


 現場からは以上であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る